西本 |
映画でいうところの、
中目黒の一軒家で
『東京タワー』を執筆してたんですよね? |
BJ |
そうです。
最終回を書く前には、あの一軒家から引っ越して、
自宅と仕事場を分けてましたから、
最終回だけは、自分の家で一人で書きました。
いつもはだいたい、編集の方やボクたちが
別の部屋で待ってたりする状況で
執筆してたんですけど、
最終回のときだけは、一人で書きたい、と。
それで、最後の最後、
原稿用紙でいうと最後の20枚弱ぐらいで
書けなくなってしまったみたいで。
締切はとうに過ぎていたんですが、
そこからまた何日か過ぎてしまい‥‥。 |
西本 |
終わりのほうの、
独白していくシーンですね。 |
BJ |
もういよいよ締切ギリギリのとき、
僕は、リリーがよく通っている
イタリア料理屋さんで深夜、待機してたんです。 |
西本 |
ああ、なじみのお店ですよね。 |
BJ |
明け方になって、
シェフが特製おにぎりをつくってくれて。
「リリー、おなか空いてるだろ?」って
リリーに電話したら、
普段まず電話が繋がらないんですけど、
そのときは繋がって、
「ああ、助かるなあ」って。
その足でおにぎりを持って
原稿を書いている部屋に行ったんです。 |
西本 |
ああ、あの海の見える。 |
BJ |
窓ガラスの向こう側の海から、
だんだん朝陽が昇ってきて、
太陽が昇っていくのを見ながら、
ふたりでおにぎりを黙って食べて、
じゃあもう書くから、って、
なんか、そういう感じになったので、
ボクは帰りました。
もうマズいですよとか、
締め切りがどうのこうのって
そんなこと、言いたくない空気でした。 |
西本 |
野暮なことは。 |
BJ |
そう、だから
よろしくお願いしますとだけ言って帰りました。
そのあとですね、
残りを一気に書き上げたのは。
その日のお昼ぐらいには、
原稿が全部、届いていましたから。
‥‥でも、いつもはすごく達筆で、
字のきれいな人なんだけど、
最後の10枚ぐらいはね。
字も崩れてたし、
インクで原稿用紙が汚れていて‥‥。 |
西本 |
ああ、泣きながら‥‥。 |
BJ |
もう泣きながら一気に書いてるその姿が
原稿用紙から伝わってきました。 |
西本 |
その原稿、まだあるんですか? |
BJ |
あります。
オカンの仏壇のところに。 |
西本 |
リリーさんは、これを書き上げて、
読み返してみてどうなんですかね。 |
BJ |
本が完成してから、
一度もこの本を開いてないと思います。
全国30カ所以上まわったサイン会では、
3000冊強の本を開いていますが、
サインするためだけの目的なので
表紙しか開いてませんし。 |
西本 |
はぁ、読んでないんですか。
じゃ、連載されていたときと
単行本になったときとで、
内容が変わったとこもなく‥‥。 |
BJ |
はじめは
手を加えるつもりでいたようですが、
最終的には手を加えてないです。 |
西本 |
それは、読めなかったから? |
BJ |
もちろんそれもあるでしょう。
でも、季刊誌での連載でしたから、
その季節季節で、きちんと向き合えて
書けていたと思うんです。
だから、読み返してしまうと、
きりがないというか、
素直に綴っていったことを
大切にしたんだと思います。 |
西本 |
ああ‥‥なるほど。 |
BJ |
文章を書いて、絵を描いて、
写真を撮って、装丁もして。 |
西本 |
扉の題字を書いたのはお父さん。
つまり「オトン」ですよね。 |
BJ |
本が完成したときに、
いままで自分がしてきたことをやり、
題字は父親に書いてもらって‥‥、
はじめて、親子3人でなにかを作った、
という意識があると言ってました。
だから、今までやってきたことをすべて、
この本のなかに
詰め込みたかったと言ってました。 |
西本 |
ああ‥‥。 |
BJ |
単行本のカバーに使用した紙も、
洋菓子の包装紙みたいな、少し高級な感じがして、
おばあちゃんとかが
捨てられずに大事にとっておくような、
そんなイメージの紙を選んだりして。
とにかく、自分にとって大切な本だから、
大切にしてもらえるような本にしたいって。 |
西本 |
‥‥。
<つづきます>
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