- 糸井
- これまでのお話の中に出てきた
未来につながるような取り組みは、
木川さんが考えているんですか?
- 木川
- 第一線の社員、あるいはグループ会社も含めて、
皆で知恵を出し合います。
その中でぼくが発案したものもいくつかあります。
大事なのはグランドデザイン。
そして、そのコンセプトマップは
自分で描いたりするのですが、
パソコンを使いこなせないので手描きで。
思い入れを強く持つと、組織は動き始めるんですよ。
- 糸井
- もともと木川さんは、
そういう専門ではないことを、
勉強してきた方ですよね?
- 木川
- ええ、銀行で金勘定してきた人間ですから。
- 糸井
- そうか、銀行でしたか。
そういう人が、ものが動いているリアリティを見て、
これからどうなってくんだろうとか、
こうしたら誰か困るだろうとか、
そういった脳みそは、ヤマトに来てからですよね?
- 木川
- ヤマトに来てから花開いちゃった。(笑)。
- 糸井
- おもしろいなぁと思っています。
- 木川
- ぼくは銀行という規制の強い業種にいたから、
ヤマトに来た時に解放感にあふれたんです。
この解放感はすごかったですね。
- 糸井
- はあ、そうですか。
- 木川
- 何をやっても自由ですから。
おもしろいアイディアがあるぞって言ったら、
そこからどんどん進められる。
- 糸井
- 今は、おもしろくてしょうがないんですね。
- 木川
- おもしろいですよ。
- 糸井
- はあー。
- 木川
- やっぱりね、ほとんどが“Do”なんですよ。
- 糸井
- 木川さんのお話を聞いていると、
“Do”にならないものについては考えていないんです。
評論なんかしていないですもんね。
- 木川
- 全てのことは1人だけではできませんから。
いや、ぼく1人というか、
ヤマトだけでもできなくなっています。
だから、みんなで手をつないでやろう、
という時代になっています。
- 糸井
- 利害の反する人たちも、
一緒になっているわけですもんね。
ものが存在することと動くことの両方が、
“Be”と“Do”とありますけど、
“Be”の状態を思いながら“Do”をやって、
“Do”を見てるときに“Be”をやって、みたいな、
ことばの原型みたいな場所で、いつも仕事をしている。
- 木川
- 生活そのものでしょう?
- 糸井
- まったくそうですね。
- 木川
- 生活には必ず、“Do”があるんですよね。
だからヤマトは、わかりやすいんですよ。
- 糸井
- トラックが象徴するようなわかりやすさと、
フィロソフィーの部分もわかりやすいです。
で、今日お話を聞いておもしろかったのは、
小倉昌男さんの物語の影響で、
ヤマトは行政とかに喧嘩を売っている
会社だと思っていたんです。
- 木川
- いやいや(笑)。
- 糸井
- それがいまや、一緒に協力できる
行政の人たちも増えてきているんですね。
そこが、明るいニュースに聞こえたんです。
- 木川
- 圧倒的に協力できることの方が多いです。
「日本のために」って、みんな真剣に考えてますよ。
日本が誇るものは、
どんどん外に発信すればいいんですよね。
そういうトライアルの1つが、
さっきお話しした国際クール宅急便ですね。
国際標準化に向けてサポートしてくれているのが
経済産業省なんですが、
あそこは、クールジャパン機構を持ってますよね?
日本のクールを世界に売るって、
我々こそ正真正銘の「クール」だろうって(笑)。
- 糸井
- それはウケるでしょうね(笑)。
今日は、荷物がどんどん増えたことで、
停留していったり人手不足があったり、
という話から聞きたかったんですけど、
全部が、日本全体の話と関わっていますね。
- 木川
- 必ず全てがつながっちゃうんですよね。
ヤマトが生活インフラ企業に
なっている証拠だと思うんですよね。
- 糸井
- 生き方の問題にまで、関わっていらっしゃるから。
ぼくは、公私混同の時代だと思っているんです。
たとえば、いい映画を見たということは
「私」として見ているんだけど、
そのことが仕事の役に立つことも山ほどあるし、
古典の素養みたいなものが、
新しいことを考える上で役に立っています。
あるいは、「公」である仕事でやってきたおかげで、
「私」的なことを解決する道が
見つかることもあります。
人間は本来、ごちゃ混ぜだったと思うんですよ。
それをあまりにも切り分けすぎるから、
不自由にしたんじゃないかなあ。
- 木川
- むしろ、切り分けられないものですよね。
- 糸井
- そうなんですよね。
公私混同という言葉は、
コンプライアンスの観点からすると大問題ですが、
いい意味での公私混同がないと、つまらなくなります。
ヤマトがやっている過疎地域での見守りサービスで、
山奥のおばあちゃんのことを気にかける
セールスドライバーさんは、
「私」的な感情が動いていると思うんですよね。
- 木川
- 自然な対話が出ますよね。
そういったサービスを始める時にね、
最初から仕事だって専業者を雇ったら、
うまくいかなかったでしょうね。
- 糸井
- ダメですよね。
- 木川
- やっぱりね、気持ちが入らないから。
- 糸井
- 義務でやっていないことは、嬉しいんですよね。
目黒の駅前にある、かつ壱というとんかつ屋では、
釣りの好きな旦那がいて、
釣ってきた魚をフライにして、
ちょっと食べさせてくれるんですよ。
地元の人が、たまり場みたいにしているお店で、
あのちっちゃいヒラメのフライを
食べたぼくにとっては、
総合点で、その店だけガーンって上にくるんですよね。
売りものにしても売れると思うんだけど、
売りものにしていないおかげで、
身勝手にやる嬉しさがお店にはあるし、
ぼくらも、ない時はないんだよって思いながら、
いただける時には喜んでいただく。
ばらつきがあるっていうのもいいですよね。
- 木川
- いいですねえ。
- 糸井
- ヤマトをよーく見ていると、
働き方の話は、どの会社とも重なる話だと思うんです。
また改めて、ベンチマークの
会社に入れさせてください。
これからもやりとりをしていきたいので、
どうぞよろしくお願いします。
- 木川
- 今日はありがとうございました。
- 糸井
- どうも、楽しかったです。
- 木川
- いやいや、おもしろかったですね。
(以上で、ヤマトホールディングス木川眞会長と
糸井重里の対談はおしまいです)