第10回
商売も人も「情」で動く
商売も人も「情」で動く
糸井 |
組織が大勢でいる理由って、たとえば 「ロジスティックスを組みやすい」 とか、そんなことばかりでしょう、早い話が。 みんなが欲しがってるところじゃないところに、 どんどん、金がかかっていますよね。 ただ、ほんとは、今の時代の商品って、 結局は「精神的なコスト」っていうのを、 やりとりしてるんだと思うんですよ。 「思いやり」であるとか、「情熱」であるとか。 だったら、大企業につきものの中間業者を、 はぶいてやっていくことができるわけです。 |
重松 |
ええ。 お会いした課長さんなんかでも、 みんな、けっこう情があるんですよ。 仕事に対する情もあれば、 組織に対する情もあるんです。 やっぱり、 情報って「情」に「報いる」と書くわけで…… だから、商品って、「情」だと思うんですよね。 |
糸井 |
そうなんだよねぇ。 それがないと、やっぱり人は動かない。 |
重松 |
動かないんだよね(笑)。 ところが、大きい組織って、 情を捨てないと機能しなくなってしまうんです。 |
糸井 |
今、いろいろな組織のなかで 大きなコストになっているものから、 「イヤだけどしなきゃいけないこと」 っていうのをピックアップすると、 たぶん、「悪い人対策」なんですよ。 そこに、めちゃくちゃ時間がかかる。 お菓子の中に自分で虫を入れて 「虫がいた」って騒ぐ人がいないとは限らない、 という前提で動かなきゃいけない会社も多いし、 それ専門の部署もあるわけです。 「郵便ポストの中に生魚を入れて 切手を貼って送る人がいるから、 郵便ポストに 網を張らなきゃならないかもしれない」 みたいなコストって、きっと、高すぎるんですよ。 |
重松 |
悪意への想像力を、増やさざるをえない。 |
糸井 |
ただ、小さくて顔が見えている範囲で 商売をやってる場合には、 そこのところは「うわぁ、ゴメン!」で 済む場合がけっこうあって。 |
重松 |
(笑)はははは。 |
糸井 |
組織を小さくすると大変になるけど、 心にはいいんですよ。 |
重松 |
そうそう。 そういう面でも、 部長だと大きすぎる気がするし、 課長がいちばん身の丈サイズっていうのは、 あるかもしれません。 |
糸井 |
やっぱり 「日本国民で会社に勤めている人は、 全員、課長になれ」という話になるよ。 |
重松 |
ニッポン総課長化計画(笑) |
糸井 |
うん。 課長も、たいしたもんなんです。 たとえば、学生は急には課長になれない。 やっぱり、誰かに小さい拍手をもらったとか、 誰かから銭をもらったとか、励まされたとか、 そういう取引がないと、課長は生まれないものね。 |
重松 |
そうそう! そう言えば、部のない課ってけっこうあったけど、 課のない係って、あんまりない。 課って、部のしばりは、あんまりないんです。 |
糸井 |
重松さん、 「課」っていう言葉の語源は調べましたか? |
重松 |
ぼくは、語源じゃなくて、 言葉遊びを書こうと思ったことはあるんです。 「係長」の「係」って、 ニンベンに「系」でしょう? 人間関係の中のものですよね。 |
糸井 |
「ライン」ってことかも。 |
重松 |
ええ。 それで、「課長」の「課」って、 言ったことが果実になるっていうか。 言葉が実になる。 だから果実を出さなきゃいけないっていうかね。 |
糸井 |
成果の「果」なんだ。それ、いいわ。 |
重松 |
一回この本にそう書いてみて、 書いたらちょっとクサいなと思って やめちゃったんですけど。 |
糸井 |
口で言うぶんには、いい話だなぁ。 |
重松 |
「課」って、課役とかにも使う言葉ですよね。 義務と罰とかにもなる。 ひょっとしたら、懲役囚の労働かもしれませんし。 |
糸井 |
「部」との、文字のスタイルの違いもおもしろいね。 |
重松 |
たぶん、その懲役のイメージのほうにいて、 愚痴しかこぼさない課長も、日本には、 それはもう、いっぱいいると思うんです。 だけど、愚痴だけじゃない 果実を実らさせている課長もいていいと思ったし、 実際に会ってみるといたから、 ぼくはホッとしましたよ。 |
2015-01-05-MON
タイトル
チームプレイ論。
対談者名 重松清、糸井重里
対談収録日 2004年2月
チームプレイ論。
対談者名 重松清、糸井重里
対談収録日 2004年2月
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