第5回「客席の水準が上がる」

やっぱり、ぼくが『リズム天国』をやって、
つんくさんの「リズム論」を読んで、
なにがおもしろかったかというと、
そこに込められた
「誰でも75点までは行くんだ」
という気持ちだと思うんですよね。
つまり、75点までは行かないと
惜しいじゃないか、という。ね。
はい、はい、はい。
こう、陳腐な言葉で言うと、
優しさっていうかさ。
その、行けよ、お前ら、っていう。
はい(笑)。
あと、つけ加えると、
みんなが75点取ってくれないと、
95点取る人が出てこないと思うんですよ。
ああー、なるほど。
たとえば今年の高校野球って、
レベルが高くておもしろかったですよね。
あれって、やっぱり、
野球人口が多いからだと思うんですよ。
母数が大きいと、ああいうずば抜けた人が出てきて、
おもしろい物語を作ってくれる。
うん、うん。
サッカーのワールドカップにしても、
ぼくらが小学校中学生のときの
サッカーの水準から比べたら
いまの日本チームは、
きっとすごいわけじゃないですか。
うん。
それでもやっぱりブラジルとの試合を見ると、
「こいつらどうなってんのや」って思う。
「別の獣がいるぞ」みたいな。
そうそう(笑)。
「関節、二個ぐらい多いんちゃうかなあ」って。
で、日本がそこまでいくためには、やっぱり、
まずは最低限の75点がもっともっと
増えなきゃいけないんだと思うんですよ。
その中で、95点や98点が出てきて、
そういう人がプロになって、
100点、120点になる。
そういう意味でいうと、リズムについても、
まずは75点を増やさないといけない。
じゃ、耕してるんだ。
っていう気持ちですよね。
なるほどねー。
たとえば学校の音楽の授業でも、
もちろんいい先生はいるんでしょうけど、
やっぱり、基本的には、
音符で勉強してきたクラシック系の人が教えてて、
歌の授業をするときも、
そういうふうに指揮しているんですよ。
全部が悪いとは思いませんけど、
入り口が必ずそれになってしまうのは
どうなんだろうと思うんです。
そうやって教えられた人がまた音楽の先生になって
どっかの教室でピアノ弾いて、
「はい、歌うときは、こうだよ」って言って、
「♪らららららぁーーーー」って歌わせて、
きっと「正しい音程で、お腹から声を出して!」
って教えると思うんですよ。
それは正しいのかもしれませんけど、
歌手である自分からすると、楽しくはないと思う。
だから、野球でいうと、
メジャーの野球をいきなり教えるようなことで、
そうじゃなくて、「もうちょっと試合やろうや。」
みたいな気持ちになるんですよ。
基礎を教える場もないとダメなんですけど、
歌やリズムの楽しさも教えるべきだと思うんです。
たとえば日本の大学の中には
いわゆるポピュラー音楽の専攻みたいなものは
ないわけですよね。
極端にいえば、そこで小室(哲哉)さんとか、
ぼくとかが教えることがあってもいいと思うんです。
でもそれは実際なくて、
あっても映画とか演劇科ぐらいなんですよね。
そういうことができる音楽の場がないわけですから、
誰かやらないかんやろなって思ってるんですけどね。
それが上手くいくと、
客席の水準が上がるっていうことですね。
そうなんですよ。
それはたしかにおもしろくなりますよね。
変わってくると思うんですよね。
あの、たとえば、実際にあったことでいうと、
知ってはるかどうかわかりませんけど、
モーニング娘。の『I WISH』という曲があって、
「♪じーんせーいって、すばらしいー」
っていうフレーズが出てくるんですね。
これを、音楽の先生が教えたら、ふつうに
「♪じんせーいって、すばらしー、ほらだれかとー」
っていうふうに歌わすと思うんですけど、
ぼくはこの曲を、ゴスペル風のリズムで
「♪じん・せい・って
 す・ば・ら・しーー
 ほら・だ・れ・かとーー」
っていうふうにフリもつけてアレンジしたんです。
だから、そんなモーニング娘。を見て覚えた小学生の子は、
オーディションで『I WISH』を歌うときには、
かならずそのリズムで歌えるんですよ。
音がとれなくても、フリを見て覚えてるから。
それだけでもね、ちょっとくらいは、
リズムの75点に貢献したかなと思ってるんです。
ああ、それすごいことだよね。
しかもそれをやってる子たちは、
勉強だとか練習だとかはまったく感じずに
楽しくやってるわけですからね。
音楽の授業で点数を取るためじゃなくて、
楽しくて好きでやってることで
伸びていくっていうのはすばらしいことですよね。
その音楽に正しい動きを合わせれば
絶対ノリがあるから気持ちいいはずなんですね。
それをフリから切り離して、動きを止めて、
「♪らぁー、らぁー」ってやるから
つまらなく感じはじめてしまうんですよ。
あんなに音楽が好きだったはずなのに、
授業になるとつまらなくなる。
ノリを合わせてゆけば、
盛り上がってくる場所も変わってくるし、
正しく手を叩くだけでも絶対楽しいと思う。
だって、音楽を嫌いな赤ん坊なんていないもんね。
いないんですよ。
子どものときはほっといてもリズム取ってるんです。
それがたぶん、音楽の授業で変わるんですよ。
もちろん、いい音楽の先生もいるでしょうけど、
「ダメな音楽の授業」に当たった人は
そこで一回つまらなくなるんです。
言われてみると、ぼくは音楽の授業で、
オルガンの前で歌を歌うときに、
本当に声が出なくなったことがありますよ。
でも、家に帰って歌謡曲を歌うときは
楽しいんですよね。
それはやっぱり、その音楽の授業が
楽しくなかったんですよ。
だから、「音楽の授業」を
「リズムの授業」に変えてくれたら、
たぶん小学校3年生ぐらいまでの子どもたちは
絶対楽しいはずですよ。
そっかー。
「正しいリズムを楽しむ」ことなら、
子どもたちは、ずっとできますよ。
きっとトランポリンの上で跳ね続けるみたいに、
「え、もう終わり?」って感じるくらい
授業が早く終わってしまうと思う。
そうだね。
(続きます)

2006-12-20-WED

もどる

(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN