- 山本
- カトラリーに関しては、
使いやすい形ってなんだろう?
ということに、強い関心があるんです。
なんでもそうなんですが、
一回、実際に作って、家で使いながら、
「いや、もう少しこの型をこのくらい変えてみよう」とか、
それをもうずっと繰り返していく。
そのうち、何年か使っていると、
「あ、これでいいかもしれない」っていう時が来ます。
そうしたら、自信を持って売ることができる。
けれども、最初、デザインだけして、
「これ、結構いいな」と思ったとしても、
そういうものって自信を持って売れない。
自分の手で確かめなければ。
- 伊藤
- じゃあ、ここに並んでるものは、
「ああでもない、こうでもない」と、
試行錯誤を繰り返された結果なんですね。
- 山本
- そうなんです。
- 伊藤
- 山本さんの工房の本棚に、
調理器具の古書があって。
それを見て思ったんですが、
長く使われてきたような完成された道具というのは、
あんまりデザインされていない。
使いやすさを追求していったら、
この形になった、っていうようなものばかりですね。
山本さんも、そういうものがお好きなんでしょうね。
- 山本
- はい、たぶん僕、道具が好きなんです。
最近そのことを強く自分で思います。
家具も、生活の道具だし、
器も道具のようなものじゃないですか。
- 伊藤
- そうですよね。
- 山本
- その中でも特に「使い込まれるもの」が好きで。
道具として、しっかり頑張ってるみたいな感じが、
なんだかいとおしいんです(笑)。
器だったら、料理のために、静かに、
「私は頑張ってます」みたいな器が好きなんです(笑)。
- 伊藤
- なるほど。
- 山本
- 道具性みたいなのが、
ちゃんと入り込んでいる器というのかな。
その力が、静かに伝わってくるような。
- 伊藤
- なるほど。道具。
この工房も、とても整頓されていますよね。
そしてひとつひとつの道具に
愛情がある感じがします。
- 山本
- ありがとうございます。
- ──
- カレーを山本さんの木の匙でいただいて驚きました。
木の匙って、ものによっては、
ちょっと厚かったりすることもあるんですが、
とても食べやすくて。
- 伊藤
- そうですね。
- 山本
- その「ちょうどいい具合」を探して
厚さを変えたり、試作しているのが、
つくる工程のなかでいちばん好きなんです。
- 伊藤
- 木工を始めた最初の頃は、
木の肌を生かしたものを作っていらっしゃったんですよね。
最初から漆をされていたわけでは‥‥?
- 山本
- 最初は漆はしていなかったですね。
それどころか、器も。
長野にいた頃は、家具ばかり作っていたんですよ。
- 伊藤
- そうなんですね! 大きなものばかり?
- 山本
- なにしろ長野というのは木工の材料に恵まれています。
町に材木屋も多いし、
足をのばして岐阜に行けば、材木市もあるから、
好きな幅の好きな木をいつでも買えるんです。
だから、大きな家具を作ることもできました。
ところが岡山に戻って来たら、
材木屋さんに並ぶ木が、
中国山地から出てくる木なのかな、
小ぶりなんですよね。
- 伊藤
- なるほど!
- 山本
- その小さな木を見た時に、
家具を作ろうと思っても、
大きなものを作るには小さな木を剥ぎ合せるしかない。
そうしたときに、見てくださる人たちには、
なんとなく集成材に近いような印象を与えるかな、と。
小さな木も大きな木も、1本の木に変わりがないのに、
小さい木は剥ぎ合せると、
なんだか安い木に見られてしまうんです。
それはあまりに、木がかわいそうな感じがして。
それだったら、小さな木を生かした
ものづくりができるんじゃないかと思って、
ろくろを始めたんです。
ですから器やカトラリーづくりは、
岡山に帰ってからなんですよ。
たとえば木の匙は、小さなオリーブの枝からでも
作れるわけじゃないですか。
この土地では、剪定されたオリーブの枝が、
何も使いみちがないからと、山積みにされてたんですよ。
それがあまりにせつなくて。
- 伊藤
- そうですよね。
- 山本
- 剥ぎ合せずにできる。
「1本の木なんだ」っていうことに関しては、
大きな1枚板のテーブルと同じようなものづくりなんです。
小さな木だって、庭にある木だって、
木工の手にかかれば形になるんだっていうことを、
仕事としてやりたいんです。
- (つづきます)
2015-03-23-MON