山本 | ここ伊賀も隣の信楽も焼き物の町ですから、 いろんな作家さんを訪ねました。 もちろん、土楽のおっちゃん(福森雅武さん)の 所も行ったし、この辺の作家っていわれる人は、 ほとんど行ったんじゃないかな。 「見せてください」って。 東京の目利きのひとに教えていただいたり、 いろんな伝手をたどって、 すこしずつ人脈をひろげていきました。 |
伊藤 | 徐々に、ここにあるものが集まったんですね。 そしてお兄さんが家業の製陶所を継いで、 山本さんはギャラリーをオープンした。 建築のお仕事は? |
山本 | 建築の仕事も並行してやろうと思っていたんですけど、 どんどん、いろんな人に会ってのめり込んでいき、 建築は、自分が作れる範囲でいいと 思えるふうになっていったんです。 |
伊藤 | 「建築心」が薄れていった? |
山本 | そうなんです。ところがある時、 「自分の焼き物工房を建ててほしい」っていう人が来て。 宣伝もしていないのに、不思議ですよね。 1年くらい待っていただいて考えました。 建築って、とても責任の大きな仕事ですから、 生半可に両立を考えていいのだろうかと。 結局、やることにしたんですが、 そのあとも、カフェをつくってほしい、 美容室をつくってほしい、というふうに。 すこしずつ仕事がふえていったんです。 |
伊藤 | なるほど。 ギャラリーを本格的にスタートさせたのが‥‥。 |
山本 | 正式には2001年ですね。 |
伊藤 | やっと、私たちの知っている 山本さんのすがたにたどりつきましたね(笑)。 山本さんは、展示替えのたびに、 空間をつくりかえているんですよね。 オーナーでもあり、建築家でもあるから、 大胆なことができる。 |
山本 | はい、建物の中に「家」や 「小屋」を作ったこともあります。 石膏ボードを敷いて、 床まで真っ白にしたこともありますし。 同じ白でも、ペンキを使ったり、 漆喰を使ってみたり。 |
伊藤 | わたしは漆喰が好きなんですけれど、 どういうふうに使っていますか? |
山本 | たとえばこの展示台は漆喰で塗っています。 そうすると展示台っていう感じじゃなくて、 まるで大きな石の上にものが置いてあるかのような、 重厚なイメージが出るんです。 同じ白でも、全然違うんですよ。 |
伊藤 | 基本を「白」にしている理由はありますか? |
山本 | ギャラリーというのは 展示する作品が変わるわけなので、 空間全体をその人の作品と、 その人の空気感で満たしたい。 そのためには白という色が いちばん馴染むと思うからです。 もちろん、ツルッツルの壁だったら、 反射的なイメージになるけれど、 こういうマットな白って、 光を吸収して、フワッとした印象があるでしょう。 |
伊藤 | そのマットな印象にするために 建築家として工夫なさっていることも きっとあるのでしょうね。 |
山本 | たとえば、この壁の漆喰には、 ひと粒が1ミリくらいの 珪砂っていう細かい砂を、 混ぜて塗ってるんですよ。 |
伊藤 | 本当だ。ザラザラしてる! |
山本 | で、こっちは、 寒水(かんすい)っていう、 白い石を混ぜているんです。 |
伊藤 | 光の具合が、たしかに違いますね。 |
山本 | 寒水のほうが、珪砂よりちょっと白い。 そしてより光る感じのものなんです。 |
伊藤 | なぜ変えているんでしょう。 |
山本 | 窓から入る光が まっすぐ差すところは、 より明るくなりますよね。 でも陰になる、逆光の部分は暗くなる。 そこはすこし明るくしたいと思ったんです。 ちょっとだけそうすれば、 バランスいいかなって。 白い色と、こういう素材を組み合わせることで、 空気をうまく内包してくれるっていうか、 包み込んでくれる感じがします。 |
伊藤 | 「ギャラリーやまほん」には 敷地内に隣接してカフェがありますね。 「カフェ・ノカ」。 あそこもとても気持ちのいい空間です。 |
山本 | カフェは2005年からなんですけれど、 そのすこし前、2003〜2004年あたりから 神戸や京都からいらっしゃるお客さまが 徐々に増えてきたんです。 長いドライブのあとで、 休憩するスペースが必要だと思って。 |
伊藤 | あたりには、あまりありませんものね。 コンビニさえもない。 |
山本 | そうなんです。 そして、車で来るお客さんが休めるように、 カフェだけは靴を脱ぐようにしているんです。 |
伊藤 | なるほど! そしてカフェの壁は、 ブロック塀を白く塗っている。 |
山本 | そうですね。 もともと、廃墟みたいな感じの ブロックでつくられた建物だったんです。 床と天井は、全部自分で修理して、 スチールの扉だけは、 廃校になった小学校から貰ってきてつけました。 もともと窓のまったくない倉庫だったので、 窓をつくるためにブロックを切り崩したりもしています。 ギャラリーにもトイレがなかったので、 カフェと兼用で、 外に別棟でトイレを作りました。 だからトイレだけ新築なんですよ。 |
伊藤 | トイレも、ご自分で? |
山本 | 基礎工事と骨組みは依頼しましたが、 外壁を貼ったり、 中の壁を塗ったりは自分で。 |
伊藤 | あのトイレも、壁が漆喰でいいですよね。 |
山本 | そうです。 |
伊藤 | こうして話している間にも、 ギャラリーの空間の光が、 刻々と変化しています。 時間によってとか、季節によって、 光の入り方とか色とか雰囲気が、全然変わって。 |
山本 | 本当にそうなんです。 白だから、これだけ陰影がはっきり出る。 |
伊藤 | そのよさ、よくわかります。 |
2013-11-20-WED
写真:有賀傑 |
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