上田義彦さんについてはこちら

上田義彦(うえだ・よしひこ)


1957年兵庫県生まれ。写真家。ビジュアルアーツ(大阪校)卒業。
福田匡伸・有田泰而氏に師事。1982年独立。
主なクライアントは、サントリー、資生堂、無印良品、
NTTdocomo、Canon、TOYOTAなど。
これまでに、東京ADC賞最高賞、ニューヨークADC賞、
カンヌグラフィック銀賞、朝日広告賞など国内外の賞を多数受賞。
代表作に、ネイティヴアメリカンの神聖な森を撮影した
『Quinault』(京都書院、1993)、
「山海塾」を主宰する前衛舞踏家・天児牛大のポートレイト集
『Amagatsu』(光淋社、1995)、
吉本隆明や安岡章太郎など著名な日本人39名と対峙した
『ポルトレ』(リトルモア、2003)、
自身の家族に寄り添うようにカメラを向けた
『at Home』(リトルモア、2006)、
ミャンマーの僧院での白日夢のような時間の記録
『YUME』(青幻舎、2010)、
Leicaで撮ったフランク・ロイド・ライト建築のポートフォリオ集
『Frank Lloyd Wright』(エクスナレッジ、2003)など。
2008年以後、ParisPhotoなどの国際アートフェアに出展。
2010年にはMichael Hoppen Gallery(ロンドン、UK)および
TAI gallery (サンタ・フェ、USA) にて展覧会を開催、
「QUINAULT」シリーズを発表した。
作品は、Kemper Museum of Contemporary Art (USA)、
Permanent Public Art Collection of New Mexico Arts(USA)、
  HermesInternational(FRA)、
Stichting Art & Theatre, Amsterdam(NLD)などに収蔵されている。
2015年、デビュー以来35年あまりの写真のなかから
三百数十点を厳選した『A Life with Camera』を刊行。
01 01
01 
──
改めて、完成した会場をごらんになって
どう思われますか?
上田
正直、今の自分の渾身の一発なんですが
だからこそ
まだまだ、何もできてないなと感じます。
──
そうですか。
上田
単純に、もっと撮らないとと思うし。
──
え、ほんとですか。
上田
はい、怠け者だなあって思ってますので。
もっともっと、写真を撮りたいです。
──
次のテーマって、決まってるんですか?
上田
ひとつには人物のポートレイトですね。

だいたい10年に一度くらい、
定期的にポートレイトを撮りたくなって
バーっと撮るんですけど
すぐにまた、何年も撮れなくなるんです。
──
おもしろいですね。
上田
その「人物ポートレイトを撮りたい波」が、
久しぶりに、もうれつに高まっていて。
──
楽しみです。
上田
当たり前の話ですけど、
人って、誰にも似てないじゃないですか。

人の前に立つと実感するんですが
ひとりひとり、ぜんぜんちがうんですよ。
──
人物の場合って、風景や静物とちがって
撮られているときに
向こうも何かを考えているわけですよね。
上田
ええ、そうですね。
──
そのことが、写真に影響したりしますか?
上田
コミュニケーションですから、もちろん。
──
人の顔って、どういうものでしょうか?
上田
「そこに、ぜんぶ出ちゃうもの」ですね。
閉ざしている人は、閉ざした心が出るし。
──
なるほど。
上田
仮に「本当の自分」というものがあるとして、
それが写真に映るってことは
おそらく、滅多にないことだと思うんです。
──
はい。
上田
でも僕は、少なくとも
そのことを撮りたいなあと思っています。

そんな大それたことが簡単にできるとは
思わないけど、
その人のぜんぶを、写し込むというか。
──
アンディ・ウォーホルさんとか
北野武さんとか、
有名なポートレイトも撮影されていますし
『PORTRAIT』(ポルトレ)という
ポートレイトの写真集も出されていますが
そんな上田さんでも‥‥。
上田
簡単じゃないですよ。

でも、
そういうポートレイトが撮れたらなって、
いつも思ってます。
──
定期的に撮りたくなるんですね。
上田
ええ。で、定期的にイヤになる(笑)。
「ああ、これ以上は無理だ」と思うんです。
──
良くも悪くも、「人」って、被写体として
「強い」ってことでしょうか。
上田
強いです。
だから、しばらく人ばかり撮っていると
目いっぱいになっちゃって、
しばらくの間、撮ることができなくなる。

でも、また10年くらいしたら
ぜんぜん足りてないくらい撮りたいって
思うようになるんですよね。
──
これはずっと思っていたことなんですが、
写真って、どうして
「せつない感じ」がすると思われますか?
上田
やっぱり「二度と再現することができない」
という一点じゃないでしょうか。

