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さてここで、来年施行される、
山田さんの専門分野である会社法のことを
お訊きしたいと思います。
新会社法とは、
何をしやすくし、何を防止しようとして
生まれる法律なのでしょうか。
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山田 |
要するに、国は、
新しい会社が生まれてほしいと思ってるんです。
しかも、小さな会社が
たくさんできるイメージではなくて、
マイクロソフトとか、インテルとか、
ものすごくでかい、新しい企業が
ザックザックできればいい、
そして、税収が稼げればいい、
ということを考えている。
それがこの法律の大きなねらいです。
景気を回復させるには
売上を増やすか費用を減らすかしかないので、
世界にはばたけるような、でかい企業が
ガツンとできれば、
国の売り上げが増えるわけです。
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新会社法の内容を見ると、
資本金が1円でも
株式会社をつくることができたり、
取締役がひとりでもよくなったりで、
「簡単に会社をつくれるようになるんだなぁ」
という印象しかないんですけれども、
それがそういう効果を生むんですか?
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山田 |
まさにそこですね。
「簡単に会社をつくれるようになるんだなぁ」
と思って、起業する人が
たくさん現れるでしょう。
1万人起業する人がいれば、
そのなかのひとりぐらいは
バカ当たりする人が出てくるんじゃないか?
ということなんです。
起業って、そんなに
成功するものではないんですよ。
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新会社法にあわせて
「それでもあなたは起業するのか?」というような
危機感を促す本もたくさん出ていますね。
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山田 |
いい企業を生まれさせたいと思ったら、
会社に直接お金を渡すか、
起業をしやすくして
いい企業が生き残るのを待つか、の
どちらかしかないんです。
だったら、起業を増やしたほうが、
楽ですからね。
現状の制度でも
孫さんや三木谷さんという人たちが
生まれ出ています。
さらに規模を100倍に増やせば、
ソフトバンクや楽天レベルが
100くらい生まれるだろう、ということです。
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どこにビル・ゲイツがいるか、
わからないですもんね。
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山田 |
そう。ひとことで言えば、
ビル・ゲイツを探すプロジェクトが
この新会社法です。
日本はこれまで、諸外国に比べて、
会社をつくりにくかったんですよ。
株式会社を設立するには、これまで
資本金1千万円が必要だったんです。
そんな国、ほかにはないですからね。
アメリカやイギリスにいたっては0円です。
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そうなんですか。
1千万円は、ちょっとやそっとで
用意できる額ではないですね。
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山田 |
1千万円じゃ、学生が起業できないです。
ビル・ゲイツのような人は、
お金がない学生から出てくるものですから、
新会社法では、資本金は1円でもいい
ということになったんです。
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それで日本が潤っていくといいのですが、
起業するほうは、
注意深くやらないと、大変なことになりますね。
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山田 |
ただ、ギャンブラーというのは、
自分だけが成功すると思って
ギャンブルをするものだし、
人間は何事も勉強ですからね。
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── |
はい。
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山田 |
だから、みんなしっかり考えて
首をつらない程度にがんばるんです。
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国のもくろみどおり、
日本はこれから新しい会社がボンボン生まれて
大人はいろんなアイデアを出してそれぞれ闘い、
景気がよくなっていく、ということに
なるんでしょうか。
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山田 |
これからは、貧富の差が
ますます激しくなるのかな、という気はします。
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── |
なんと。
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山田 |
いま、日本は、そういう流れにいます。
つまり、アメリカタイプに動いているんです。
ですから、貧富の差は、アメリカのように
激しくなっていくことが予想されます。
きっと、年収3億円の人もいれば、
年収300万円の人も多い、というように
なるんじゃないかな。
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── |
中流がいなくなって、
上と下に二極分解するんですか?
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山田 |
そうです。
普通のサラリーマンが「年収300万」のほうに
流れていくのではないでしょうか。
果たして、それがいいのかと問われると、
あまり好ましくはないんですけれども。
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サラリーマンの年収もどうにか
アップしていってほしいんですが。
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山田 |
そうもいかなくなっていくんですよ。
日本の社長の給料はだいたい
3000万とか5000万とかなんですけれども、
諸外国の企業のトップの人の給料は、
最低でも1億円なんです。
会社というものは、トップの能力に
ひじょうに左右されるんですよ。
ですから、社長にいっぱいお金を払うことにして、
優秀な人を社長にしたほうが、
企業は儲かるんです。
では、社長の給料をどこから捻出するかというと?
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従業員の給料を減らしていこう、
ということになりますね。
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山田 |
そうです。
おそらくみなさんは、自分だけは
貧富の「下」のほうにならないと
思うことでしょう。
これからも年収は下がらないし、
自分は中流か上のほうになると思っているから
「日本はアメリカタイプになってきたね。
もっと諸外国を見習って‥‥」
とか、そんなことを言ってるんですよ。
あと20〜30年後には、
貧富の差は広がりますよ。
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大変ですね、これから会社員は。
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山田 |
会社員ですから、ご自分もですよ!
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── |
ははははは。
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山田 |
のんびりしていないでくださいよ。
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でも、企業も人を使わないといけないですから、
やる気を出させて
能率をあげないといけないでしょう。
そうなると、給料を
上げたくなるんじゃないでしょうか。
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山田 |
いやあ、逆に危ないんですよ。
日本だけじゃなくて、いろんな国に、
安い人件費の労働力はいくらでもあるんで、ねぇ。
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── |
うーん、首をつらない程度に
がんばらなくては‥‥。
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山田 |
19世紀は、
どんどん貧富の差がはげしくなっていって、
社会主義という考え方が生まれたでしょう。
そうやって、似たようなことが、また
1世紀や2世紀の周期で
起きてくるんでしょうね、きっと。
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── |
歴史は繰り返すんですね。
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山田 |
ええ。そのなかの端子が、新会社法なんですよ。
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── |
でかい話ですね。
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山田 |
でかい話です。
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(つづきます!)