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糸井 |
これは、ことあるごとに言ってるんですけど
被災地でも、漁業の現場でも、
大事なのは
行ったり来たりする「交通量」だと思うんです。
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勝川 |
そう思います。
いままでの水産の流通も、一方通行でしたから。
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糸井 |
そうですか。
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勝川 |
漁師さんたちは、市場にあげて終わりです。
流通で何段階か通して小売に届きますけど、
中間業者も
川上から川下に情報は流しません。
川の上と下がツーカーになってしまったら
「中抜き」されてしまうので。
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糸井 |
ええ。
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勝川 |
結局のところ「情報」が伝わらないんです。
だから、魚の扱いが雑になります。
乱暴に投げて「打ち身」ができたりとかね。
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糸井 |
ああ‥‥。
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勝川 |
魚の身を開いてビックリしても、
誰が扱った魚なのかもわかりませんから、
「そんな魚を買うほうがバカなんだ」と。
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糸井 |
よくないですね。
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勝川 |
もし、おたがいに顔が見える関係性で
「打ち身」なんてあったら‥‥。
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糸井 |
やっぱり、どんなジャンルでも
商品力を上げるのは「誇り」だと思う。
「俺たちは、そんな商品つくらないぜ」
という、誇り。
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勝川 |
うん、そうですね。
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糸井 |
目先の「10円、20円、30円」は損しても
最終的には
「1000円、2000円」がちがってくる。
誇りって、そういうものですよ。
目に見えないから
勘定には、入れにくいんだけど。
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勝川 |
そういう意味で言うと、今、浜の現場では
生産者が
誇りを持ちづらい状況になっています。
本当にきつい思いをして捕ってきたものが
ひと山いくらで、売られているわけだから。
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糸井 |
どうしたらいいんでしょうね、それ。
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勝川 |
戦後の一時期を考えると
水産のシステムって、合理的だったんです。
足の速い水産物を、
いかに素早く消費者まで分配していくかが
大事だったわけですから。
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糸井 |
ええ、ええ。
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勝川 |
その時代は、人口もどんどん増えて、
国も豊かになっていく途上で
捕れば捕っただけ、高く売れました。
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糸井 |
でも今は‥‥というやつですよね。
そういうときに、たとえば
ノルウェーで高賃金の漁師の生活を見るとか、
うまくいった人たちのことを知ったりして
いいなあと思う気持ちが、
何かを変えるきっかけになるんでしょうか。
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勝川 |
そう思います。
ただ、これまで、日本の漁村というのは
たがいに孤立していたので
「横のつながり」が、なかったんです。
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糸井 |
そうか、成功例はあっても「知らない」んだ。
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勝川 |
ですから、こんどの震災を機会に、
三陸のなかでも
「横のつながり」ができたら、いいなあと。
どこも、同じような課題を抱えているので
連携できたら、おたがいに有益でしょう。
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糸井 |
農業も、そんな感じだったのかなあ。
いや‥‥ぼくね、
「トマトがおいしくなっていった過程」を、
如実に体感してるんですよ。
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勝川 |
へえ、そうなんですか。
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糸井 |
あまり水と肥料をやらないで育てる
「永田農法」の
永田照喜治さんの教え子のところを
回ったことがあって。
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勝川 |
ええ、ええ。
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糸井 |
今は、トマトの水準って
全体的に昔より上がっていると思います。
それ、たしかにトマトの産地は
それぞれ孤立していたかもしれないけど、
消費者が「選ぶ」ことにで、
「モデルケース」になっていったんです。
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勝川 |
そうか、なるほど。「選ぶこと」で。
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糸井 |
長崎のちいさな町を見学したんですけど、
炭鉱が閉鎖されて人口が減った島の
空いている土地で
トマト栽培をはじめた人がいたんです。
で、そのトマトが本当においしくて。
圧倒的に高いけど、いちばん売れてました。
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勝川 |
ブランドですね、それこそ。
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糸井 |
そうそう、ネーミングがどうだというのを
人真似でやる以上に、
やっぱり「おいしい」のが強いんだなあと。
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勝川 |
おいしかったら、
それだけで、きちんと差別化されますよね。
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糸井 |
うん、同じことは「魚」でもできると思う。
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勝川 |
ひとつ問題点があって、
農業の場合、
生産者自身が流通ルートを開拓できますが、
漁業の場合って
そこのハードルがものすごく高いんですよ。
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糸井 |
その理由って、何なんですか?
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勝川 |
やはり「生もの」というのが、いちばん。
まず、衛生面での許認可が必要ですし、
クール便は「送料」が高いです。
ご祝儀で1回は買えても、
なかなか「毎回」というわけにもいかない。
あるていどの規模の「飲食」がやらないと
なかなか割に合わないんです。
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糸井 |
なるほど‥‥そうか。
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勝川 |
既存の市場流通を通ってしまうと
まったく「顔」が見えなくなってしまうから
「ブランド」になりません。
Aさんのつくったおいしい牡蠣が、
共同販売で「宮城県産の牡蠣」に混ぜられて
ひと山いくらで売られてしまう。
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糸井 |
うん、うん。
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勝川 |
そうすると、
たまたま「Aさんの牡蠣」に当たった人が
「この牡蠣、うまいね」と思っても、
また次に「Aさんの牡蠣」を食べることは
まあ、できないわけです。
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糸井 |
工夫したり考えたりしてる人はいるけど、
「突破した」例にまでは
まだたどりついてないということですね。
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勝川 |
成功している人も、いらっしゃいます。
気仙沼・唐桑の畠山さんの牡蠣なども
ブランドを築いて
「自分で売る」までいってますから。
でも、それって
「エースで4番」みたいな人なんです。
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糸井 |
なるほどね。
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勝川 |
他の一般的な漁業者が取り組んでも
「いいもの」であれば
きちんと評価されて収入に結びつくような
そういう仕組みができるといいな、と。
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糸井 |
その一方で、
まずは「エースで4番が走るしかない」とも
思うんです。
突破して、モデルケースになるって意味で。
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勝川 |
うん、そうですね。
そのときに、
魚を捕る技術や養殖をする技術と、
水産物を販売する技術というのは、
ぜんぜん、ちがうので‥‥。
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糸井 |
ええ、ちがいますね。
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勝川 |
両方を一人の人がやるのは
ちょっと、むずかしいかなとは思います。
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糸井 |
だから
そういうことが得意な人と漁師さんとが
チームを組むべきですよね。
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勝川 |
はい。市場の動きの見えている人が
「今、消費者が高く買ってくれる、
こういう商品つくろう」
と、生産者に提案していくかたちですね。
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糸井 |
そして、生産のプロは、
腕をふるって、本当にいいものをつくる。
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勝川 |
うん、うん。
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糸井 |
三次産業と一次産業がチームを組んだら
すぐにはじめられることって
もう、いくつも思いつきますよね。
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勝川 |
はい。
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糸井 |
そして「うまくいったモデルケース」を、
どれだけつくれるか。
それが、すごく重要なことだと思う。
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勝川 |
はい。目に見える成功事例があれば
「あ、自分もやってみたいな」と思います。
だから、まずは「エースで4番」が
新しいモデルをつくり、
その後、他の漁業者も乗れるような形で
広がっていくのが理想ですね。
<つづきます> |