Hobo Nikkan Itoi Shinbun
ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン ゼネラルマネージャー塚越隆行さん✕糸井重里 対談
第7回 クラブ活動的なメンバー。
糸井 塚越さんがカレー屋さんに
相談に来たときから、
いったい何か月経ってるんでしょうか?
塚越 9月25日が
MovieNEXを発表したコンベンションだったから、
糸井さんにお会いしたのは
7月か8月だったでしょうね。
その場でスタッフにすぐ電話しました。
「ツリーハウスとMovieNEXですか?
 なんだかよくわからない」
という反応です。

糸井 そりゃ、わけわかんないでしょう。
塚越 話していたぼくらは
「しっぽ」をつかんでるかもしれないけど、
みんなには、しっぽのかけらも
見えないままですからね。
糸井 それで、「ツリーハウス1号」の着工と
MovieNEXの発売が
11月ですからね。
このややこしい話を、
変化しかけたディズニーのような組織に
すばやく持っていけるようになったというのは、
すごかったですね。
塚越 それはもう、いいきっかけだったと思っています。
糸井 おもしろいなぁ。
このことは、塚越さんの会社のみんなにも、
うちの会社の乗組員にもおもしろいと思います。
おもしろいところで組めているからおもしろい。
仕事としても、「そっち側」を知りたくて
しょうがなくなります。

塚越 そうですよね。
糸井さんが説明してくれたいまの部分は、
うちのスタッフも、腹に落ちると思う。
だけど、全員がすぐに
「落ち切れる」かというと、そうじゃない。
糸井 はい。弱点があるのはわかっています。
「どこでどう稼ぐんですか?
 ビジネスモデルを教えてください」
と言われることです。
しかも、ものすごく大急ぎで教えてください、と
言われます。
いつもそれがついてまわってきます。
少なくとも、これまではそうでした。

しかし「この先、こっち側に行くね」ということさえ
わかっていれば、ビジネスモデルというのは、
あとで自分たちでつくっていくことができるのです。

重要なのは、やる、まわしていく、
つくったものをメディアのように使って
遊んでいくことです。

儲かるとわかってることなんだったら、
すでにみんながやってるでしょうからね。
そういうプロジェクトの描き方だと
「いくらかけたの?」「儲けはどれだけ?」
という、リスクとの天秤計算だけで
話が終わってしまいます。

だけど、塚越さんたちとぼくらが
やろうとしていることは、例えば
コストをかけなくても効果はあるわけです。
そう考えたとき、
「ビジネスモデルを教えてください」型の人には、
「まあ見ててください」と言うしかない。
塚越 言うしかない。
糸井 MovieNEXというものは
「映像作品はパッケージ商品になるのがあたりまえ」
と思っている人にとっては、
わけのわからない商品です。
塚越 MovieNEXというものを転がしていくことで
いちばん楽しいのは、
『ピノキオ』のDVD購入特典だった
金平糖を作ってくれた会社「エビス堂製菓」のような
存在が出てきてくれることなんですよ。
パートナーが増えていってくれることが
ぼくらの血となり、肉となっていくんです。
ぼくらは、自分たちではなんにもできないですから、
パートナーができると、
もっともっと膨らんでいく。

糸井 そうなると、おそらく社内に、
もっと手足を動かす人がいるといいですね。
プロデュース業にまわっちゃって、
動く部分は代理店に任せることになると、
ちょっと弱くなってしまう。
塚越 そうですね。
糸井 たとえば、組織の中に
クラブ活動的な、武骨な感じがあるといいですね。
会社にいる人たちが、
たとえ片手間でもいいから
地に這うようにやりたいことを自分の手でやれば
おもしろいと思うんです。

例えば、CSR(企業の社会的責任)事業を
イヤイヤやっている人たちはいっぱいいます。
だけど、義務でCSRなんて、できっこないですよ。
ほんとうは動機とビジネスが
ちゃんと表裏一体になって動いてないと
うまく機能しないと思います。
塚越 そういうことが考えられるかどうかが、
今後の企業の分かれ道になるでしょうね。
糸井 CSRを、
自分たちの手足を使って本気で展開すれば、
会社も力がつくし、
人がこっちを向いてくれるようになります。

これまでは、
「ブランドとして、この会社のもののほうが
 価値がありそうに見えるから」
と、いわば損得で
人はものを買うと考えてきました。
しかしいまは
「この会社とつきあいたいから」
「応援したいから」
という気持ちに切り替わってきているのでは
ないでしょうか。
ある意味で懸命になって
手足を使って取り組む人がいる会社とそうでない会社では、
全く違ってくると思います。
塚越 おそらく商品も株式も
そういう動きになっていくでしょう。

(つづきます)
2014-02-27-THU
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