- ──
- こちらは「専用ルーム」なんですか?
- スタッフの方
- はい、そうです。
映画の中でインクマンと呼ばれている
岡元俊雄さんの創作部屋です。
- ──
- ここで、こうして、寝っ転がって。
割り箸で墨汁を塗りたくるように、
制作されているんですね。
- スタッフの方
- はい、これが、いつものスタイルです。
もともとは作品倉庫で、
足の踏み場もない状態だったんですが、
ここがいちばん、
俊雄さんがリラックスできたんですね。
- ──
- 倉庫がよかったのは‥‥。
- スタッフの方
- 誰にも邪魔されることなく、
大好きなアンパンマンのうたを、
爆音で聴けるんです。
- ──
- アンパンマン。
- スタッフの方
- はい、爆音で。
- ──
- 愛と勇気の歌を聴きながら、
このような、すごい迫力の作品を。
はあ、見入ってしまいます。
- スタッフの方
- 次のグループに、まいりましょう。
こちらの班では、地域の駅や
公園のトイレの清掃作業と平行して
創作に取り組んでいます。
- ──
- なるほど。
- スタッフの方
- 絵を描かれるかたもいらっしゃれば、
ダンボールのトラックを、
毎日たくさん制作されるかたもいて。
- ──
- うっわー、すごい数‥‥の、トラック。
- スタッフの方
- こちらの鵜飼結一朗さんの作品は、
海外で大人気でして、
NYタイムズにも掲載されたんですよ。
- ──
- えっ、すごい!
- スタッフの方
- いまはボール紙に描いておられます。
1枚90円くらいの。
- ──
- はあ、お安い。
- スタッフの方
- 昨年、それが1枚「90万円」で売れました。
ニューヨークで。
- ──
- お高い!
90円の紙に描いたものが、90万円。
- スタッフの方
- しかも、ぜんぶで9枚売れました。
- ──
- 9かける9っていうことは‥‥。
- スタッフの方
- 1日2時間ほど取り組まれるんですが、
1枚につき、
1カ月くらいで完成させています。
- ──
- 1日に、ほんの2時間。
あ、トイレの掃除もありますしね。
- スタッフの方
- はい、トイレ清掃が大好きで、
本人にとっては、どちらも
楽しくて仕方のない仕事のようです。
- ──
- NYタイムズとか、90万円とか、
それがすべてじゃないでしょうが、
でも、すごいことです。
- スタッフの方
- それでは続きまして、
こっとん班のご案内をいたします。
こちらは、女性ばかり18名の班で、
絵のかたもいらっしゃいますが、
布や糸を使った表現のかたが多くて。
- ──
- なるほど。それで「こっとん班」。
- スタッフの方
- たとえば、瀧口真代さん。
彼女の作品は、
布をつまんで糸で縫っていくので、
生地がだんだん‥‥。
- ──
- 縮んじゃう。
- スタッフの方
- ええ、このように。
- ──
- 本当だ‥‥ちぢこまってます。
- スタッフの方
- 瀧口さんの場合は、
1着につき、
1年から2年くらいの時間をかけて、
仕上げられています。
- ──
- 作品名が、どれも「かいじゅう」だ。
- スタッフの方
- ひとつの作品に手間暇がかかるので、
作品の数自体は少ないです。
瀧口さんの作品も、出展依頼があり、
展覧会で展示されていたりします。
- ──
- アートとしてはもちろんなんですが、
単純に、お洋服として、
とても、おしゃれなものに見えます。
着れるかどうかわかりませんが‥‥。
- スタッフの方
- お次の方は、清水千秋さんと言って、
糸で絵を描くかたです。
ハリウッド俳優をモチーフにしたり。
ジョニー・デップさんだとか。
- ──
- カリブの海賊ですよね。
やまなみさんのサイトで見ました。
壇蜜さんとか日本の芸能人から、
ピカソのゲルニカの刺繍もあって、
見ていて、おもしろかったです。
- スタッフの方
- はい、ありがとうございます。
それでは、次の女性‥‥。
- 田中
- 田中乃理子です。
- スタッフの方
- はい、田中乃理子さんです。
- 田中
- わたしがつくっている刺繍です。
- ──
- えっ、これ、ものすごい緻密‥‥!
