第3回「誰でも75点までは取れる」

たとえばオーディションに受かった女の子たちに
きちんと説明できることを説明して
最低限、ここをこうすればよくなるよ、って
つんく♂さんは教えていきますよね。
はい。
それをつんく♂さんは、自分に対しても
やってきたんじゃないかと思うんです。
自分にもやってきましたね。はい。
だとすると、
かなり小さい、物心ついたようなころから、
自我みたいなものよりも
法則に準じてきたということですよね。
法則?
うん、つまり、
「腕をこう上げたほうが速く走れる」とか
「マイクの高さをこうしたほうが
 うまく歌える」とか。
自分がこうしたいっていうよりも、
「こうしたほうがいいぞ」という
事実とか真実について興味を持っている。
うん、うん。
それって、別の言い方をすると、
どこかで自分を捨てている
ということでもあると思うんです。
つまり、こういうフォームで打てば
打球が遠くへ飛ぶぞって言って
あらゆる人が素直に練習できるかというと
そうではなくて、
「オレにはオレのやり方があるわい」って言って、
自分風にやり続ける人も多いと思うんですよ。
うーん、そうなんですかね。
そうだと思いますよ。
だって、みんなが小さいころから
つんく♂さんみたいに自分を鍛えていたら、
もっとすごい人が増えてますよ。
たぶん、つんく♂さんは
「自分ができたからみんなもできる」
って思ってるのかもしれないけど、
自分のやり方を捨てるっていうのは
やっぱりそんなに簡単なことではなくて、
みんな、どこかしらに、
「わけのわかんない自分」っていうのを抱えて、
それに押しつぶされそうになりながら
生きているんだと思うんですよ。
うーーん、そう‥‥なんですかねえ。
あの、いま糸井さんがおっしゃったことは、
学校の勉強でも然り、なんですかね。
どうでしょうね、
学校の勉強は、先生が答えを知っていて、
その答えに追いつくっていうものだから、
自分を鍛えてよくしていくっていうのとは
ちょっと違うかもしれませんが‥‥。
あの、ぼくは、自分が説明しようとしていることは
学校の勉強と意外と変わらないと思ってるんですよ。
あ、そうですか。運動も?
運動もそうです。
こういうことを言うと本気でやられている方に
失礼になるのかもしれませんけど、
大づかみの部分でいうと
最低限の力を持ってさえいれば、
あるところのレベルまでは、
意外とみんないけるんだと思う。
少なくとも、日本の芸能界のレベルで考えた場合、
なにかチャンスとヒントをしっかり持っていれば、
あとは機動力さえあれば、
あの、ぼくが言うのも変ですけど、
年収一千万ぐらいのタレントには
なれるんじゃないかなっていう気持ちがあるんです。
はーーー。そうですか。
たとえばですけど。
もちろん、常人を卓越した、
三億円以上もらうようなスポーツマンとかだと
もうぼくの想像も超えるんで、
それはさすがに才能と、よっぽど何か、
教科書に載ってないことができないと
なれないんだろうけども、
日本の芸能界ということに限れば、
もちろん、ある程度の才能は必要ですが、
最低限のものと、何か「光るもの」を持っていれば、
あとは、わかる人がきちんとチェックをしていけば。
言いたいことはわかる、うん、うん。
いけるんちゃうかなぁ、みたいな。
なるほどねぇ。
その考え方はわかるんですけど、
はっきり言えるというのがすごいですね。
そうなんですかね。
あの、いくらかずるいこと言うと──
いいですか?
うん。
65点から75点ぐらい取れることは
教えられるんですよね。
ああ、ああ、なるほど。
きちんと説明すれば、
もともとその子たちが持ってなかった
30点なり、40点なりを
プラスしてあげることができると思う。
もちろん芸能界に関してですけど。
だから、75点までは教えられる。
誰でも、75点までは取れる。
現状ならその75点で食べていくこともできると思う。
でも、残りの25点とか、120点を取る方法は、
言わないし、教えもできないと思います。
ああ、やっぱり、その二段構えになるんだね。
二段構えですね。
そうですよね。
いや、ほんとにそうだと思う。
あの、農業についても同じことがいえるんですよ。
ぼくは農業の勉強をしたというより、
ちょっとかじったくらいなんですけど、
種とか苗について、すごくこだわる人が多いんですね。
でも、じつは重要なのは育て方で、
きちんと育てれば、野菜とか果物って
それだけで美味しくなるんですよ。
はい、はい。
ほとんどが育て方なんですよ。
種の種類がどうのこうのっていうのは、
そのつぎの問題であって、
その品種の中で一番いいところまでいけば
必ず美味しいんですよね。
はい。わかります。
そういう意味で言うと、
才能だとか資質だとかっていうのは
じつはそんなに重要なことではない。
それをまず、みんなに
わからせたいなって思うし、
ぼく自身にもわからせたいと思う。
つまり、自分の中にも、隠れたいいところが
いっぱいあるんだって思いたい。
うん、うん。
いい年になって、まだ表に出てないものが
自分の中にくすぶってるんだと思うと、
ある意味愉快ですよね。
ちょっとでもそういう芽が出てきたら、
毎日楽しいだろうなあって思うわけですよ。
なるほど、なるほど。
おっさんたちが、ある年齢になって、
ゴルフにあんなに夢中になるっていうのも、
同じことなんですよね。
ゴルフっていうスポーツは、
入り口のところで運動量が少なくて済むし、
「学ぶことによって伸びていく自分」
っていうのがわかりやすいんですよ。
ハンデという、わかりやすい尺度もあるし。
年をとってゴルフに夢中になる人っていうのは、
もうひと人生、楽しんでるんだと思うんです。
なるほど、なるほど、はい。
それと同じようなことが
あっちこちにあるんだと思うんです。
たとえば、英語習う人もそうだろうし。
はい、はい、すごくわかりますね、それ。
いや、そうです。そうだと思います。
(続きます)

2006-12-18-MON

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