朝吹
なんか‥‥東京は、鵺(ぬえ)みたいですよね。
辛酸
鵺‥‥。
日本古来の妖怪ですよね?
身体の部分部分が、
それぞれ違う生き物になっている。
朝吹
そうです。
ある角度から見ると鳥のようで、
ある角度から見ると別の獣に見える。
東京も同じように、象徴のものがない
得体の知れない街だなと思います。
どれだけ考えても、よくわからないというか。
私、それで好きな話があるんです。
辛酸
へえ、どんなお話しがお好きなんですか?
気になります。
朝吹
フランスの哲学者の
ロラン・バルトがとても好きでして。
彼が1970年に発表した
『表徴の帝国、記号の国』という著書で、
「東京の街のおもしろさは、
中心を欠いているところだ」と言っていて。
その話がお気に入りなんです。
辛酸
「中心を欠いている」?
朝吹
東京の中心は、恐らく皇居ですよね。
誰からも見られない空虚な空間だと、
ロラン・バルトは言うんです。
つまり中心に実体的なものがない、
中心を欠いている都市だと。
辛酸
たしかに。
そう言われると、そうかもしれないですね。
パワースポットというだけではなく、
中心に森があるというのが
重要なのかもしれませんね。
天皇陛下が皇居内に生息する
タヌキの生態をご研究しているくらいですから、
皇居は異空間ですよね。
朝吹
タヌキは知りませんでした(笑)。
でも、場所の話ひとつにしても、
中心がなく、いろいろなものが
放射的に存在しているのが東京なのかなと。
辛酸
カオスという言葉に
集約されるのかもしれませんが、
キラキラも、サブカルも、
いろんなものが自由に存在していますよね。
朝吹
そうなんですよ。
都築響一さんが、
ユニークな東京の若者のご自宅にお邪魔して、
お写真を撮って『TOKYO STYLE』という
本を出されているじゃないですか。
『東京右半分』とか。
ああいうまとめられない感じも
東京っぽいですし、
私の友だちの「キラキラしたい」感じも、
東京っぽいんですよね。
すべてが雑多に街につめこまれていて、
イメージがひとつに定まらないんです。
辛酸
そうですね。
私はそこが好きですね。
朝吹
私も、好きですね。
辛酸
あの、以前銀座6丁目にあった
老舗デパートの松坂屋の、
すごいゆるい感じが好きだったんです。
高級ブランド店があったと思ったら、
地下には安いパスタ屋さんとか、
和田アキ子さんのカレーパン屋さんとか。
まったくコンセプトなく、
雑多に詰め込まれていて。
朝吹
カレーパンですか(笑)。
たしかにそのラインナップは雑多ですね。
辛酸
昔の、すこしイモっぽいデパートは、
おもしろかったんだなあと
今気付かされていますね。
もちろんGINZA SIXや最新のデパートも
最先端の物が溢れていて、
おもしろい場所ではありますけど、
全部洗練されていくのは
寂しい気がします。
朝吹
どんどん、
洗練、といえるのかわからないですけど、
きれいになってますよね。
東京の街は、
都市計画が場当たりじゃないですか。
異様にきれいなビルの隣に、
ボロボロのビルがあったり。
墓地の近くに、
すごくおしゃれなカフェがあったり、
都市計画がきちんとしていないせいも
あると思うんですけど、
空間設計が場当たり的に進んでいるところが、
東京っぽいと思います。
辛酸
そうですね。
ガチャガチャしていますよね。
情報量が多すぎて疲れるからか、
すぐにカフェで休みたくなってしまいます。
朝吹
ああ、わかります。
まったく揃わない街並みの感じが
汚いんですが、
そのガチャガチャ感がいいんですよね。
辛酸
区によっても全然雰囲気や表情が違うのも
たのしいですよね。
朝吹
辛酸さんはどの区がお好きなんですか?
辛酸
私は下町のエリアが好きで、
長いことそのエリアの中に住んでいます。
夏になるとお祭りばかりあって、
神輿同士の小競り合いをみると
瞳孔が開いてアドレナリン出まくった男性が
かっこよく見えます。
朝吹
下町、いいなあ(笑)。
──
おふたりには事前に、
東京の好きな場所をお教えいただきました。
辛酸さんは、
御茶ノ水の神田明神
丸の内ブリックスクエアの庭園
日本橋三越周辺
と3箇所とも下町エリアですね。
辛酸
そうなんです。
それで、今日朝吹さんにはお土産で。
(ゴソゴソ)
どうぞ、よろしければ。
朝吹
わあ!
ありがとうございます。
なんですか、このキャラクター?(笑)
辛酸
生まれた場所が御茶ノ水なので、
神田明神によくお参りに行っていて、
そこのキャラクターグッズです。
朝吹
神社のゆるキャラですか。
それは珍しいものを。
辛酸
ブリックススクエアや丸ビルもそうですが、
岩崎弥太郎庭園も好きなので、
恐らく三菱系列の
豪華な建物とお庭がある場所が
好きなんだと思います。
(つづきます。)
2017-08-15-TUE
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN