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誰でも75点まではいけるとすると、
その正反対というか、
誰もがいけないような場所にいる人の代表が、
イチロー選手だと思うんです。 |
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で、あの人も、ぎりぎりのところまでは
自分で説明する人なんですよ。 |
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だから、話を聞くのはすごくおもしろいんだけど、
彼が言ってることって
じつは終わったことばっかりなんです。
いま問題として抱えていることって
来年くらいに言うんですよ。 |
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あ、そうなんですか。
それは自分で乗り越えたあとで
発表するってことですかね。 |
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そうなんですけど、
それは出し惜しみしているわけじゃなくて、
やってる最中っていうのは、
やっぱり言葉にできないところで
もがいてるんだと思うです。
たとえ、イチロー選手であっても。
そういうときって、あのレベルでの話ですから、
きっと相談相手もいないし、
過去の自分に話が訊けるわけでもないし。 |
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ね。王さんに訊いても、
もう論法が違うんでしょうしね。
まあ、精神論としては話してもらえても。 |
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うん。だから、イチローさんは、きっと、
やったことないことについて、
その都度、その都度考えてて、
きっと大丈夫だろうっていう勘を働かせたり、
ほんとにだめになっちゃうかもしれないという
ギリギリのところを彷徨ったりもしながら、
シーズンが終わって、ようやくそのとき、
「あのときはね、絶好調と言われてたけど、
ぼくはほんとに悩んでたんですよ」
とか言うわけですよ。 |
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ああ‥‥いいっすね。
だからやっぱりそういう意味でいうと、
イチローさんですら、
「天才」ではないのかもしれないですね。 |
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いや、ぼくはだから、
そのイチローさんの話を聞いて、
「天才っていないんだ」って思った。
本当に天才という人がいるかいないかじゃなくて、
「天才っていないんだ」と思ったほうが、
いろんなことが全部よくわかるというのかな。 |
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きっとね、モーツァルトとかでも、
もし生きてて話をしたらね、
「いや、そんなことないよ、イトイちゃん」
みたいなこと言うと思うんだよ。 |
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そんなこと言っちゃうと
身も蓋もないかもしれないけど、
天才がいるっていう考え方って、
やっぱり、なんていうかな、
観客の遊びなんじゃないかな。 |
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はい。あの、世の中って、
とくに日本がそうなのかもしれませんけど、
何かが出てきたときに、まず置き換えるんですよ。
「昭和の何々」と「平成の何々」を置き換えたり、
韓国の女性シンガーが出てきたときに
「韓国の安室奈美恵です」って言うてみたりとか。
日本人だと「和製マドンナ」とか。 |
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なにかにまず置き換えるんです。
それはなぜかというと、
自分の理解の範囲の中で済ませようとするから。 |
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なにかそういうことに置き換えてた方が
まあまあ、みんなわかりやすいんで。
たとえばぼくらがデビューしたころは、
なんか、チェッカーズと米米クラブ足して
割ったようなバンドだといわれたんですね。 |
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違うねんけどなあと思いながら(笑)。
でも、ま、言われるぐらい、
ええかと思ったんですけど。
で、なにをどう表現していいか
わからへんかったようになったときには、
ほとんどの人は「天才、現る!」って言うんですよ。 |
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自分の言葉で置き換えられへんから。
ちょっとそれはずるいなと思うんですけど、
「天才」という言葉で
解決しようとするんですよね。 |
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「天才」というブラックボックスに
放り込んじゃうんですよね。 |
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で、多くの人が、そこに放り込んで
それで解決してしまおうとする一方で、
そうじゃないぞって考える人もいて、
その人だけが、その理解できない人の
そばまで行けるんでしょうね。きっとね。 |
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「天才」っていう言葉は
それ以上考えさせないっていうことですから。
あの、だから、違う言い方をすると、
人々は、いてほしいんだと思うんですよ。 |
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つまり、たとえばいまは
「郷ひろみ」っていう人は
普通の人に見えますけど、
あの人がものすごく売れていたときなんかは、
どっかからやってきた人に見えましたよ。
テレビに郷ひろみの
お父さんとお母さんが出てるのに
「この人たちの子じゃない」って見えましたよ。
つまり遺伝とか出産とかと関係ない人に見えた。 |
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なるほど、なるほど(笑)。
どこかから違うものが
ぽーんと出てきたような感じで。 |
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天から落ちてきたみたいにね(笑)。
いや、もうそんときは、
そのブロックで丸ごと別に考えないと
やっぱ、わかんないですよね。
そういう子っていますよ、やっぱり。 |
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そう、そう。
本当の本当はそんなことないんだけど、
そう思いたいっていうところにみんなが収めて、
そういうのがいるっていうことで
世界っていう物語を構成してる。 |
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そうですね、解決できなくなってしまう。
怖くて恐ろしくて、「天才」って言わないと。 |
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あの、たとえば、松浦亜弥っていう子は、
デビューしたときに「誰々」って
たとえられなかったんですよね。
うまくたとえが出なかったんだと思うんですよ。
あのスピード感とか、器用さっていうのは。
「機械みたい」とは言われたけど。 |
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「アイドルサイボーグ」とかって
言われてましたよね。 |
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そうそう。
まあ、森高(千里)さんも
言われてたと思いますけど。 |
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誰もあの子を安室奈美恵さんだったり、
浜崎あゆみさんに置き換えようとは
しなかったと思うんですよね。 |
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ええ。あの子は、たしかに器用で、
頭もいいんですけど、
じつは、どんくさいところがあるんですよ。
で、そういう人にありがちなことなんですが、
自分がつまづかないために、
無駄な動きをどんどんはしょっていくんです。
それが、あのスピード感につながってるんですけど。 |
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それが、どこかの拍子で
「つまづいてもオッケー」ってなって、
ようやく最近は、
「オトナになった松浦亜弥」とか
「セクシー松浦亜弥」みたいな、
わかる言葉にやっと置き換えて
もらえるようになったというか。 |
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それはすごくいいことだと思うんですよね。
たしかに、デビュー当初のあの子は
ものすごく個性的で、
過去になかった存在だったと思うんですけど、
「天才」と呼ばれる人たちは、
どこかで人間にならないと
あんまり長続きしないと思うんですよ。 |
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ああ。長続きは人間の仕業なんだ。
最初のインパクトは「天才」であるほうが
みんなは納得するんだけど。 |
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はい。
「天才」と言われた者が終わってしまうと、
あの、お金も儲からへんし、
幸福な感じがしないんですよね。 |
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「天才」として生まれただけだと、
仕事になる前に終わっちゃうのね。 |
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はあ、ほんとにそうですね。
つくづくおもしろい分析だなあ。
そんなこと、いつわかったの? |
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(続きます) |