山本忠臣さんと、白い空間。
 その4

伊藤まさこさんのプロフィール

 
その2 ひとつの空間につどう、いろいろな白。

伊藤 展示替えのたびに
あたらしい空間に生まれ変わるという
ギャラリーならではのその気持ちよさは、
やっぱり白ならではのものですよね。
山本さんのご自宅って、
やはりご自分で建てたんですか。
山本 はい。
伊藤 やっぱり、白?
山本 そうですね。
伊藤 白の何がいいと思いますか?
山本 白の空間のいちばんのよさは、
ダイレクトにものが伝わることなんです。
ギャラリーであれば作品がまっすぐ伝わる。
じゃあ住宅の白は何のためかといったら、
「人の気配」を
ダイレクトに感じるためだと思うんです。
たとえば、子どもとかの気配です。
子供のようすが
ダイレクトにぼくに伝わるっていうのかな。
白は、人の印象がクリアに写るっていうイメージが
自分の中にあります。
そして、やっぱり、普段、すごく、
物に囲まれて生きてるでしょう?
物を選んだり、物を飾ったり。
だから、家が白いと、それぞれを
ニュートラルに感じることができる気がします。
伊藤 わかります!
もちろん、展示したりとか、
展示するものを選んだりとか、
それは楽しいけれど、
自宅で「白」の中に戻ると、
1回、ニュートラルになる。
うん、とてもよくわかります。
山本 そうする必要があるんですよ。
伊藤 山本さんにとって、必要なことなんですね。
山本 このギャラリーも、12、3年経っていますから、
もちろん、徐々に汚れていきます。
壁の白も、どんどん、
「深い白」になってる感じがする。
ここにしても、
展示替えのときにニュートラルに戻るために、
作品や展示台をどけて、一度空っぽにします。
そのニュートラルっていうのは、
壁の傷もそうやと思うけど、
なんかゼロじゃないっていうか。
わかります(笑)?
伊藤 わかります。
── 跳ね返す白、拒絶する白ではなく、
受け入れて染まっていく白ってことですね。
伊藤 この白い空間も、その作家さんの空気になるって
おっしゃってましたものね。
── 白の中にも、その時間が積み重なっている。
山本 これが、土壁やったら、たぶん、壁に引っ張られる。
黄土色だったり、板張りだったら、
展示作品もまったく変わってくるし、
違った見え方になる。
そういう意味で、壁って、本当に、
すごい影響力があるんです。
昔、土楽にいた岸野寛さんのお父さんである
画家の岸野忠孝さんの
水墨画教室っていうのがあったんです。
当時土楽にいた細川護光さんとか、いろんな人を集めて、
岸野さんの家でやってくれてて。
それに僕も呼んでもらってたんですね。
すると、半紙って、白ですよね。
で、一番最初の描き始めが、すごい大事っていうか。
どう筆を置いて、進んでいくか。
描きだして、失敗したら、もう続けない。
やめて、真っ新な紙に描きだす。
水墨画でも書道でも、墨で書いてるけど、
じつは白を作る作業なんです。
岸野さんのお父さんって、
陰影、墨の濃淡で描かずに、
白と黒だけで立体感を表現するっていう、すごい人で。
その時も、やっぱり、常に真っ白なところから
スタートする気持ちよさがありました。
伊藤 おもしろそう!
水墨画を習った時に、墨ではなく、
つよく「白」を感じたんですね。
── 今回「伊藤まさこの仕事展」を
ひらくにあたっては、
山本さんはどんな空間づくりを
考えられましたか。
(註:この対談は、会期前に行われました。)
山本 じつは最初すごく迷っていたんです。
今までの略歴をわかりやすく説明することであるとか、
いろいろ考えたんですけど、
結局、「伊藤さんって何?」っていうところで、
ご自身の等身大の暮らしっていうのが、
やっぱりど真ん中のコンセプトだろうと。
それを、みんなが本を読んだり、
ものを見たりして、ダイレクトに入ってくるのが
伊藤さんの世界です。
その「暮らしの楽しさ」とか、
「かわいい」とかが、ストレートに届いてる。
だから「かわいい」や「楽しい」を、
このギャラリーでも、ストレートに、
物とそのしつらえで見せたいと考えています。
まったくおこがましいですが、
伊藤さんのことをよく知らなくても、
「すごくよかった」って
伊藤さんに興味を持つくらいに
思ってもらえるようにしたいですよね。
伊藤 「なんか楽しかったね」って。
山本 「ここに住みたい」っていうくらいに。
でも実際の部屋をつくりこむのではなく、
配置だけでわかってもらえるような感じで。
── 伊藤さん、山本さん、
どうもありがとうございました。
12月1日までの会期、
たくさんのかたが喜んでくださるといいですね。

広い空間を包む、白い漆喰の壁。
今まで何気なく見ていたその壁は、
じつは光や影の具合を考えながら
作られたものだったのでした。

おだやかな光が差し込む朝も、
だんだんと夜にさしかかっていく夕暮れ時も、
外が真っ暗闇に包まれた時も、
その白い空間は、
静かに変化していきます。
それと同時に、
展示されたものも、
いろんな表情をのぞかせる。

器やものが売れて、
その場所にぽかりと空間ができると、
山本さんは展示を入れ替えて、
また新しい空間を作り出します。
空いた場所をうめるというより、
一からまた展示をしなおす、
と言えばいいのかな。
ものを移動して、置いて、
いろんな角度から眺めては
ああでもないこうでもないを繰り返す。
やがてずいぶん離れたところから眺めて
「よし」と納得すると、
展示はまた新しい表情をのぞかせるのです。

それはもしかしたら、
墨の部分を感じながら水墨画を書くのではなく、
白の余白の部分を感じながら書くのと似ているのかも。
時々、空間全体を俯瞰しながら、
ものを展示する。
ギャラリーやまほんの、
さりげなくてバランスのよい展示の
秘密が少し分かったような気がしたのでした。

伊藤まさこ



2013-11-22-FRI 

 

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  伊藤まさこの仕事展
 

伊賀のギャラリーで
伊藤まさこさんの展覧会がひらかれます。
インタビュー時の空間コンセプトから
土壇場で変更し、伊藤さんの文章にスポットをあて
本に登場してきたお気に入りのものを
言葉と共にご覧頂きます。
どうぞおでかけくださいね。


ギャラリーやまほん
三重県伊賀市丸柱1650
2013年10月12日(土)〜12月1日(日)
11:00〜17:30 火曜日休廊
伊藤まさこさん在廊日は
10月12日(土)・20日(日)・11月30日(土)
くわしくはこちらをどうぞ




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写真:有賀傑