- 糸井
- きょうお話しする内容は、
ボケたりツッコんだりしにくいタイプの
ちょっと難しい話になると思うんです。
なので、ぼくたち両方が生活者の一人として、
それこそ自宅みたいな場所で、
テレビでも見ながらしゃべっているように話さないと
おもしろくないと思うんですよね。
- 木川
- ええ、もちろんですよ。
勝手知ったる仲ですから。
- 糸井
- それはよかったです。
ぼくらは政治家でも新聞社でもないので、
どうぞ気軽に話してください。
- 木川
- 糸井さんにお会いした6年前とくらべて、
世の中で変化したことはいろいろありますが、
ヤマトの前提としている
「宅急便は生活になくてはならないもの」
という考えは何も変わっていません。
変化があったとすれば、
お客様の、宅急便の使い方が変わりました。
ネット通販が想定を超えるスピードで広がって、
我々の生活の一部に、
「ネットで買って宅配で届く」というスタイルが
完全にビルトインされました。
- 糸井
- きっと、すごい荷物の数でしょうね。
- 木川
- いま、ヤマト運輸が年間で運んでいる宅急便の数量は、
全体で18億個以上あるんですが、
そのうちの約1割がCtoCの荷物で、
残り9割の約半分が
通販を中心としたBtoCの荷物です。
- 糸井
- すごいボリュームですね。
- 木川
- いまから3年ぐらい前のネット通販の荷物は、
本やCD、DVDのソフトといった、
軽くて小さな荷物が主体だったんですよ。
しかし、いま何が増えているかというと、
食品、飲料、サプリ、理美容品など
生活日用雑貨なんです。
つまり、毎日使うものをネットで買って、
生活スタイルに合わせた時間帯に、
ヤマト運輸をはじめとした宅配業者が自宅に運びます。
しかも、まとめ買いで単価は安くなるし、
送料無料キャンペーンもあります。
結果的に、かさばって、重く、
ものすごく単価の安いものを、
家で待っていれば夜には運んでもらえる。
これはすごく便利です。
共働きの若い人達のみならず、
ぼく自身もやめられないことです。
- 糸井
- 自分自身がそっち側に、
寄ってきていますよね。
- 木川
- 日常生活の中でネットの通販を使い、
商品が一番便利なかたちで運ばれてくる。
この仕組みが、生活そのものになっていますよね。
それに対して我々ヤマトも、
まったく無防備であったかというと、
そんなことはないわけで。
- 糸井
- 準備はされていたわけですよね?
- 木川
- 10年以上前からネット通販の時代が来ると
想定していました。
eコマースの荷物がヤマトの成長を後押ししてくれる、
しかし同時に人口減少で人手不足の時代にもなるので、
きっちり対応できるように整えて。
そういう前提で、荷物の量が増えても
人手を増やさなくても対応できるような
最新の技術を取り入れた大規模な施設を、
首都圏、中部圏、関西圏の
物流の大動脈に作っていきました。
その代表的な施設が羽田にあります。
- 糸井
- ほぼ日の乗組員が見学に行ったそうで、
たいそう立派だったと聞きましたよ。
- 木川
- ありがとうございます。
2013年に作った「羽田クロノゲート」では、
徹底的に機械化、合理化をしているんです。
そして、取り扱える荷物の量も飛躍的に増えました。
また、東京―大阪間には、羽田と同様の考え方で、
最新鋭の大型ターミナルを
関東、中部、関西につくりました。
これまでは、1日にたまった荷物をまとめて、
大型トラックで深夜に運んでいましたが、
ターミナル間を日中から多頻度で輸送することで、
東京―大阪間を当日のうちに
配達可能なネットワークが完成しました。
これによりサービスレベルが上がり、
輸送に関わるコストも減り、
そして長距離ドライバーも日帰りが可能になるなど
荷物を運ぶドライバーの負担も減らせる
ネットワークに変えていったのです。
- 糸井
- 荷物が次の人に渡されていく、ということですね。
そこまでは、うまくできたんですか。
- 木川
- そこまでは、シナリオどおり。
だけど、世の中の変化というのが、
想定よりも、ずっと大きく早かった。
ひとつは、人手不足になるスピードです。
労働需給の逼迫は想定していたものの、
東京オリンピック・パラリンピックの決定以降、
我々の想定を超えて
人手不足の状況が激しくなりました。
そして、ネット通販の荷物が想定を超えて増えたこと。
荷物はより大きく、重くなり、
夜間配達も増える一方で、
運賃はさらに安くなっていく傾向にありましたから。
- 糸井
- うーん、厳しいですね。
- 木川
- eコマースの荷物がヤマトの成長を
後押ししてくれるという想定が、
逆に苦しみになってしまったのですから、
読みが甘かったと言われてもしょうがない。
でも、想定を超えて厳しくなる中で
セールスドライバーはじめ
社員達は頑張ってくれました。
ヤマトの社員は、これまでも苦境に対して
自発的に、いろんなことをやっているんです。
東日本大震災の数日後には、
自発的に、救援物資の輸送協力をはじめた
エピソードは以前お話ししましたが、
モチベーションが非常に高いし、
企業に対するロイヤリティも高いです。
ちょっと自慢になってしまいますが、
ヤマトの社員がお客様に対する気持ちって、
やはり、ものすごく強いんですよ。
- 糸井
- はい。わかります。
- 木川
- 荷物がどんどん増えていくと、
お約束した時間に運べなくなっていくんだけど、
それでも必死になってやっていました。
一所懸命に運んでいるうちに
労働時間が長くなり、残業も増えるばかりです。
結果的に、社員のロイヤリティの高さに乗っかって、
事業を拡大していたということです。
いつのまにか我々は、社員に頼りすぎていたんです。
- 糸井
- おもに社員の体力に、ですよね?
- 木川
- そうなりますね。
だから、
これ以上しわ寄せをしたら、
社員の犠牲のもとに業務を拡大していく
会社になってしまう。
その恐怖心を感じたのが2016年の末頃です。
- 糸井
- 恐怖心。
- 木川
- それまでにも省力化のために思い切った投資もし、
人もどんどん雇って、社員数は20万人を超えました。
しかし、もう限界点がきたんだと判断をして、
今回の一連の動きになったんです。
- 糸井
- 木川さんのおっしゃる「恐怖心」という言葉は、
並々ならぬ言葉だと思うんです。
経営者はふつう、
恐怖心なんて言葉は使えませんよね。
- 木川
- はい。「恐怖心」なんて言葉は使えませんし、
おくびにも出しちゃいけませんよね。
ましてや「社員にしわを寄せて」なんて、
通常は絶対に言いません。
でも、わが社の経営資源で一番大事なのは、
社員、人なんですよ。
- 糸井
- ああ、人であると。
- 木川
- 我々が、こうしろああしろと指示する前に、
自分たちがいかにやるか、
という文化が染みついている会社なんです。
自分の負担が少し増えたとしても、
お客さんには絶対に迷惑をかけないようにする。
こういう風土を、良しとしてきたわけですね。
でも、それがある段階で、
オーバーシュートしてしまった。
そして社員からも悲鳴が上がった。
- 糸井
- 嫌な会社になっちゃうんじゃないかって。
- 木川
- そう、それが恐怖心ですよ。
社員に嫌われる会社になったら、
わが社はもう伸びることができませんから。
- 糸井
- その感じは伝わっていましたよ。
(つづきます)