伊藤 | こうして展示替えのあいだの なにも置かれていない空間に入ると、 「ギャラリーやまほん」の 大きさにおどろきますね。 バックヤードまで含めたら、 テニスコートくらいありそうです。 |
山本 | そうですね、広いです。160平米かな。 奥行きも30メートルくらいありますから。 |
伊藤 | こんな大容量の空間だったら、 展示のたびに変化させるたのしみも大きいですね。 山本さんは、じつは建築家でもある ギャラリーオーナーだから、 できることがいろいろあるんだと思います。 まずは、このギャラリーをはじめたきっかけを おしえていただけますか。 |
山本 | 小学生の時は、 陶芸家になりたいって思っていました。 家業が製陶所なんです。 |
伊藤 | 伊賀に生まれて、お家が製陶所! ご本人も陶芸が好きだったら、 作陶の道に進みそうなものですよね。 建築に行ったのは、どうしてなんですか。 |
山本 | 兄が美大に行ったんですよ。 ぼくも焼き物とファインアートが好きだったけれど、 得意なのは数学と物理でした。 そんな自分が、高校生のとき進路を考えて、 いちばん総合的にできるものは何かなぁと思った時、 建築に思い当ったんです。 建築に行けばインテリアもできるでしょう。 けれども家の事情で 私立大学に行くわけにはいかなかったし、 かといって国立を狙うのも難しかった。 それと一番は大学に行きたいって思いもあまりなくて。 それで、高校を出てから 設計事務所に入ったんです。 はやく現場のこともしっかりと知りたかった。 鉛筆で線の引き方とか、 いちからその事務所で教えてもらいました。 |
伊藤 | お近くでですか? |
山本 | 設計事務所は大阪でした。 その後、入った工務店も大阪です。 その工務店は東京や大阪で活躍する建築家と 仕事をする機会の多いところだったので、 勉強になるなと思って、入ったんです。 でも入る時に「3年で辞めます」って宣言して(笑)。 |
伊藤 | えっ? それはなぜ? |
山本 | はやく独立しようと思っていましたから、 急に辞めて迷惑かけないように、 その間にしっかりと覚えるつもりで 最初から宣言していたんです。 それでも採用してくれたのはありがたかったです。 そして、その工務店に勤め、 ちょうど3年後に父が倒れたんですね。 とにかく帰ってきてほしいという父の言葉で、 兄と相談して、ふたりで戻りました。 田舎にもどることには抵抗がありませんでした。 というのも、いずれ都会ではなく 田舎で暮らして子どもを育てたい、 という強い気持ちがあったんです。 |
伊藤 | そのときは、 製陶所を継ぐ道も考えにありましたか? |
山本 | はい、家業ももちろん好きだったので、 焼き物をやるか建築を続けるか悩みました。 けれども家業は兄が継ぐことになった。 そしてぼくの性分として、 兄と違った仕事をしたかったので。 では建築なのかと考えると、 伊賀では設計事務所としての仕事があまりないんです。 伊賀では住宅は建築家ではなく 大工さんに直接頼むのが当たり前ですから。 そういう悩みをかかえつつ、 とりあえず、腕試しで作ったのが このギャラリーだったんですよ。 |
伊藤 | とりあえずの腕試し!(笑) |
山本 | そうなんです。 建築の腕が試したいと、 倉庫を改築しようと思い立ちました。 父の焼き物を、ファインアートといっしょに 展示する、つまり工芸とアートが 入り混じった空間をつくろうと思って、 最初は実家の建物を改築しようと、 倒れた父親に提案したんですね。 |
伊藤 | お父さんの作品を展示販売するために。 |
山本 | 父からも「やったらいい」と言われたんですが、 図面を見せたら、お店として、 通路も細くて、長くて「全然あかん」と。 せっかく伊賀にいるのだから、 間口のうんと広い入口をつくったほうがいいと。 「じゃあ、借りてやればいい」 ということになって、 ここを借りることになったんです。 |
伊藤 | 最初は、どういう感じだったんですか。 |
山本 | 倉庫なのでいろいろな在庫などがあり、 徐々に掃除をしていくと こんなふうながらんとした空間ではありましたが、 さらにシンプルにというか、 まず、張ってあった天井や小部屋などを すべて取払いました。 そして自分が好きなドナルド・ジャッドの作品や 信楽の大壺、 兄や実家の焼き物や黒楽茶碗などを 展示するギャラリー空間をイメージして設計し、 毎日少しずつ自分自身で間仕切り壁を作り、 アプローチに煉瓦を敷き、 直接窓枠が見えないように、 また光が間接照明的になるように 窓側を全面カーテンにするといった工事をしていきました。 |
伊藤 | それってすべて、 山本さんが手仕事でなさったということですよね。 |
山本 | そうですね。 ぼくはもともと工務店にいたし、 作り方は、住宅と一緒ですから。 |
伊藤 | 1人で黙々と? |
山本 | 最初のとりあえずの完成までは、 半年くらいかけてやったかな。 昼間、焼き物の仕事を手伝って、 夕方から夜にかけて工事です。 それで、完成させてみたら、 「すごくカッコいいぞ!」と。 まったくの自画自賛ですけれど、 ギャラリーをやらなくてもいい、 と思えるくらい、満足したんです。 |
伊藤 | えっ(笑)? |
山本 | 実際、何ヶ月間か、空(カラ)の状態で、 ニヤニヤしてたかな。 けど、それもあれやし、 とりあえず家の陶器を並べてみたんですが、 全然、よく見えなくて。 |
伊藤 | 合わなかった? |
山本 | そうなんです。 それで、この空間に合うものを 探しだしたっていうのが、 ギャラリーを本格的に始めたきっかけなんです。 |
2013-11-18-MON
写真:有賀傑 |
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