- 伊藤
- とても使いやすそうなしゃもじですね。
白漆で仕上げているのが山本さんの作品で、
ふるい竹の地肌が出ているのは、
前から使っているもの?
- 山本
- はい、もう30年くらい前ですね。
結婚した時に買ったんです。
その時は左右対称だったんですよ。
- 伊藤
- いわゆる、ふつうのしゃもじ?
先端が真ん丸のものだったんですね。
- 山本
- はい。使っていくうちに
形がすり減っていったんです。
- 伊藤
- すごい! ここまで形がかわるんですね。
- 山本
- ところが、すり減ったことに気がついたのは
ずいぶん経ってからなんです。
最初の頃は、僕は「ものづくり」をしていなかったから、
そんなことさえ気付いていなかったんですよ。
- 伊藤
- 気がつかないくらい、少しずつ。
- 山本
- はい。それで、ものづくりを始めて
20年くらいした時だったかな、
ある時、形がすごい変わってるなぁと。
毎日使っているうちにすり減ったということは、
この形って「必然的」だなあって思ったんです。
- 伊藤
- そうですよね!
- 山本
- ものづくりって、長い間続けているあいだに、
「自分がデザインしたい」とか、
「こうやったら売れるんじゃないか」とか、
そんなことを考えるようになったりもするんです。
でも、しゃもじがこんなふうにすり減って、
そこに必然的な形というものがあるって気がついた時、
ぐっとその方向に行くことができて。
シェーカー(*)の家具を習作し始めたのもそうなんです。
彼らは売るためではなく、
自分たちが使うために、ものをつくっていますよね。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
(*)シェーカー
アメリカ合衆国のニューイングランド地方を中心に、
自給自足の集団生活をおくっていたシェーカー教徒たち。
自分たちの暮らしのためにつくる生活用品や家具は、
装飾性をそぎ落としながらも、強さがあり、
実用品本来の機能美をもっている。
その「有用の美」に魅せられた木工作家も多い。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
- 伊藤
- 本当に必要だから生まれるもの、なんですね。
こんなふうな、椅子といい。
これは、座面の部分が丸いから、
いろんな方向で作業ができるってききました。
- 山本
- そうなんです。しゃもじも、
シェーカーの家具も、同じ考え方というか。
ある時に、はたとそれに気付いて、
この形のしゃもじを、削ろうと思いました。
そのときに、こちらの長く使っているほうの
柄(え)の辺りの、
角が当たる感じを直したいなと思って。
持つときのてのひらが痛くないように。
- 伊藤
- ほんとうですね、一見、同じ形に見えるんですが、違う!
- 山本
- 裏と、柄のカーブを変えたんですよ。
この形に関しては、究極的な形だと思ったけれども、
これ、米がよく引っ付くんですよね。
最近のプラスチック製の、ツブツブのしゃもじ、
あるじゃないですか。
- 伊藤
- ありますね、ごはん粒がつかないようになっている。
- 山本
- あの米離れのよさを再現したくて、
小さいノミで削って、凹凸(おうとつ)を付けました。
- 伊藤
- なるほど!
- 山本
- そして仕上げに漆をかけて、強くする。
そういうものを、考えながら作っていくのが好きなんです。
- 伊藤
- 私、ふだんのしゃもじって大きいなぁと思っていたんです。
常々。お茶碗とかにきれいによそえない。
でも山本さんのしゃもじだと、
とても上品によそうことができる。
この小ささに、一瞬、驚くんですよね。
でも使ってみると「あ、いいんだ!」。
これは製品化されてるんですか?
- 山本
- これからしたいなぁと思っています。
- 伊藤
- あ、そうなんだ。ぜひぜひ欲しいです!
- 山本
- ただ、この形にして、はたと気付いたのは。
- 伊藤
- はい。
- 山本
- 左利き用を作らないといけないんだ! と。
左右対称ならば、右の人でも左の人でも使えるけど、
- 伊藤
- そうですよね(笑)。
- (つづきます)
2015-03-20-FRI