- 田中
- 赤、黒、青、黄色、水色‥‥。
- スタッフの方
- 田中さんは、7色の糸を1組として
一筋ごとに色を変えて、
こうやって布に縫いつけていきます。
この作品で、何年目ですか?
- 田中
- 5年です。
- ──
- この作品、5年かかってるんですか。
- 田中
- あと何年かかるかわからないんです。
- ──
- そうでしょうね。
だって、ここでまだ5年ですもんね。
- 田中
- はい。あと何年かかるやろう。
- ──
- はー‥‥。
- スタッフの方
- 最後は、河合由美子さんの作品です。
河合さんは、布に、糸を、
ぎっしり、みっちり。
サークル状に縫い込んでいく表現で
創作しておられます。
- ──
- いや、おそろしい密度です。
ウズが、立体化しちゃってますもんね。
- スタッフの方
- これまでは、真っ直ぐ縫えるようにだとか、
縫い目が揃うようにだとか、
製品にするために、まるで訓練かのように
取り組んだこともあったのですが。
- ──
- ええ。
- スタッフの方
- それだと、なかなか
おもしろく取り組むことができず、
「それなら、好きなように縫ったら?」
と促したら、
誰に言われることもなく、
いつしか「丸」に行き着いたそうです。
糸をぐるぐると縫い込んでいくことは、
彼女にとって、
安心できる行動のひとつのようですね。
- ──
- 心が、落ち着く。なるほど。
- スタッフの方
- ご案内するのは、この部屋で最後です。
- ──
- 失礼します。
- スタッフの方
- まずは、鵜飼裕之さんの作品です。
- ──
- はい。
- スタッフの方
- 鵜飼さんは、感情が波立って
ストレスを感じているとき、
こうして紙に黒のボールペンで
ぐるぐると描くことで、
自分自身を落ち着かせているんですね。
- ──
- 穴に‥‥吸い込まれそうです。
- スタッフの方
- 鵜飼さんの作品も、
かっこいいお洋服の模様になって、
海外で販売されております。
たまに日本の芸能人の方も、
TVで着てくださっていたりして。
- ──
- でも、障がいのある人の作品を
洋服の柄に使ってますとは、
ブランドさんのほうでも、
とくに、言ってないんですよね。
- スタッフの方
- そうですね、単純に、
作品を評価していただいているんです。
それが、なんだかうれしくて。
- ──
- つまり、洋服に載せたときに、
純粋に「カッコいいもの」として。
- スタッフの方
- 最後、酒井美穂子さんをご紹介します。
酒井さんは、一日中、こうして
ラーメンの袋を触っておられるんです。
- ──
- はい、存じ上げています。
が、えーっと、それも創作なんですか。
- スタッフの方
- わたしたちは、
いちばんその人らしくいられる活動や、
誰にもゆがめられず、
ご自身の世界を築くことが大切だって
思っています。
それがアートかどうかはわからないですけど。
- ──
- なるほど。
- スタッフの方
- 酒井さんは、この20年以上、
ラーメンの袋を
片時も離さず触っておられるんですね。
- ──
- この「サッポロ一番 しょうゆ味」を。
20年以上も‥‥毎日毎日。
これ、しょうゆ味じゃないと‥‥。
- スタッフの方
- ダメなんです。
- ──
- 「サッポロ一番」といえばの
「みそ」や「塩」じゃダメなんですか。
- スタッフの方
- そうなんです。
毎日ひとつ、新しい「しょうゆ味」を、
ご自宅から持って来られています。
- ──
- で、その酒井さんの触った「しょうゆ味」を、
こちらでは、日付を振って、
ずっと何年も保管されてきているんですよね。
- スタッフの方
- 当初は、別の活動を提供しようと
はたらきかけていたんですが、
酒井さんにしてみたら、
ずっと「しょうゆ味」を触っていたいんです。
- ──
- ええ。
- スタッフの方
- つまり酒井さんは、ただ単に、漫然と
ラーメンの袋ばっかり触っている人ではなく、
「サッポロ一番 しょうゆ味」に
「いつでも触っていたい人」だったんです。
つまり「しょうゆ味」を触ることは、
彼女の意思表示なんだと、気づいたんですね。
- ──
- なるほど。
- スタッフの方
- 私たちにとっては意味のないことであっても、
彼女にとっては
何より大切なことなんだろうなって。
ならば、私たちのすべきことは
彼女が「しょうゆ味」を存分に触れる環境を
整えることなんだ‥‥と。
- ──
- 酒井さん、おいくつのころから?
