あらためて、福田利之さんのこと。
読者のみなさんにはすっかりおなじみ、
イラストレーターの福田利之さん。
今回あらためて、お時間をいただいて、
インタビューさせていただきました。
そしたら、まだまだ、いろいろと、
知らないことがありました。
たとえば、福田さんのお父さんのこと。
著名なカメラマンで、
あの上田義彦さんのお師匠だったって、
ご存知でした?
福田利之さんのイラストと人の魅力が、
あらためて伝わったらと思います。
担当は「ほぼ日」奥野です。
福田さんへは、初インタビューでした。
このインタビューは、2018年4月〜5月に
武蔵野市立吉祥寺美術館で開催された
『福田利之展|吉祥寺の森』会場で収録させていただきました。
第2回
人が可能性を広げてくれる。
──
お願いされたお仕事を打ち返すときって、
まずは「さて、どうしよう」と?
福田
基本は、僕の何かをごらんになってから
依頼をしてくださるので、
どういう感じが求められているのかは、
なんとなく、わかるんです。
──
あの、福田さんのお仕事のカタチって、
本の装画もあれば、
CDジャケットもあれば、
手帳カバー、タオル、カレンダー、絵本、
お店やブランドのロゴなど、
種類が、すごく多岐にわたってますよね。
写真
福田
そうですね、ありがたいことに。


ずっと同じことばっかりやってても
飽きちゃいますし、
自分も退化していくだけなので、
いろんなことに挑戦させてもらえるのは、
本当に、ありがたいです。
──
絵を描く人って、
まずは「自分の表現」なんだろうなあと
思うんです。


でも、イラストレーションの場合って、
同時に「依頼主」もいますよね。
どんな感じでしょうか、そのあたりは。
福田
イラストの場合、自分は当然大事ですが、
それと同じくらい、
依頼してくださる人が重要だと思います。
──
それは、
その人がいなければその仕事がなかった、
という以上の意味で?
福田
もちろんです。


ようするに、イラストレーションって、
依頼くださった人の企画したモノやコトを、
「最終的に、どうしたいのか」
というところへ導くものだと思うんです。
写真
──
なるほど、たしかに!


いい感じのロゴをつくってもらった瞬間に、
「ああ、このコンテンツは、
 こういうことだったんだなあ!」
と納得するようなことがあります、自分も。
福田
と同時に、
自分の絵の幅や可能性を広げてくれるのも、
依頼してくれる人なんです。


たとえば気仙沼のアンカーコーヒーさんの
コーヒーのパッケージは、
それまで全然やったことのない技法でした。
──
マスキングテープで絵を描いたんですよね。
写真
福田
あのときは、ご依頼くださった糸井さんが
「マステで描いてみたら」って。


最初は、なんでいつもの自分の絵で、
描かせてもらえないのかなと思ったんですが、
やってみたら、すごくおもしろくて。
──
あ、そうだったんですか。


福田さんの作風にピッタリの技法ですから、
てっきり「得意技」だったのかと。
福田
ちがうんです、ぜんぜん。


そこが糸井さんのすごいところだし、
依頼してくれる人のありがたいところだし、
そういう意味で、
お題を投げてくださる方には、
自分の可能性を広げていただいてるんです。
──
それは、たしかに「重要人物」ですね。
福田さんにとって、依頼をしてくれる人って。


でも、やったことのない技法って、
自分にできるかなあと、思いませんでしたか。
福田
アンカーコーヒーさんのときは、
とにかく、悩んでる時間すらなかったんです。


オファーをいただいた2日後に気仙沼に行き、
まる1日かけてあちこち回って、
帰って来て、たぶん2~3日でつくりました。
──
え、2~3日? それで、あの出来栄え。


たしかに急ぎのプロジェクトでしたけど、
やっぱり「打ち返し力」が、すごい。
福田
そんなことないんです。
いろんなことが、うまく行ったんです。
──
絵を描く技術って、
日々、どんどん上がっていきますよね。


毎日毎日、描いていたら。
福田
そうでしょうね。
──
すでに「自分の絵」を確立している
福田さんみたいな人も、そうなんですかね。
福田
たぶん、そうだと思います。


でも絵って、うまく描ければいいだけでも
なかったりするとは思います。
写真
──
と、言いますと?
福田
少なくとも僕の絵の場合は、
少しくらい「抜けてる」ほうがいいと思う。


僕は、放っておくと
「細かく、きちんと、神経質に」
描いてしまいしがちなので、
そのへんが、もう少し緩んできたら、
もっとよくなるのになあって思っています。
──
緩む。
福田
引き算、って言うんですかね。
──
それも「うまくなるうち」なんですね。
福田
そうだと思います。
──
葛飾北斎が、90歳を超えてまで
「もっと時間がほしい、技術がほしい」
と言ってたって話がありますが、
絵描きの人って、
けっこう年齢を重ねても現役というか。
福田
ああー。たしかに。
──
画家の展覧会に行っても、
「最晩年の作品」が飾ってありますが、
お歳を召しても、
がんばれる職業だなあって思うんです。


横尾忠則さん、宮崎駿さん、
フレデリック・バックさん‥‥。
福田
そうかもしれないですね。
──
歳をとってから、
まったく新しい挑戦をはじめたりとか。


熊谷守一さんの作品の
「赤い輪郭線」という大きな特徴も、
50歳とか60歳以降に、
やりはじめたことなんだそうですね。
福田
ああ、そうなんですか。
──
あの「ターナーの汽罐車」で有名な
ターナーさんなんかも、
最晩年は、
なんか「光そのもの」を描いたような
抽象画にたどり着きますし。
福田
僕たち絵描きの場合、衰える身体を‥‥
つまり、目が見えなくなってくるとか、
耳が聞こえなくなるとか、
そういった身体の衰えを逆手にとって、
マティスみたいに、
えらい抽象画に移行することもあって。
写真
──
なるほど、逆に「武器」にして。
福田
そのときどきの自分の中にあるものを、
そのまま表へ出す、
表現することのできる仕事なんです。


だから、歳をとったときには、
歳をとったなりのものを出せるのかな。
──
ちなみに福田さんの若いころの絵って、
どんなふうだったんですか。
福田
これとか、20代前半の絵ですよ。
写真
──
わあ。‥‥これは福田さんですか?
福田
ちがいますよ。そんなわけないでしょう。
──
今とくらべると、雰囲気が‥‥。
福田
いちびってる感じありますね。
──
いちびってる?
福田
何ていうんですか、調子こいた感じ?
──
こいてますか。調子。
福田
こいてますね。
──
さっきおっしゃっていた、
「そのときの自分のなかのものが表に出る」
という話でいうと、
つまり、このサカナのような生物が、
当時まだ20代の
福田さんの中に泳いでいた‥‥んですかね。
福田
いや、うん、まあ。そうですね。
そう言われるとアレなんですけども。はい。
<つづきます>
2018-08-31-FRI
ほぼ日ホワイトボードカレンダー2019
ファイルポケットつき
のイラストも、福田利之さんのお仕事。
写真
ほぼ日ホワイトボードカレンダー2019では
卓上版を全面リニューアルしました。
何度も書いては消せるメッセージボードに、
紙片などを収納しておける
機能的なポケットを、組み合わせたんです。

【ファイルポケットつき】
という名前で、生まれ変わりました。
でも、他にない機能を備えた卓上版ですが、
やっぱり見ためも「うれしく」したい。
そこで、福田利之さんです!
すてきなイラストを描いていただきました。
森の仲間たちがカレンダーを彩ります。
ぜひとも、ごらんになってみてくださいね。