嘉戸 | こういう伝統技法の唐紙が、 今の住環境に合うかはわからないです、正直なところ。 たとえば子供部屋には明るい部屋の方がいい。 無理矢理張ることはいいとは思わない。 せっかくやるんやったらここも、ここもって なるんですけど、でもここはやめた方がいいですよと、 ぼくら、お客さんにも言います。 それよりもちょっと灯りを落として楽しめる空間に 張らはった方が絶対いいなぁと思いますし。 |
伊藤 | きっとそうですよね。 |
嘉戸 | こういう時代、節電て言うじゃないですか。 何かがまんしてる感じがしますよね。 けれどもちょっと光落とした空間を そのまま楽しんじゃえと思ったら、 こういうものって、すごくいいと思うんですね。 電気をあまり使わない生活を我慢するっていう感覚と、 それを楽しむっていう感覚では全く見え方が変わるんで。 そういうとき、きら刷りしたものが、ね。 白って汚れやすいし、 扱いにくいことは扱いにくいですけどね。 |
伊藤 | そうなんです。白は汚れやすいから嫌、 っていう人が多いことに気付いて。 でも汚れが目立つからいいじゃない? という考え方もありますよね。 |
美佐江さん | そして、汚れないようにしますよね。 |
嘉戸 | そう、汚れやすいから 丁寧に扱うっていうのもありますね。 |
美佐江さん | 襖もちゃんと引き手に手を置けば 汚れないものですし。 |
嘉戸 | 大概そうですよ。 加工してくれって言わはんのは 汚れにくくしてくださいとか、 水を弾くようにしてくださいというのが多いです。 それはそれでもちろんすばらしいと思うんですけど、 そうしていくとどんどん、 いろんなものがおおいかぶさってきて‥‥。 それよりも本来のもののあり方の方が あまりエネルギーもかからへんし、 いいんかなと思うんですね。 |
伊藤 | 張り替えられるし。 |
嘉戸 | ほんとにね、 白い紙を白で染めるとすごくいいんですよ。 ぼくら、「紙に化粧する」って言うんです、 白い紙をわざわざ白でもっかい化粧。 ちょっと紙に傷があったとしても 上から顔料でひいてやると、 それをまた使える紙にしてくれるし。 紙に化粧するってすごいええ言葉やなと思いますね。 |
伊藤 | 強くもなるし。 |
嘉戸 | そうですね。 ぼくら、白といったら2つあって、 ほんとに白い色の白と、素材の白。 たとえばこの和紙の白はこうぞの白じゃないですか。 胡粉で染めた白は全く違うんです。 そういう使い分けとかもすごい面白いですね。 |
伊藤 | どんな紙を使うかは、お施主さんと嘉戸さんの どちらが決めるんですか。 |
嘉戸 | ぼくの仕事って、こっちから提案するのって ほとんどなくて。 |
伊藤 | そうなんですか。 |
嘉戸 | お客さんがこんなんほしいって言わはったら作る感じです。 たとえばこれやったら、料理屋さんに出入りしてる 表具屋さんが、襖紙じゃなくて、和紙、 こうぞ紙の表情の紙がほしいって言ってはったんで、 それにきらをのせた。 たとえばこれとかやったら、周りがしっくいの白なんで、 しっくいの壁に鳥の子色って、 黄色さがあまりにも目立つから、 もっと白い紙がほしいと。 それやったら漂白した純白の鳥の子があるんで、 それ、使いましょうってなって、 |
伊藤 | 確かにねぇ。 |
嘉戸 | 今までぼく、漂白した白って、 素材っぽさが抜ける感じがするので 使ったことなかったんですよ。 |
伊藤 | それはやだなぁと思うときとかって、 もちろんありますよね? |
嘉戸 | ありますね。 |
伊藤 | そのときはどうするんですか? |
