ほぼ日 |
「また、エライもん持ってきちゃった」(笑)と
おっしゃる岸本さんにとって
最初はこの『何食べ』を社命として
売ることになったわけですよね。 |
岸本 |
ジブリさんとうちとの付き合いの中ではですね、
まずは、絶対にやるんです(笑)。
でも、わたし個人的には、
こういう商材は嫌いなほうじゃないんです。
もともと単館映画を
苦労して売ったりしてきましたし。
変な言い方ですけど、
マスでバーンとヒットさせてバーンと売るのは、
誰でもできることだと思うんです。
そうじゃなくって、口コミであるとか、
方法論で売っていく商材って、
必ずあるんですよね。
そういうものは、
こちらの想いと説明を要するんです。
これもそうですけど。やっぱりいろいろな形で
その良さを説明をして、わかってくれる人だけ
買ってくれるモノじゃないですか。
だから、
時間も苦労も手間もすごくかかるんですよね。 |
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ああ、僕も最初相談したときには、
「そんなに売れるものじゃないです」って
再三、聞かされました(笑)。 |
ほぼ日 |
糸井からも、「この『何食べ』が商品として
世に出たこと自体が、奇跡のようなものだ」と
何度も聞かされてきたんです。
「3セットくらしか売れなくても、販売はしようよ」
というくらいの気持ちで販売を始めたんですけど。
この『何食べ』が世に出るってことは
どれぐらい難しかったんですか。 |
岸本 |
NHKの中でも、
かなり評価が高かった番組だったけれど、
今までソフト化されてなかったわけですよね。
書籍にはなってますけど、
もはや誰も見てないし、
いわゆる「現在生きてないソフト」を、
わざわざソフト化しても、
そんなに売れないだろうと
思われてたんじゃないのかな。
放送中の85年ごろはまだ、
レンタルビデオも
今ほどは発展してなかったので、
ソフト化して販売するタイミングを逸したまま
ここまで忘れられていたってことですよね。 |
「何食べ」は何度でも観たい |
ほぼ日 |
みなさんはソフト制作の過程で
何回も何回も『何食べ』をご覧になったと
思うんですが、
一番心に残っていることってどんなことですか? |
岸本 |
何よりも、この『何食べ』の良さって、
ただ「何を食べてきたか?」ということ
だけじゃなくって、それを通した家族とか、
生活とか、現代人がほとんど
忘れているような部分がずいぶん出てるんですよね。
今は、ぜんぜんやる気がないような子どもたちが
多いわけで、目標も何もないわけじゃないですか。
うちの子どももそうなんですけど(笑)。
夕食のおかずを見て
飯を食うか食わないか決めるとかね。
そういう人たち対しては、
宮崎さんが
「この『何食べ』をいろんな人に見せたい」
っていうのは、よくわかるんで(笑)。
「家族とは」とか、
「食べるってどういうことだ」とか、
「親が子に対する愛情」とか、
「子が親に従う規律」とか、
そういうことがすべて出てるじゃないですか。
「人間の生活のすべてが凝縮されて、
ここに答えがある。」
そういう気がするんですよね。
日本も「昔こうだった」みたいなこと、
いつも言われますけど、
本当にそうだと思うんですよね。
「昔はそうだったのに、何か置き忘れてきたのかな」
って。
この年になって、やっと思うんですけどね。 |
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僕はふたつあって、
ひとつはやっぱり目から鱗が落ちるというか、
「そういえば肉って動物の死体だよね」とか。
それまでわりと忘れてたことを、
思い出させてくれるっていうのもありました。
もうひとつは、どの卷もそうなんですけど、
例えば、移動漁民とかって、
米と魚を食べていて
辛い味付けがしてあるっていうんですよね。
「それって旨そうじゃん」って
似たような味覚の感じを受けたんですね。
惰性で食べたりとか、ストレスで食べたりとか
というのとは違って、
「なんかこの人たち美味しそうに
食べている気持ちもわかるな」というか。
「ああ、いずこも同じ」
というと大袈裟だけど、
そういう感じも逆にありましたね。 |
ほぼ日 |
そうですよね。
『何食べ』のソフト化の作業をしている過程で、
