伊藤 | 展示替えのたびに あたらしい空間に生まれ変わるという ギャラリーならではのその気持ちよさは、 やっぱり白ならではのものですよね。 山本さんのご自宅って、 やはりご自分で建てたんですか。 |
山本 | はい。 |
伊藤 | やっぱり、白? |
山本 | そうですね。 |
伊藤 | 白の何がいいと思いますか? |
山本 | 白の空間のいちばんのよさは、 ダイレクトにものが伝わることなんです。 ギャラリーであれば作品がまっすぐ伝わる。 じゃあ住宅の白は何のためかといったら、 「人の気配」を ダイレクトに感じるためだと思うんです。 たとえば、子どもとかの気配です。 子供のようすが ダイレクトにぼくに伝わるっていうのかな。 白は、人の印象がクリアに写るっていうイメージが 自分の中にあります。 そして、やっぱり、普段、すごく、 物に囲まれて生きてるでしょう? 物を選んだり、物を飾ったり。 だから、家が白いと、それぞれを ニュートラルに感じることができる気がします。 |
伊藤 | わかります! もちろん、展示したりとか、 展示するものを選んだりとか、 それは楽しいけれど、 自宅で「白」の中に戻ると、 1回、ニュートラルになる。 うん、とてもよくわかります。 |
山本 | そうする必要があるんですよ。 |
伊藤 | 山本さんにとって、必要なことなんですね。 |
山本 | このギャラリーも、12、3年経っていますから、 もちろん、徐々に汚れていきます。 壁の白も、どんどん、 「深い白」になってる感じがする。 ここにしても、 展示替えのときにニュートラルに戻るために、 作品や展示台をどけて、一度空っぽにします。 そのニュートラルっていうのは、 壁の傷もそうやと思うけど、 なんかゼロじゃないっていうか。 わかります(笑)? |
伊藤 | わかります。 |
── | 跳ね返す白、拒絶する白ではなく、 受け入れて染まっていく白ってことですね。 |
伊藤 | この白い空間も、その作家さんの空気になるって おっしゃってましたものね。 |
── | 白の中にも、その時間が積み重なっている。 |
山本 | これが、土壁やったら、たぶん、壁に引っ張られる。 黄土色だったり、板張りだったら、 展示作品もまったく変わってくるし、 違った見え方になる。 そういう意味で、壁って、本当に、 すごい影響力があるんです。 昔、土楽にいた岸野寛さんのお父さんである 画家の岸野忠孝さんの 水墨画教室っていうのがあったんです。 当時土楽にいた細川護光さんとか、いろんな人を集めて、 岸野さんの家でやってくれてて。 それに僕も呼んでもらってたんですね。 すると、半紙って、白ですよね。 で、一番最初の描き始めが、すごい大事っていうか。 どう筆を置いて、進んでいくか。 描きだして、失敗したら、もう続けない。 やめて、真っ新な紙に描きだす。 水墨画でも書道でも、墨で書いてるけど、 じつは白を作る作業なんです。 岸野さんのお父さんって、 陰影、墨の濃淡で描かずに、 白と黒だけで立体感を表現するっていう、すごい人で。 その時も、やっぱり、常に真っ白なところから スタートする気持ちよさがありました。 |
伊藤 | おもしろそう! 水墨画を習った時に、墨ではなく、 つよく「白」を感じたんですね。 |
── | 今回「伊藤まさこの仕事展」を ひらくにあたっては、 山本さんはどんな空間づくりを 考えられましたか。 (註:この対談は、会期前に行われました。) |
山本 | じつは最初すごく迷っていたんです。 今までの略歴をわかりやすく説明することであるとか、 いろいろ考えたんですけど、 結局、「伊藤さんって何?」っていうところで、 ご自身の等身大の暮らしっていうのが、 やっぱりど真ん中のコンセプトだろうと。 それを、みんなが本を読んだり、 ものを見たりして、ダイレクトに入ってくるのが 伊藤さんの世界です。 その「暮らしの楽しさ」とか、 「かわいい」とかが、ストレートに届いてる。 だから「かわいい」や「楽しい」を、 このギャラリーでも、ストレートに、 物とそのしつらえで見せたいと考えています。 まったくおこがましいですが、 伊藤さんのことをよく知らなくても、 「すごくよかった」って 伊藤さんに興味を持つくらいに 思ってもらえるようにしたいですよね。 |
伊藤 | 「なんか楽しかったね」って。 |
山本 | 「ここに住みたい」っていうくらいに。 でも実際の部屋をつくりこむのではなく、 配置だけでわかってもらえるような感じで。 |
── | 伊藤さん、山本さん、 どうもありがとうございました。 12月1日までの会期、 たくさんのかたが喜んでくださるといいですね。 |
広い空間を包む、白い漆喰の壁。 おだやかな光が差し込む朝も、 器やものが売れて、 それはもしかしたら、 伊藤まさこ |
2013-11-22-FRI
伊賀のギャラリーで
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写真:有賀傑 |
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