嘉戸 | けれども基本的にぼくの仕事って 自分を表現する仕事ではないので。 やっぱり襖張る人がそこにいはって使わはるものなんで、 お施主さんがこんなものがいいって言わはったら それがいちばんいいかなと思います。 |
伊藤 | うんうん、じゃあ、提案を求められたら。 |
嘉戸 | もちろん提案します。 そこは日の照りがすごいから紙傷むし、 やめといた方がいいとか、 トイレの扉はすぐ汚れますよって、 そこはやっぱりやめた方がいいですよと。 また、紙の使い方にしても、 紙って表裏があるんです。 表ってつるっとしてて、裏ってざらざらしてるんですよ。 紙の表情がもっとほしい場合は敢えて裏面使ったりします。 要はちょっとぼこぼこしてる方が 光に反射して光沢を生むんで、 ちょっと光の表情がもっと出る。 |
伊藤 | ほんとに光と密接な関係にあるんですね。 歩いてるときとか、敏感になります? あ、今、いい光だなとか、穏やかだな、とか。 |
嘉戸 | 歩いてるときより、同じここの空間にいるほうが。 どっちかっていうと敏感になります。 いつもの景色でも、春と夏と秋と冬で全然違うし。 曇りの日と腫れの日と全然違うんで、 それこそきらの表情とかってわかるんで。 |
伊藤 | なるほど! この、いま壁に張っている最初の壁紙ですが、 この柄を選んだ理由って何ですか? |
嘉戸 | それは、妻のアイデアなんです。 最初に仕事やるときに、ぼくらには版木がない。 版木がなければつくれないんですね。 で、彼女の中で、水玉とボーダーは永遠のモチーフで、 それだったら自分でもできる。 まず、できるものからやろうと、 いちばん最初につくったのがこれなんです。 で、最初に張ってあると、面積もおっきいんで、 イメージがついたんです。 かみ添イコールこの壁って。 それで結構いろんなところで紹介してもらって、 これがいちばん売れたりするんですけど。 ただ、単純に水玉だけでは面白くないので、 不規則に見えるよう丸を配置しました。 線上に並べないとか、1個、敢えて仲間外れつくって、 むりやり余白を大きく取るとか、 180度回転させたら余白のところに また水玉がきれいにすっぽり入るようになるとか。 古典の文様でそういう意匠があるのを、 グラフィックデザインの経験とかけ合わせてる感じです。 そういうの考えるときは ちょっとグラフィックの頭になります。 しかし白で行くのはある意味むずかしいですね。 どんどん足していくのってできるんですけど、 白でとどめとくのってなかなか難しくて。 みんな、やっぱり色の強いものを求めはるし、 刺激が強いものに慣れてると、 やっぱ白ではものたりなかったりするんですけど、 こういうものってやっぱり素材の色とか、 もとにある白い色のよさっていうのは伝わると思うんで、 ぼくはその点でやっぱり白いものをたくさんつくろうと 考えているんです。 |
伊藤 | 嘉戸さん、ありがとうございました。 最後に、嘉戸さんは襖紙や壁紙だけではなく、 封筒やポチ袋も作っていらっしゃって。 すべて手づくりなんですよね。 |
嘉戸 | 紙漉きは、さすがにしていませんけど(笑)、 それから型抜きは外でやってもらっていますが、 あとは全部自分とこでつくってます。 |
伊藤 | 便箋に模様があるじゃないですか。 その上からペンとか筆とかで書いた時に はねたりしないですか? |
嘉戸 | 顔料のところはにじみます。 けどそういう紙なので。 |
伊藤 | それが味わいということですね。 |
嘉戸 | 妻のアイデアですが、 ふつうの便箋に手紙を書いて、 この唐紙を1枚しのばせるといいですよ。 |
伊藤 | あ! それは嬉しいですね。 |
プロダクトデザインからグラフィックデザイン、 最後に、 フフ、いい話し聞いちゃった。 |
2012-11-20-TUE
写真:有賀傑 |
||