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塚越 |
ぼくらは、機械にくわしい人しか使えない、
ボタンばかりというイメージだったDVDプレイヤーの
とっつきやすいものをつくろう、
ということで、メーカーの船井電機に相談に行きました。
それはただ単に「白雪姫」というひとつのDVDを売る
広告とはちがう意味を持つものでした。
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糸井 |
製造してくれることになった船井電機の社長が
「いま、糸井さんが来て、
子どもでもお母さんでも使えるDVDを
つくるっちゅうことになったんや!」
と、大阪の工場に電話してくださったんだよね。
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塚越 |
そうそう、ぼくらがいる前でね。
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糸井 |
当時はボタンが多ければ多いほどいいと思われてたけど、
ぼくらのつくるDVDプレイヤーは、
ボタンの数を最低限にしました。
▲こんなDVDプレイヤーでした。
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塚越 |
そう。
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糸井 |
メーカーの社長に
「ボタンを減らしたいんだ」
と言ったら、すぐにそのとおりだと言ってくれました。
そして、その瞬間から「電卓」が排除された。
つまり、いくらかかるかなんていうことは
あとで考えましょう、
ということになったんです。
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塚越 |
DVDを売らなきゃいけないことから
話がはじまったのに、
DVDプレイヤーの話になって、
メーカーの人も「お金はいったん置いて」
考えることになりました。
すべての人のめざすものがひとつになったからね。
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糸井 |
「とにかくつくりましょう」ということで一致した。
リモコンはミッキーの形にして‥‥。
結局、売価はいくらでしたっけ?
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塚越 |
1万円台でした。
2万円は切ってたと思います。
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糸井 |
いくらそんなプレイヤーをつくったって、
よく考えたらほかのDVDも見られるわけだから、
競合に対しても有利になっちゃう話です。
ああいうことをやるときは
「やめましょう」ぐらいのことを
言う人だっているんだよ。
でも、あのプロモーション全体で
「それをやるのが、ディズニーじゃないか」
ということを言いたかったんです。
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塚越 |
「みんなが喜んでくれるなら、ぼくらはやりまっせ」
という感じになって。
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糸井 |
そしてこれは、ぼくにとっても
じつはそうとううれしいことだと
途中から気づきはじめました。
なぜなら、そういうことは
広告ではできない世界だったからです。
つまり、一段飛ばしで商品をつくっちゃって、
それを広告する、という逆の手順です。
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塚越 |
そうなんですよね。
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糸井 |
はたしてあれがうまくいったかどうか、
数字でどう判断されたかわからないけど、
少なくとも
「ディズニーがこういう姿勢でいる会社で、
これから、自分たちが出すソフトについて
どう取り組みたいか」
を演説みたいに示すことができたと思います。
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塚越 |
まさにそういうことですね。
しかも、よく考えたら、
ディズニーとしては、ああいう商品は
世界ではじめてですよ。
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糸井 |
ハードをつくったってこと?
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塚越 |
そうです。
画期的な出来事だったんですよ。
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糸井 |
社内で怒られはしなかったんですか?
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塚越 |
うん、あの‥‥。
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糸井 |
‥‥ちょっとなんか
いま、グズグズしましたよね。
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一同 |
(笑)
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塚越 |
はい(笑)。
たいていの人が、いちどは
「やめたほうがいい」と心配してくれました。
当時いちばんえらい人は、
アイズナーさんだったのですが
(マイケル・アイズナー
1984年から2005年まで
ウォルト・ディズニー・カンパニー最高経営責任者)
彼がたまたま日本に来たとき
DVDプレイヤーの話を聞いて、
「これはすばらしい!」と言ってくれました。
そうしたら、なぜか
いままで反対してた人たちも、ドドドッと
「よかったね」と言ってくれまして。
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糸井 |
なるほど。
いや、わかります。
そういうこともあったでしょう。
運もよかったですね。
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塚越 |
運もよかった。
あれを達成するには、
すごい量の協力者がいたわけです。
もちろんDVDをつくってくれた船井電機という、
あの社長がいなければできなかったし、
社内でもアメリカ本社から
何人かが協力してくれなかったら、
到底成し遂げられない難しいことでした。
たまたま、そういう人たちがいてくれたから
達成できたと思います。
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糸井 |
あのとき、ぼくは
「いったい何の仕事を
頼まれてたんだっけ?」
ということさえも、よくわかんなくなっちゃってました。
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塚越 |
ありゃ、広告じゃないですよね。
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糸井 |
広告じゃないですねぇ。
あそこで癖がついちゃったから、
塚越さんとやることはぜんぶ、
そのパターンになっちゃいました。
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塚越 |
ぼくもそうじゃないとイヤだ、
みたいになっちゃってね。
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糸井 |
ソリューション屋になっちゃった。
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塚越 |
そうそうそう(笑)。
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糸井 |
たとえば『ハウルの動く城』の
DVDのプロモーションをやったときは、
要らなくなったフィルムが
いっぱいあるのを知ってたから、
それをちぎってアクリルに入れて、
DVDのおまけにつけたんだよね。
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ハウルの動く城
ブルーレイ・DVD 好評発売中
(C)2004 二馬力・GNDDDT
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塚越 |
フィルムをみんなで分けて
『ハウルの動く城』を所有しようというコンセプトです。
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糸井 |
いまだと映画館でもデジタルで放映してたりしますが、
あのときは、フィルムが終わる
フィナーレみたいな時代でしたよね。
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塚越 |
アナログ時代の最後の象徴みたいなものです。
そういう意味で、
フィルムという「モノ」をシェアするという考え方は
とても貴重でした。
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糸井 |
アクリルに閉じ込めて。
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塚越 |
いまだに大事にしてくれている人もいます。
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糸井 |
そのときも同じだったんだけど、やっぱり
いざやるとなると、
「こういう問題が起こるんじゃないか」的なことが
山ほどあるんですよ。
ひとつはコストです。
普通に考えたら、これ、
「1個つくるのに300円、400円、かかりますよ」
ということになってしまう。
だって、江の島のおみやげ屋さんで、
カニの入ったアクリルのキーホルダー、
いくらで売ってる?
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塚越 |
タツノオトシゴとかカニの入ったアクリルね。
それはもう1000円はするでしょ。
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糸井 |
ですよね。
それをひとりひとり、ちがうフィルムを入れて。
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塚越 |
プレゼント。
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糸井 |
「ぼくはハウルのシーンがいい」
と言ってる人にだって
おばあさんのフィルムが渡るかもしれない。
とにかくいろんな問題がある。
だけど、塚越さんとは
「やること全体をどう思いましょうか」
というミーティングができたんです。
それはたまたま塚越さんと知り合ったのが先なのか、
よくわからない関係で。 |
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(つづきます) |
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2014-02-20-THU |