自分の中でちょっと変わったとことかってありますか? |
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「人間いかようにも生きれるんだな」
って思いましたね。
今ある生活とかが、絶対的なもんじゃないって。
「こんなものも食べても大丈夫なんだ」
って思うことはけっこうありましたよね。
自分が持ってる「人間観」とか「世の中観」
みたいなものは、単に20世紀の後半に、
日本のここに生まれたからこう思ってるんであって、
世の中にはぜんぜん違う生き方で、
それはもしかしたら辛いのかも知れないけど、
でもちゃんと生きてて、
そこにはちゃんと
食べる楽しみがあるんだっていうのが、
けっこう、衝撃でした。
西瓜の回とかって、想像を絶するわけじゃないですか。
「これが、文化っていうものなのかな」
って悩むぐらい独特なわけで。そういう意味では、
認識の幅が広がった感じがしますよね。
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【註】 |
西瓜の回
第7巻
「スイカ
砂漠の民の水瓶」
の回のこと。 |
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ほぼ日 |
『何食べ』とのつきあいかたって、
他のソフトとちょっと違うなぁ。
って思ったんですよね。
「知識量を増やしてためになったな」
っていうより、考えるきっかけになったな、
というような感じだとも思いました。 |
岸本 |
ぼくはとても音楽が好きで、
うちに帰ったらテレビとか一切見ないで
音楽ばっかり聞いているほうなんですね。
映像はもう仕事として割り切ってるんです。
レコードとかCDは何千枚ってあるんですけど。
DVDってよっぽど気に入ったものしか
買わないんですよ。
こんな仕事をしていながらも
DVDは10枚ぐらいしか持ってないんです(笑)。
そんなぼくにとっても『何食べ』は
数少ないライブラリーのひとつで、
一生ものにしたいなって感じちゃったんですよね。 |
永見 |
わたしもほんとうに、何回でもとにかく観たいです。
10年後にももう1回観て、
20年後にももう1回観て、
そのときの、自分のまわりが
どんなふうに変わってるかわかんないけど、
そういうときにちょっとずつ、
「あの時はこういう気持ちで観たな」
っていうふうに振り返ると、
食そのもの、生活そのものっていうのが、
このビデオの中のように
シンプルになるんじゃないかな、
っていうふうに思うんです。
だから、いろんな人に何回も観てほしいですね。 |
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本編も面白いんですけど、
苦労して作った特典映像も面白いですよ(笑)。
やっぱり宮崎、高畑両名が、
非常にこの番組自体を好きなんです。
2人はこの中で実はあんまりしゃべってないんですね。
そのかわり、すごい聞き役に徹していて、
その聞くことで、
ディレクターさんもすごくのって喋って下さって。
取材の苦労なんかも当然出てきますね。
あとはやっぱり、
今、これを観る意味っていうのを考えたときに、
特典映像っていうのはけっこう、
ヒントになってくるかなと思うんですね。
単に過去にあった傑作なので
観たほうがいいっていうだけじゃなくて、
特典映像のいいところは、
「今あなたは、じゃ、どういうスタンスで観ますか?」
っていうときに、けっこうサゼスチョンになるような
要素があると思います。
なるべく、いろいろな見方ができるようにって
本編には全編字幕もつけたんですよね。
【註】 |
特典映像
高幡功、宮崎駿両監督と
各巻1作品の番組制作者との座談会。 |
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ほぼ日 |
そういえば、読者の方からも
「字幕でも観ることができますか?」
って問い合わせがありましたよ。
『何食べ』にかかわった役割は
みなさん、さまざまだったとは思うんですが
単に「作った」「売った」って
ことだけじゃない思いが
この『何食べ』にこめられているってことが
よくわかりました。
「何食べ」の嵐の大きさを見せられた気がします。
今日はどうもありがとうございました。 |