- スタッフの方
- はい、17歳のときに、ご自宅にあった
「サッポロ一番 しょうゆ味」
に出会って以来、ずーっと‥‥ですね。
なので、正確には「23年」になります。
いま、40歳なので。
- ──
- はー‥‥。
- スタッフの方
- ラーメンの数は、
すでに「8000個」を超えているんです。
<つづきます>
2019-07-12-FRI
やまなみ工房のアーティストの作品を、
TOBICHI2に展示します!
山下完和(まさと)施設長はじめ
やまなみ工房のみなさんが、
滋賀から車で運んできてくださいます。
やまなみ工房まで行かずとも、
直に作品を鑑賞できる貴重な機会です。
また会期中は連日、
19時30分~20時30分のスケジュールで
『地蔵とリビドー』を上映します。
会場はTOBICHI2で、料金は1000円。
料金の中に山際正己さんの作品
「正己地蔵」代が含まれていますので、
当日ご観覧くださったかたは、
お好きな「正己地蔵」をお持ち帰りいただけます!
今後、東京近郊での上映は未定なので、
どうぞ、おみのがしなく。
ぜひ、展示作品を鑑賞したあとに、
ドキュメンタリーを観て帰ってください。
初日18日(木)の上映終了後には
山下施設長と
映画を撮った笠谷圭見さんの
アフタートークを開催(30分の予定)。
詳しいことは、
こちらの特設ページでご確認ください。
- 会期
- 7月18日(木)~28日(日)
- 時間
- 11時~19時 ※会期中無休
- 会場
- TOBICHI2
- 住所
- 東京都港区南青山4-28-26 MAP
- 料金
- 無料
- 会期
- 7月18日(木)~28日(日)
- 時間
- 19時30分~20時30分 ※1日1回上映
- 会場
- TOBICHI2
- 住所
- 東京都港区南青山4-28-26 MAP
- 料金
- 1000円(正己地蔵1体つき)
参加方法など詳しくは、こちらの特設ページで。
協力:RISSI INC
8月24日(土)~8月30日(金)
「地蔵とリビドー」上映
@京都シネマ:20時20分~
※初日のみ、笠谷監督・山下施設長の舞台挨拶あり
〒600-8411
京都府京都市下京区水銀屋町620
COCON KARASUMA3F
https://www.kyotocinema.jp
8月24日(金)25日(土)
DISTORTION3 2020SS
@しまだいギャラリー:11:00~19:00
〒604-0844
京都府京都市中京区 仲保利町191
http://shimadai-gallery.com
8月16日(金)~8月26日(月)
「いのちといのちーやまなみ工房のいとなみ」
川内倫子写真展
@アンテルーム京都:11時~21時
※17日(土)17時より18時30分まで
川内倫子と施設長・山下完和のトークショーあり
〒601-8044
京都府京都市南区東九条明田町7
https://hotel-anteroom.com/