Hobo Nikkan Itoi Shinbun
ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン ゼネラルマネージャー塚越隆行さん✕糸井重里 対談
第4回 仕事の根っこを広げる言葉。
塚越 糸井さんに相談したいことというのは、
つまり──また、DVDのことだったんです。

これまで、
VHSの時代があり、ベータやレーザーディスクがあり
DVDの時代になりました。
そのあと、ブルーレイなんていうのも出た。
消費者側目線で言えば、
そういった「フォーマット」が
いくつもいくつも出てきていいのか、
ということにもなりますね。

糸井 その都度、買い替えないといけないし
ややこしいですね。
塚越 しかも、ゆくゆくはすべて
「クラウド」に移行していくでしょう。
インターネットの「クラウド」技術が進化していくと、
いつでもどこでも作品を見ることが
できるようになります。
そうなったときに、
いつまでも同じような売り方をしていていいのだろうか。
DVDなどの「パッケージ」と呼ばれるものが、
売りづらい世の中にもなってきているし、
そういう中で、ぼくらは
変わるべきじゃないかと思いまして。
そこで、ちょっと考えていることを
糸井さんに相談したくなって、連絡したんです。
糸井 そんな話、
「ソリューション」つったって、
あまりにもでかい話ですよ。
まずはただ「ハァ~」と思って聞いていました。

塚越 ぼくがそのとき考えていたことというのは、
これまでの販売形態としてメインだった
「パッケージ」と、
「デジタル」と言われているものを
くっつけちゃおうという考えでした。
DVDやVHSとかブルーレイという言い方ではなくて、
「ひとつの作品でひとつの商品」という考え方です。
つまり、購入すれば、その作品のぜんぶがついてくる。

しかも、その作品が
いろんなハードで見られるというだけじゃなく、
その作品にまつわる情報やエンターテイメントも
セットされている商品にするのです。

そんなことは、いままで誰もやったことないし、
非常にわかりづらいし、難しい。
どうしましょう、
ということで糸井さんのところに来ました。

宣伝のことを考えるとき、
いつもぼくの中では、やっぱり基本は
「映画を好きになってもらう」
というところが重要になってきます。
今回も、話はハードウェアのことなんですが、
「映画はおもしろい」と思ってもらえるように、
どう伝えていったらいいかが重要でした。
糸井 うん、そこだよね。
塚越 だけど‥‥糸井さんは、
いまぼくが言ったようなややこしいことをまとめて、
ポンとひと言で表現してくれました。
また、ひと言よ?
しかも、カレーを食べながらよ?

糸井 安くてサラダもついてるカレーです。
塚越 口を動かしながら、こう言った。
それは
「キャラクターが、みんなに会いたがっている」
という言い方でした。
ぼくがずっと、
「どんなふうに言えば
 宣伝的にも社内的にも
 この企画をまとめられるだろうか?」
と、思い悩んでいたことを
みごとにあらわしている言葉でした。

映像作品と、そのキャラクターは
いつでもどこでも
消費者と接点を持ちたがっている。
それがこのあとの
エンターテイメントの形になってくるのです。
「キャラクターが、みんなに会いたがっている」
ぼくはまさに、そういうことを
つくろうとしていたわけですよ。
糸井さんからそれを、教えてもらうことになりました。

どんなフォーマットでも見られる、
もっと楽しむための情報を手に入れることができる。
それは「観る側」がいつでも
映像作品に触れることができるということなんですが、
「ひっくり返しのことだね」と
糸井さんはおっしゃったんです。

「みんながキャラクターたちに会える」んじゃなくて
「キャラクターたちがみんなに会いたがってるんです」
と。そのほうが、ぼくがつくろうとしてる
コンテンツの言い方として、完全に的を射ていました。

糸井 ぼくはまず、なんといっても
ディズニーのことを、
遠くからではありますが、
尊敬しているところがあります。
ふだん、よく冗談で『「ほぼ日」のライバルだ』とか
言ってるけど、やっぱりすげえなと思っています。
それはなぜかといえば、
ディズニーはこれまでずっと
コンテンツをつくってきたからです。

洗濯機をつくってた会社が
コンテンツもやっている、というんじゃなくて、
コンテンツをつくってきた会社として、
ずぅっとコンテンツをつくりつづけています。
好き嫌いや出来不出来はあるかもしれないけど、
いろんな仕掛けをどうこういう前に、
まずコンテンツが魅力的だよ、ということを
見せて、実現してきた会社です。
ディズニーは、ほかの会社とそこが違うと思う。

マーケティングして
「あたるからこれをつくろう」ということなんかよりも
ずっと前の時点から、今日まで、
ミッキーマウスはいるわけです。
ミッキーがどのくらい大事か説明ができるくらい、
大事にされている。
ディズニーランドでも、
「いま世界中にミッキーはひとりしかいません」
という状況を物理的に守っていますけれども、
そのことも、
コンテンツを大事にしていることのあらわれですよね。

こんなにコンテンツを
大事にしてきた会社がある。
そのことへの、ぼくなりのリスペクトがあります。
それ、塚越さんは、
もっとわかったほうがいいよと思った。

塚越 ぼくはもう、
ビジネスのメリットとか
そういうことばかり
頭に置くように訓練してるから(笑)。
糸井 あと、塚越さんは、企画を通すための
「人を説得するための材料」も集めてるからね(笑)。
塚越 そうです。
ソフトのいいところを広めるための資料をつくったり
方法を考えたりしているわけだけど、
ソフトそのものについての発想が
足りていなかったわけです。
それを糸井さんに、ひと言でバーンと言ってもらって、
そのとおりだなと思いました。
糸井 塚越さんも、ディズニーの会社のみなさんも、
いいコンテンツが山ほどあるという状況が
ずーっとつづいてるから
あたりまえになっちゃってるんですよ。
塚越 そうですね。
糸井 いいコンテンツだからこそ
何度でもみんなが
『ピノキオ』を観てくれるわけです。
塚越 ぼくらは、アメリカでできたソフトを
VHSやDVDやブルーレイに固めて
人びとに渡すという商売をやってきていたから、
そのあたりのことが
わからなくなっている可能性があります。

糸井さんが言ってくれた
「キャラクターたちが会いにくる」という部分は
完全にソフトの力です。
そこをぼくらは、もっとねばって考えて
やんなきゃいけないんですよ。

そこからはじめて
「どうやったら楽しい環境をつくれるか」や
「どういう場所でコミュニケーションできるか」を
考えていくのが、次のぼくらの仕事のステージです。
そこを含めて、糸井さんのひと言には入ってる。
もう、カレー屋さんで、「これだー!」と思って。

糸井 うん、うん。
塚越 それまでいろんなこと考えきった
つもりだったんだけど、
「キャラクターが、みんなに会いたがっている」
という言葉を聞いたら、
ぼくはできることがもっとあると気づいた。
自分たちの仕事が広がったわけです。

会社のみんなにも
「そこに仕事がたくさんあるから、
 俺たち、もっとできるぜ!」
と伝えることができました。
作品は、もっとみんなに
かわいがってもらえる、楽しんでもらえる。
そしてぼくらは、そのやり方を発見できる。
糸井さんは、あの言葉で
仕事の根っこのところを広げてくれたんですよ。

(つづきます)
2014-02-24-MON
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