第5回
平賀源内の中にもある、
日本人の持ってるクオリティの高さ。
平賀源内の中にもある、
日本人の持ってるクオリティの高さ。
橋本 |
やっぱし、平賀源内、 一通りできなきゃっていうところあるでしょう? やっぱし、あの人の文章能力は けっこうなものなんですよ。 なんか怒ってるっていうのもあるけど。 だって、平賀源内が、 「西洋婦人図」っていうのを描くじゃない? あれが最初で、日本で最初の油絵だ、 ってなるんだけど、 そのあとで司馬江漢が出てきて、 いろんなの描くでしょう? 俺、司馬江漢の絵がそんなにいいと思えないもん。 いっぺん、府中の美術館で司馬江漢展っていうの やってたから行ったんですよ。 もうちょっといいものかな? と思ってたんだけど、 俺、風呂屋の看板、思い出した。 |
糸井 |
あー。 |
橋本 |
んで、亜欧堂田善(あおうどうでんぜん) っていう人もいて、んで、その人も、なんかね、 この感じは何なんだろう? と思うと、 やっぱり遠い昔の風呂屋の看板的な、何かなの。 |
糸井 |
ドレミファを憶えちゃった、 三味線のお師匠さん、みたいな。 |
橋本 |
寺山修司が好きな風呂屋の絵看板、みたいな。 日本人は西洋人になっても 西洋になり切れていない、土俗があるんだ、 っていって、サーカス小屋をセッティングして、 向こうに風呂屋の看板を置かなくちゃ、 美術じゃない、みたいな、そういう、 寺山修司的な土俗を感じるんですよ。 |
糸井 |
苦しいけど、その時代を必ず経過しますよね。 |
橋本 |
うん。 |
糸井 |
寺山修司いなかったら、 やっぱり、ある何か、 見えないものあるもんね。 |
橋本 |
うん、俺、そういうのは嫌いじゃないのね。 港町があって、マドロスさんがいて、 でも、そのマドロスさんが必ず5頭身で 足が短くって。ほんで、女の顔はのっぺりしてて、 顔がすごく大きくって、でも、なんか、 胸はAカップのベタッていう感じで、 シュミーズ着てて、パーマかけて、 どっかに扇風機も回っていて、 で、そこに司馬江漢とか 亜欧堂田善風の絵があると、 俺はそれが日本のフランスだと思うのね。 |
糸井 |
ああ、ああ。 |
橋本 |
寺山修司がつくるところの。 んー、で、そういうのを思い出してて、 それが、日本の前近代からずーっと続く、 西洋に対する憧れのメンタリティの ひとつなんだよな、とかも思うんだけど、 じゃ、それだと日本人は西洋に 負けっぱなしじゃない、っていう気がするのね。 |
糸井 |
西洋にけたぐりしてるのに精いっぱいだよね。 |
橋本 |
でも、その前と後には、すごいものがあるのよ! 安土桃山時代に、南蛮蒔絵っていうのが あるんですよ。で、それは、 日本の蒔絵の、輸出品なの。 キャプテンクックの乗っている船の、 お姫さまがそこに隠れてるかもしれない、 長持みたいのあるでしょう? 上の丸いの。あれが、日本の蒔絵になってるわけ。 |
糸井 |
はぁー! |
橋本 |
表が、日本風の青海波(せいがいは)なのね、 しかも螺鈿(らでん)なの。 西洋人は派手なの好きだからって、 螺鈿やってるわけ。 表、青海波で、金鋲を打ってあって フタ開けるじゃない? そうすると、一面、唐草模様なんだけど、 そこに、ハラマキひとつの 日本の子どもが遊んでたりするわけ。 |
糸井 |
すごいねぇ。 |
橋本 |
うん。で、もっとすごいのは、 イエス・キリストの祭壇画なのね。 両開きでフタが付いていて、 開けると三面になるんだけど、 真ん中にキリストの貼り付けの絵が かかってるのね。 んで、このフタ、パッと開けるとね、 こっち側が「もみじ」に「鹿」なの。 |
糸井 |
おぉ! |
橋本 |
もみじの枝に山鳥がとまってるの。 |
糸井 |
おおぉ! |
橋本 |
それが蒔絵で螺鈿なの。 |
糸井 |
