「白竹」の最初に登場いただくのは、
竹細工作家の坂田旬(さかた・じゅん)さん。
1955年生まれ、別府在住のベテラン作家です。
じつはアトリエを訪ねる前に、
別府の町で竹細工の専門店を見ていたときに、
とても目立つ、うつくしいざるを見つけました。
それが坂田さんの作品でした。
しろうと目にも、かたちの端正さや、
細部のていねいさなどから、
「手の込んだもの」ということがわかるものでした。
坂田さんのつくるざるやかごなど、
白竹をつかった日常のうつわは、個展やグループ展のほか、
所属している「別府クラフト協同組合」を通して、
デパートや専門店などへ卸されているそうです。
こちらが坂田旬さん。
別府の中心地からすこし離れた閑静な高台に、
機織りをなさっている奥さまとふたり、
共同のアトリエを構えています。

坂田さんのつくる「白物」(しろもの)、
つまり白竹をつかった細工は、たいへん美しく、
そして丈夫。
別府では「匠」のひとりとして、
とても人気の高い作家さんなんです。
伊藤さんいわく、
「坂田さんの作品は、きりっとしています」。

坂田さんのアトリエにあげていただきました。

「白といっても、
 これで25年ぐらい経ってるんですよ」
と見せてくださった作品。
左が製作中のもの、右は25年を経たもの。
こんな経年変化もうつくしい。

坂田さんが最初にふれ、
竹細工の道にすすむことを決めたきっかけは、
茶道具の世界だったそう。
それは京都をベースにした、研ぎ澄まされた世界でした。

感動はしたけれど、それは自分の仕事ではない。
そう感じた坂田さんは、学校に通いながら、
ひととおりの技術を学んでいくなかで、
「日常のもの」の作り手になる決意をします。

「白竹の細工は、素材がとても大事なんです」
つまり、後で塗りをほどこすならば、
多少の傷があっても使えますが、
素材そのもののうつくしさがきわだつ白竹細工は、
素材がよいことが、まず大切。
傷のない竹を仕入れ、さらに自分で厳選して使うのです。

作家は、基本的に、「ひごづくり」から自分でします。
油抜きは専門の工場でしてもらい、
「丸竹」を「割竹」に、
そして、そこから「ひご」をつくります。

厚いひごは、じつは2つに割(さ)いていっしょに使います。
そうすることで弾力がうまれ、編みやすくなっていく。
1枚のままだと硬くて編めないひごも、
2枚にすれば、やわらかさが出て、
なおかつ、2枚を合わせることで、強度も出る。
「強い、というのは、
 受けた力を分散する力もあるということです。
 衝撃に強くなるんですよ」

「知恵と工夫の塊ですね!
 だって、こうするのがいちばんいいっていうふうに、
 古くからだんだんわかってきたわけですもんね」

これは竹を曲げる道具。
下からガスの炎で加熱し、
水に濡らした竹を、カーブにあてて、
ひっぱって、くさびで留める。
いい竹は、「しなやかさ」だけではなく、
「粘り」があるのだそうです。
かんたんには割れたり折れたりしない、
芯の強さのようなことでしょうか。
なんだかちょっと人間的ですよね。

こちらは30年ほど経ったもの。
修行時代につくったもので、
今でも、うどんやそばを入れて使っているそうです。

「100年経っても色がもうすこし付くぐらいで、
 そんなに変化はないと思うんですよ。
 ただ、ひごがやせていきます。
 だんだん収縮するんですね」

「しなやかでいながら端正。
 坂田さんの作品を初めて見た時、
 そんな風に感じました。
 お話を伺っている間に何度か
 『ねばりがある』という言葉を耳にしました。
 もしかして『ねばり強い』という言葉は、
 こんなところからきたのかしら? と
 30年前に編まれた
 ざるを見ながらそんなことを思いました。
 ねばり強く、しなやかで端正なんて、
 まるで物腰やわらかだけれど芯の強い、
 美人さんのようではありませんか。
 美しい人が美しく年を重ねていくように、
 美しい白竹でていねいに編まれたざるやかごは、
 いつまで経っても色褪せない。
 それどころかより
 いい味わいになるものなのですね」(伊藤さん)

次回は、竹細工の材料となる
「白竹」をつくる製竹所におじゃまします。
どうぞおたのしみに!

2015-02-23-MON 

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(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN
写真:有賀傑