永遠に失われてしまった時間が、写ってる。
たしかに存在した場面なのに、
それは、今では
跡形もなく、なくなってしまってるから。
──
なるほど。
上田
しかも、ものすごく克明に、
細部まで、
そのときの状態のまんまが、写っている。

そのことが、よけいに、
見る人を
せつなくさせる理由なのではないかなと
思います。
──
写真って「見のがし」なく、
その場の「すべて」が写るんですものね。
上田
それが、写真の根源というか、
魅力の大元なんだと思います。
──
上田さんがこの展覧会に寄せた文章中に、
「写真に出会ってよかった」
というような意味のことが書いてあって、
ごくシンプルで、
何の飾り気もない言葉なんですが
何と説得力のある言葉なんだろうと思いました。
上田
写真に出会って、本当によかったです。

そのことについては、
この先も変わりようがないと思います。
──
ここから10年、20年、30年、
まだまだ撮っていかれるわけですけど。
上田
だって僕、写真やカメラのことを
いまだに
すごく不思議なものだと思っているんです。
──
不思議なもの?
上田
とんでもなく不思議なものだと思っていて
そして
その不思議は乗り越えられないなって思う。

この先も「え、こんなふうに写ったんだ」
「わー、すごいな」って(笑)。
──
そんな感じで、ずっと続くと。
上田
そうでしょうね。
──
写真が「もう、わかった」という瞬間は、
来ないんでしょうか。
上田
来ないと思います。

すべてを自分のワクのなかに閉じ込めて
「これしか撮らない」って決めて
「ほら、撮れたでしょ」という写真ほど
つまらないものは、ありませんし。
──
なるほど。
上田
当たり前すぎて、
それができたところで何なんだって言うか、
感動も何もないと思うんです。

もちろん、写真をはじめたころのような
「写った!」というよろこびは
もう、とっくの昔にありませんけど‥‥。
──
ええ。
上田
それでも僕をヘコましてくれるような、
「うわあ、かなわない!」というおどろきを
フィルムに定着できたときには
もう「見入る」しか、なくなってしまいます。
──
見入るしかない。写真に。
上田
そういうおどろきがやってきてくれたら、
自分が撮った写真でも
第三者のように「いいな」って思えるんです。
──
そのためにも、上田さんのおっしゃる
「世界に開かれた態度」が、重要なんですね。
上田
そうかもしれないです。
──
ちなみに、
いわゆる「上田義彦が撮った写真」として
有名な写真でも
ここに選ばれていなかったりしてますね。
上田
ええ、やっぱり、
今でも、ドキドキできるかどうかですので。

自分が飽きていたら、
どんなに評価され、人に知られた写真でも
選ぶことはできませんでした。
──
改めて、この場に集められた写真は
上田義彦さん35年のキャリアのなかでも
「ドキドキした写真」ばかりだと。
上田
そうですね、写真展を見てくれた人に
「これはいったい何なの?」
って聞かれたら
「ぼくがドキドキした結果のものです」
としか‥‥言いようがないです。

何だか無責任だし、
何だかバカっぽくもあるんですが(笑)、
それが、正直な気持ちですね。

<おわります>
(2015-05-07-THU)
佐久間裕美子さんの本

デビュー以来35年あまりの写真から
上田義彦さんが
「今でもドキドキする写真」を250点、
厳選して展示しています。
600平米(!)の真っ白い大空間に
有名な広告写真、
独立後はじめてもらった雑誌の仕事、
写真家としての作品、
プライベートなスナップショット‥‥。
テーマも年代もバラバラですが
上田義彦という写真家の
「カメラとともにあった半生」に
圧倒される内容です。
7月まで開催していますので、ぜひ。
また、同名の写真集も販売中。
586ページの大著、
収蔵点数も300点を超えています。
1ページ1ページ、
「上田義彦さんの35年あまり」
に見入っていたら
すぐに1時間くらい経っちゃう本です。

展覧会「A Life with Camera」

会場:Gallery916
住所:東京都港区海岸1-14-24
   鈴江第3ビル 6F 
   ※会場mapはこちらから  
会期:開催中(12月27日・日曜日まで)
開館時間:平日 11:00~20:00
     土日・祝日 11:00~18:30
定休:月曜日(祝日を除く)
入場料:一般/800円、
    大学生・シニア(60歳以上)/ 500円
    高校生/ 300円、
    中学生以下/ 無料

写真集『A Life with Camera』

著者:上田義彦
序文:ハンス・ウルリッヒ・オブリスト
編集:菅付雅信、上田義彦、中島英樹
装丁:中島英樹
定価:19,440 円