吉本隆明の ふたつの目。 ──ほんとうの考えを探し出す──  これまでたくさんの著作を生み、講演を行ってきた 吉本隆明さんが、ずっと気にしてきたことのひとつは、 「ほんとうのこと」についてなのだそうです。 「ほんとう」を探すために 吉本さんが持つようになった視点について、 糸井重里との話をお届けします。 * 吉本隆明さんの講演集は、 7月9日(水)に販売がはじまります。 おたのしみに。
吉本隆明の ふたつの目。 ──ほんとうの考えを探し出す──  これまでたくさんの著作を生み、講演を行ってきた 吉本隆明さんが、ずっと気にしてきたことのひとつは、 「ほんとうのこと」についてなのだそうです。 「ほんとう」を探すために 吉本さんが持つようになった視点について、 糸井重里との話をお届けします。 * 吉本隆明さんの講演集は、 7月9日(水)に販売がはじまります。 おたのしみに。

012 新しい発見。

吉本 40歳代の活発な時期には、
ほんとうになんでもできちゃうじゃないかと
思っていたんですが、
頂点は、後のほうにあったんだと思います。
「なんでも解けちゃう」時期が
終わっていくとともに、
今度は自分のことがわかってきました。
だけど、今はボケてきたってことかも
しれないので(笑)、
これは困ったもんだと思ってます。

だけど、自分の一生というのが、
今、ほぼ、
糸井さんの好きな言葉で言えば、
ほぼ(笑)、
終点じゃないかというふうに考えると、
これは新たな発見というのがあるんです。
糸井 あるんですね。
吉本 いつも、日々
新たな発見です。
糸井 ああ、すごいな。
吉本 意識すると全部、
「あ、これははじめてだよ」
「こういう感じ方ははじめてだよ」
とわかるんです。
今がそういう状態です。

ですから僕は、
生涯というのは、
いちばん活発なところで決めると間違うぞ、
と思うんです。
糸井 なるほど。
吉本 それは、生涯についてだけではなく、
いろんなことで、そう言えます。

例えば、チンパンジーのような類人猿を
フィールドワークで
観察したりすることがあります。
類人猿は人間に近いから、
彼らを研究することによって
人間というものがよくわかるんじゃないか、
ということかもしれませんが、
それでは間違うことになるんじゃないかと
ぼくなんかは思うんです。

人間のことをわかろうと思うなら、
生物のことをわかろうと思うなら、
やっぱり、樹木のあたりまでいかないと
誤差が生じると思うんですよ。
それ以上行くと、
岩石とか、そういうことになると思いますが、
岩石だとほとんど誤差はありません。
それは「見たとおり」ですから、
誤差なく観察も体験もできます。
そうじゃなくて、
生物の域に入ることでいえば
まぁ、樹木だったらまちがいないと思うんです。

これは僕も、かなり一生懸命、
おおもとに考えていることです。
芸術言語論を樹木に喩えたのも
そういう理由があるためです。
糸井 もしかしたら、僕らは
誤差の部分ばかり
気にして見ているのかもしれませんね。
吉本 そうかもしれません。
ですから、やっぱり
活発なところで決めると
誤差の部分ばかり気になって
間違うということがあります。
それは注意しなくてはいけません。
誤差の部分は思い込みが入りやすいし、
環境が変わったらすぐに変化します。
「ああ思っていたけれども
 それは錯覚だった」
なんてことがしょっちゅうありますから。
糸井 いちばん変わらない、
普遍的なものが
樹木まで戻るとわかる。
年を取るのもおなじことなんですね。
吉本 そうです。
年を取ると、なるべく誤差なくいけるように
なりますから。
それが、今、わかってきたところです。
  *これで、吉本隆明さんの
 「ふたつの目」のお話はおしまいです。
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 ご愛読、ありがとうございました。

2008-08-04-MON

(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN