第13回
だらしがなくなるという成長
だらしがなくなるという成長
重松 |
今は、おじいちゃんブームって、 ありだと思うんです。 おじいちゃん独特の「隙間」がほしかったり、 「あたためてほしかったりすること」 って、きっと、いっぱいありますから。 |
糸井 |
うん。 若いときって、失恋一発で、 人生がおしまいになるくらい 世間が狭いでしょう? 息子や娘がそういう失恋をしたら、 お父さんから見たら、痛いですよね。 でも、おじいさんから見たら、 痛いだのなんだの言う前に 「おぉ!かわいそうに!」 と言うだけですよね。 そのレベルまで話を軽くしちゃったら、 「また、恋をしてきな」とか、 「そのまえにおこづかいをあげよう」 ってなるでしょう?(笑) |
重松 |
いいですよね、それって。 |
糸井 |
たとえば、 組織の中でやらなきゃいけないことを 「決まり」にしたほうがいいかどうか、 みたいなことも、 リーダーの判断としてはあります。 でも、ぜんぶを決まりにしたとたんに、 決まりごとが、暴力装置になっちゃう。 「そこは、まぁいいか」みたいなところで、 おたがいに文句を言いながらやってる、 みたいなところを、何十%は持たないと、 ダメなんだろうなぁ、と思うんです。 だからこのごろ、どんどん、 管理としては、 だらしなくなってきていて…… でも、そのだらしがなくなってる自分って、 「成長したなぁ」と思うんです。 意外でしょう? |
重松 |
なるほどなぁ。 確かに、ある種のバカ殿というか、下が 「参っちゃうよなぁ、ウチの大将」 っていう感じの余地って、なんか欲しいですよね。 |
糸井 |
数年前に吉本さんにインタビューしたときに、 リーダー論として、 「何もしてなさそうに見える大将」 について話してくれたんです。 ぼくは 「吉本さんぐらいになると、 こういうことを言うんだなぁ」 と思って聞いてたんだけど、 会社のことに一生懸命になればなるほど、 それが理想だとちゃんと思えるようになるんです。 自分がそっちに近づいていくんですよ。 その鷹揚さのおかげでできている許容量に、 今は、なんだかワクワクするんです。 バカ殿になったことで、 明らかに自分が成長してるんです(笑)。 |
重松 |
(笑)あはははは。 |
糸井 |
(笑)説明しきれないんだけど、 きっと、ジジイになったおかげですね。 つまり、リーダーって、 かわいがられないと、ダメなんですよ。 能力があって、実績があれば、 人はその人のことを尊敬するし、 その人に対してホロリともしてくれますよね? だけど、そこまでじゃない 「かわいがられること」っていうか。 |
重松 |
愛嬌のあるリーダーって、いいですよね。 |
糸井 |
仕事をするという意味としては、 仕事内容を機能として解体してくと、 「人間であること」 なんて、いらなくなるんですよね。 でも、 「もともと、人と人だからさぁ……」 というマヌケな部分が、あるはずで。 今まで、いろんな経営者の人たちに 会ってきてるんだけど、 不完全さがいい感じの人のほうが、 うまくいっていますよね。 欠点だって、 ないよりはあったほうがいいというか。 大きい仕事をする人は、 「アタマがキレる」なんて見せていたら、 ダサイですよ。 |
重松 |
バカ殿って、だから人気あるんだ(笑) |
糸井 |
バカ殿、いいですよね。 昭和天皇ぐらいっていうのが、 いちばんいいんじゃない? 迫力も残っていたし。 |
重松 |
ええ。 愛されてボケてても、 威厳ってのはそこから来るんです。 |
糸井 |
同時に、それが品であり……。 |
重松 |
ええ、まさに「品と威厳」ですよね。 おそらくそこが、 叩き上げの初代の社長では、 得られないところなんでしょう。 |
2015-01-05-MON
タイトル
チームプレイ論。
対談者名 重松清、糸井重里
対談収録日 2004年2月
チームプレイ論。
対談者名 重松清、糸井重里
対談収録日 2004年2月
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