で、真ん中がキリスト。 |
橋本 |
うん。だから、キリストともみじに鹿と、 何の関係があるの? って思うんだけど、 あの人たちは平気なのよ。 それで輸出しちゃうわけ。 しかも、西洋人は螺鈿が好きなんだ、 って言われると、ああ、へい、 さようでございますか、って言って、 じゃあやりましょう、って、 当時の日本人には合わないような ゴテゴテを平気で入れてくわけ。 |
糸井 |
力があるねぇ(笑)。 |
橋本 |
あるでしょう? 俺、それを見て、ほんっとに感動したのよ。 |
糸井 |
そうなると、さっきのその、 あそこにも飾ってある司馬江漢の絵なんて、 やっぱり‥‥。 |
橋本 |
なんでもないのよ。 |
糸井 |
その、なんていうんだろう、 音階を習ってる子どもの感じがするよね。 |
橋本 |
うん、そうそうそう、 縦笛でピーピーピーとやってる、みたいな。 |
糸井 |
思い切りが悪いよね。 人の文法で動く苦しさですよね。 |
橋本 |
うん。んで、安土桃山時代の障壁画にもさ、 「泰西王侯騎馬図」っていうすごいのがあってさ、 今、屏風になってるんだけど。 それ、もとは蒲生氏郷の後ろの 襖絵だったっていうんだけどさ。 フランス国王とイギリス国王と? なんとか国王とかなんとか、 各国のヨーロッパの国王がさ、 馬に乗って、こうやって刀振り回してる絵がさ、 襖の一面にボーン! って描いてあるわけよ。 |
糸井 |
いいねぇー(笑)! |
橋本 |
ほんで、それ、もとは何かっていうと、 向こうの宣教師が持ってきた、 これくらいのエッチングの絵をもとにして‥‥ エッチングなんだよ? 色ついてないんだよ? それを日本の岩絵の具使って、描いちゃうわけ。 そうすると、洋風画の描き方なんて、 ここにあるじゃん、もう! っていうふうになっちゃうのよ。 そんなすごいものを、って、 日本人ってそれだけすごい技術を 持ってたのに、なぁんで江戸時代、 そんなにしぼんじゃうんだろう? とかって思うの。 だから、平賀源内がひとりで ポコッて長崎の出島に行っても、 ある程度のことをつかまえられちゃう、 っていうのは、それを、日本人の持っている、 ある種のクオリティの高さの 表れなんだろうと思うんですよ。 |
糸井 |
平賀源内の中にもある、 日本人の持ってるクオリティの高さ。 |
橋本 |
ただ、平賀源内は、それ持っても、 結局どこにも採用してもらえなくて、 自分でフリーで仕事コツコツ つくってかなきゃいけない 立場の人になっちゃったから、 それを発展させる場所がないんですよ。 |
糸井 |
ああ、ああ、ああ。結局それ、 友だちに分けてるだけですよね。 |
橋本 |
そう。で、分けてんだけど、 あの、なんか、あまし喜ばれないとか。 センセー、こないだの、失敗しましたー、とか、 泣いちゃったりとか、っていうの、あってさ。 そうすると、西洋的なエキゾチズムっていうのは 商売になるし、私の中にある西洋によって インスパイアされたエスプリというのも 商売になるっていうのあるんだけど、 現実とかみ合ってないんだよね、やっぱり。 現実が必要だったら、 平賀源内を雇うっていうシステムが あってもいいんだけれども、 雇ってもらえないから、 平賀源内もカーッとくるわけですよ。 |
(次回はこの対談の核心!? 「勃たないということ」についてです。 ) |
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2014-12-27-SAT
タイトル
橋本治と話す平賀源内。
対談者名 橋本治、糸井重里
対談収録日 2004年3月
橋本治と話す平賀源内。
対談者名 橋本治、糸井重里
対談収録日 2004年3月
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