勝川俊雄+糸井重里 対談
日本の魚は「世界一」じゃない!?
 
第7回
「誇り」が商品力を上げる。

糸井 これは、ことあるごとに言ってるんですけど
被災地でも、漁業の現場でも、
大事なのは
行ったり来たりする「交通量」だと思うんです。
勝川 そう思います。
いままでの水産の流通も、一方通行でしたから。
糸井 そうですか。
勝川 漁師さんたちは、市場にあげて終わりです。

流通で何段階か通して小売に届きますけど、
中間業者も
川上から川下に情報は流しません。
川の上と下がツーカーになってしまったら
「中抜き」されてしまうので。
糸井 ええ。
勝川 結局のところ「情報」が伝わらないんです。
だから、魚の扱いが雑になります。

乱暴に投げて「打ち身」ができたりとかね。
糸井 ああ‥‥。
勝川 魚の身を開いてビックリしても、
誰が扱った魚なのかもわかりませんから、
「そんな魚を買うほうがバカなんだ」と。
糸井 よくないですね。
勝川 もし、おたがいに顔が見える関係性で
「打ち身」なんてあったら‥‥。
糸井 やっぱり、どんなジャンルでも
商品力を上げるのは「誇り」だと思う。

「俺たちは、そんな商品つくらないぜ」
という、誇り。
勝川 うん、そうですね。
糸井 目先の「10円、20円、30円」は損しても
最終的には
「1000円、2000円」がちがってくる。

誇りって、そういうものですよ。
目に見えないから
勘定には、入れにくいんだけど。
勝川 そういう意味で言うと、今、浜の現場では
生産者が
誇りを持ちづらい状況になっています。

本当にきつい思いをして捕ってきたものが
ひと山いくらで、売られているわけだから。
糸井 どうしたらいいんでしょうね、それ。
勝川 戦後の一時期を考えると
水産のシステムって、合理的だったんです。

足の速い水産物を、
いかに素早く消費者まで分配していくかが
大事だったわけですから。
糸井 ええ、ええ。
勝川 その時代は、人口もどんどん増えて、
国も豊かになっていく途上で
捕れば捕っただけ、高く売れました。
糸井 でも今は‥‥というやつですよね。

そういうときに、たとえば
ノルウェーで高賃金の漁師の生活を見るとか、
うまくいった人たちのことを知ったりして
いいなあと思う気持ちが、
何かを変えるきっかけになるんでしょうか。
勝川 そう思います。

ただ、これまで、日本の漁村というのは
たがいに孤立していたので
「横のつながり」が、なかったんです。
糸井 そうか、成功例はあっても「知らない」んだ。
勝川 ですから、こんどの震災を機会に、
三陸のなかでも
「横のつながり」ができたら、いいなあと。

どこも、同じような課題を抱えているので
連携できたら、おたがいに有益でしょう。
糸井 農業も、そんな感じだったのかなあ。

いや‥‥ぼくね、
「トマトがおいしくなっていった過程」を、
如実に体感してるんですよ。
勝川 へえ、そうなんですか。
糸井 あまり水と肥料をやらないで育てる
「永田農法」の
永田照喜治さんの教え子のところを
回ったことがあって。
勝川 ええ、ええ。
糸井 今は、トマトの水準って
全体的に昔より上がっていると思います。

それ、たしかにトマトの産地は
それぞれ孤立していたかもしれないけど、
消費者が「選ぶ」ことにで、
「モデルケース」になっていったんです。
勝川 そうか、なるほど。「選ぶこと」で。
糸井 長崎のちいさな町を見学したんですけど、
炭鉱が閉鎖されて人口が減った島の
空いている土地で
トマト栽培をはじめた人がいたんです。

で、そのトマトが本当においしくて。
圧倒的に高いけど、いちばん売れてました。
勝川 ブランドですね、それこそ。
糸井 そうそう、ネーミングがどうだというのを
人真似でやる以上に、
やっぱり「おいしい」のが強いんだなあと。
勝川 おいしかったら、
それだけで、きちんと差別化されますよね。
糸井 うん、同じことは「魚」でもできると思う。
勝川 ひとつ問題点があって、
農業の場合、
生産者自身が流通ルートを開拓できますが、
漁業の場合って
そこのハードルがものすごく高いんですよ。
糸井 その理由って、何なんですか?
勝川 やはり「生もの」というのが、いちばん。

まず、衛生面での許認可が必要ですし、
クール便は「送料」が高いです。
ご祝儀で1回は買えても、
なかなか「毎回」というわけにもいかない。

あるていどの規模の「飲食」がやらないと
なかなか割に合わないんです。
糸井 なるほど‥‥そうか。
勝川 既存の市場流通を通ってしまうと
まったく「顔」が見えなくなってしまうから
「ブランド」になりません。

Aさんのつくったおいしい牡蠣が、
共同販売で「宮城県産の牡蠣」に混ぜられて
ひと山いくらで売られてしまう。
糸井 うん、うん。
勝川 そうすると、
たまたま「Aさんの牡蠣」に当たった人が
「この牡蠣、うまいね」と思っても、
また次に「Aさんの牡蠣」を食べることは
まあ、できないわけです。
糸井 工夫したり考えたりしてる人はいるけど、
「突破した」例にまでは
まだたどりついてないということですね。
勝川 成功している人も、いらっしゃいます。

気仙沼・唐桑の畠山さんの牡蠣なども
ブランドを築いて
「自分で売る」までいってますから。

でも、それって
「エースで4番」みたいな人なんです。
糸井 なるほどね。
勝川 他の一般的な漁業者が取り組んでも
「いいもの」であれば
きちんと評価されて収入に結びつくような
そういう仕組みができるといいな、と。
糸井 その一方で、
まずは「エースで4番が走るしかない」とも
思うんです。

突破して、モデルケースになるって意味で。
勝川 うん、そうですね。

そのときに、
魚を捕る技術や養殖をする技術と、
水産物を販売する技術というのは、
ぜんぜん、ちがうので‥‥。
糸井 ええ、ちがいますね。
勝川 両方を一人の人がやるのは
ちょっと、むずかしいかなとは思います。
糸井 だから
そういうことが得意な人と漁師さんとが
チームを組むべきですよね。
勝川 はい。市場の動きの見えている人が
「今、消費者が高く買ってくれる、
 こういう商品つくろう」
と、生産者に提案していくかたちですね。
糸井 そして、生産のプロは、
腕をふるって、本当にいいものをつくる。
勝川 うん、うん。
糸井 三次産業と一次産業がチームを組んだら
すぐにはじめられることって
もう、いくつも思いつきますよね。
勝川 はい。
糸井 そして「うまくいったモデルケース」を、
どれだけつくれるか。

それが、すごく重要なことだと思う。
勝川 はい。目に見える成功事例があれば
「あ、自分もやってみたいな」と思います。

だから、まずは「エースで4番」が
新しいモデルをつくり、
その後、他の漁業者も乗れるような形で
広がっていくのが理想ですね。

<つづきます>
2014-06-24-TUE
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