第3回 マンガは、作者に似てくる。
- ──
- 以前、ラヂヲ先生に、
愛媛県でおなじみの「芋炊き」の絵を
描いてもらったことがありまして。
- 和田
- ええ、覚えてますよ。
- ──
- 今日、久しぶりにお会いしたら
ダイエットに成功されたとのことで、
とてもスリムで驚いたんですが、
あのときも、
えらく痩せてらっしゃいましたよね。
- 和田
- あのときは病み上がりだったんです。
- ──
- おしりの非常警報でしたっけ。
- 和田
- 痔じゃないですよ。痔は別のときです。
あのときは胆のうをとったの。
- ──
- ともあれスッキリされていて、
どこか、都内の喫茶店でお会いして‥‥
いまから思えば、
本当に失礼なお願いだったんですが。
- 和田
- いえいえ。
- ──
- こころよく「愛媛の芋炊き」の風景を、
描いてくださったんです。
- 和田
- はい。
- ──
- それは、芋炊きの鍋を
左右からつついている男女の頭上を、
ANAの旅客機が掠めていくという、
そういったイラストでした。
- 和田
- 提灯があってね。思い出してきたぞ。
- ──
- その絵が生まれていくプロセスを、
かたわらで、
つぶさに拝見していたんですが、
先生、女の人の「おはしの先」から、
描きはじめたんですよ。
- 和田
- え、へえ。それは、覚えてないなあ。
描き順までは。そうなんだ。
- ──
- はい、一瞬「え?」と思いました。
いったい何を描くのか、と。
- 和田
- そりゃあ、たしかになあ。
- ──
- おはしの先のお芋なのかお肉なのか、
とにかく鍋の中の具材を描き、
2本のおはしを描き、
そこから、腕がにゅるーっと伸びて、
胴体が現れ、顔が出現し‥‥。
- 和田
- それは高度な技ですね。
無意識で描いてたんでしょうけどね。
- ──
- で、そのようすを見たときに、
よくわからないけど
「すごい! 絵を描く人って、すごい!」
と感動を覚えたんです。
- 和田
- たしかに、マンガ家によって、
どこから描くかには個性がありますから、
見てると、おもしろいかもね。
似顔絵の場合でも、
目から描いたり、輪郭から描いたり。
- ──
- 先生の場合は?
- 和田
- 前髪からですね。
- ──
- へえ、前髪から必ず、ですか。
- 和田
- うん。似顔絵のときもそうですし、
マンガのペン入れのときも、
前髪からはじめることが多いかな。
- ──
- 前髪がない人の場合は‥‥。
- 和田
- ぼくみたいなね。いい質問ですね。
その場合も頭からいくでしょうね。
- ──
- ちなみに、先生のマンガには、
いわゆる「キャラクター」的な人は
出てきませんけれども‥‥。
- 和田
- ええ。
- ──
- 名前はついてないんだけど、
たびたび出てくる人っていますよね。
ああいう人には、どなたかモデルが?
- 和田
- ええと、ハゲツルでメガネをかけた、
サラリーマンの課長とか上司を
よく描くんですけど、
あの人は、デビューしたころには、
親戚の人たちに、
うちのおじいちゃんに似てるなって、
よく言われてました。
- ──
- ラヂヲ先生の、おじいさま。
- 和田
- だから、何か、ふだんから見なれた人が
出てくるのかもしれない。
- ──
- では、毛髪のある壮年のサラリーマンは、
どなたでしょう。
- 和田
- 東野幸治さんに似てるって言われる人ね。
うちの親父が、あんな髪型だったかも。
オールバックというか、
いわゆる昔でいうアイパーってやつ。
で、おばさんは、うちのオカンですよね。
- ──
- ファミリー総出じゃないですか。
- 和田
- 思えばね。
- ──
- ラヂヲ先生の絵って、
「ラヂヲ先生の絵だ」」ということが
すぐにわかると思うんですが、
マンガ家さんにとって、
自分の絵を持てるかどうかって、
やっぱり、難しいことなんでしょうか。
- 和田
- そこで四苦八苦しますよね。
- ──
- 先生の場合は‥‥。
- 和田
- 子どものころ、
赤塚不二夫さんの絵とか模写したりして
遊んでたんですが、
そこからスッカリ描かなくなったんです。
で、マンガのデビューが決まってから
また描きはじめたんですけど、
当時は
蛭子(能収)さんが好きだったので‥‥。
- ──
- ああー、似てるかも。
- 和田
- なので、ぼくの絵のタッチのルーツは、
蛭子さんかもしれない。
誰も指摘しないから、自分で言うけど。
- ──
- 言われてみれば、たしかにです。
- 和田
- でも、ぼくの絵ってわかりやすいですか。
自分じゃ、そんなこと思わないんだけど。
- ──
- 駅貼りの広告なんかに
先生の絵が使われていたりもしますけど、
一発でわかりますよ。
- 和田
- ああ、そうですか。
でも、自分的には、
何か死んでるんですよね、ああいう絵は。
- ──
- えっと、どういう意味ですか。
- 和田
- こんなこと言うとアレかもしれないですが、
頼まれて描いた絵って、
ちょっと、居心地が悪いというか‥‥
目が死んでるんですよ。
ま、目はもともと死んでるんだけど(笑)。
- ──
- へえ、そうなんですか。
- 和田
- マンガから1コマを抜き取ってもらって、
使ってもらうほうが、自分は好きかな。
- ──
- ひとつ、画家は自画像を描きますが、
先生は、自分の顔って、描かないですか。
- 和田
- 自分の顔‥‥うーん、描かないけど、
マンガって作者と似てくると思うんです。
- ──
- あ、へええ‥‥。
- 和田
- 自分の顔って、いちばん見てますからね。
だから、ぼくの絵も、
どこかぼくに似てるんじゃないかと思う。
‥‥このスタローン、「本人」じゃない?
ヒゲ濃いし、まつげ長いし。
- ──
- 言われてみれば。戦車先生に似てるかも。
- 和田
- 下に「名前」も書いてある。
- ──
- この絵が
「吉田戦車先生の自画像」だと思ったら、
また別の味わいがありますね(笑)。
- 和田
- 本人だよこれ。
< つづきます >
2018-05-31-WED
描いてくださるのは、ロビン西さん、
イマガワノブヒロさん、和田ラヂヲさん、
矢部太郎さん、そして下田昌克さん!
そんな豪華な似顔絵のお店が、
6月7日(木)から11日まで開催される
「生活のたのしみ展」に出現します。
店の名は、NIGAOESKÝ(ニガオエスキー)。
われらが和田ラヂヲ先生をはじめとし、
おなじくマンガ家で
『マインド・ゲーム』のロビン西さん、
『Mother3』のキャラクターを手がけた、
ドット絵のイマガワノブヒロさん、
漫画『大家さんとぼく』が大ヒットした
カラテカの矢部太郎さん、
そして、色鉛筆による似顔絵作品で有名な
アーティストの下田昌克さん。
肩書も、作風も、何に似顔絵を描くかも、
みごとなまでにバラバラな5人が、
日替わりで似顔絵を描いてくださいます。
登場の日程や料金や整理券についてなど、
こちらのページで、
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