- 糸井
- 神経的なことだけでサービスを考えていくと、
こうすればできるはずだろうって、
ビッグデータにたどり着くと思うんですよ。
ただ、ビッグデータはものに扱われているので、
結局のところは嬉しくないんです。
- 木川
- わかります。
- 糸井
- たとえば、セールスドライバーが荷物を届けて、
お客さんと対面したときに、
「ちょっとこの質問に答えてもらえますか?」
というやりとりを一個だけするとします。
次の機会にも、挨拶代わりに
「朝はいやですか?」とか質問をして、
これを10回繰り返していったら、
やさしいデータがとれますよね。
昔の魚屋さんとのやりとりみたいなことが、
お客さんとの間にできるといいですよね。
- 木川
- 我々のセールスドライバーは全国津々浦々にいて、
ほとんどがお客様と接点を持っています。
そこから生まれた活動もあるんですよ。
全国の地方自治体では、過疎化や高齢化の問題など、
それぞれが問題を抱えているんです。
財政が豊かじゃないから、
たとえば、高齢者の見守りサービスも劣化して、
サービスが切り捨てられる時代になってしまいます。
そこで我々が、日々荷物を運ぶ際に立ち寄って、
顔見知りのセールスドライバーが
民生委員の代行として、見守りをしようではないかと。
- 糸井
- どうやって成り立っているんですか。
- 木川
- 例えば、岩手県の、秋田県との県境に近いところに
西和賀町という町の事例ですが、
高齢者で一人暮らしのお客さんのところに、
簡易の端末を置かせてもらうんです。
行政に直結するSOSボタンと、
ヤマトにつながる御用聞きボタンがついています。
御用聞きボタンを押してもらうと、
日々の買い物を頼まれて、
我々が地元のお店で買って、
宅急便の荷物としてお届けをして、
この料金を払っていただきます。
そして、荷物をお届けしたときに
困りごとや体調管理についてお話を聞いて、
行政に伝えたほうがよさそうな情報については、
お客様の了解を得た上でつなぐようにする。
- 糸井
- そのような取り組みをされているんですね。
- 木川
- 社会インフラを担う企業として、
今日本の地域が抱える社会問題に対して
何ができるだろうかという問題意識から、
地方自治体と連携して始めました。
本業である宅急便の上に
サービスを乗せているから、
見守りのために新たに人を雇っていないんです。
つまり余分なコストがかからないし、
我々は宅急便の料金を頂戴するので
事業として成り立つのです。
したがって、これは未来までずっと
継続してできるサービスとして認知されるでしょう。
- 糸井
- その係のセールスドライバーの方の気持ちになって
お話しを聞いていたんですけど、
それはやりがいが出ますね。
- 木川
- やりがいが出るんです、ものすごく。
最初は負担が多いかなと思ったんですが、
当人たちは、通常の運ぶという中で、
交わしていた会話ですからね。
お客さんの体調が悪ければ
家の中まで運んで差し上げることもあるんでね。
- 糸井
- サービスが、より人間的になりますね。
- 木川
- そうなんですよ。
行政が抱えているニーズを、
われわれの本業の上にのせるというコンセプトで
知恵を出しはじめたら、いくらでもあるんですよ。
それから、国と連携を取って始めたのが、
「国際クール宅急便」というサービスです。
朝採れの農水産物を、
海外のご家庭に届けられるようになりました。
- 糸井
- ほおー。B to Bのサービスですか?
- 木川
- 最近は「P to C」とぼくらは言っています。
生産者であるプロデューサーと、
消費者のコンシューマーを直結するんです。
- 糸井
- かっこいいですねえ。
- 木川
- 日本では、翌日配達が当たり前ですよね?
それを、国境を越えても、
果物や生鮮品をクール宅急便で届けられるんです。
アジアエリアから始めていますが、
最短で、収穫した翌日の食卓に乗せられます。
すべての荷物を、ヤマトだけで運べないので、
海外であれば別の事業者に
お願いをして運んでもらうことも増えてきます。
ただ、そうすると、
国内では品質が管理できていたのに、
国を越えたら劣悪な配達体制で、
せっかくいいものが腐ってしまうこともあり得ます。
- 糸井
- うん、あり得ます。
- 木川
- そうならないように、
日本の保冷宅配便の品質を、世界の標準にしたんです。
イギリスのBSI(英国規格協会)という、
100年以上の歴史を持った、
世界で最も権威のある規格をつくる機関に
国際規格を策定してもらいました。
ヤマトだけの基準では我々しか使えないので、
日本の同業者である佐川急便さんや
日本郵便さんを含めて、
国内外の関係者にも入ってもらい、
その基準づくりを進めました。
- 糸井
- おー、すごい。
- 木川
- どういうコンセプトで、どういう水準で
世界標準にすればいいか、
国家プロジェクトのように議論を重ねた上で、
2017年の2月に規格が策定されたんです。
それをいま、アジアを中心に
世界中に広めていこうとしています。
国際クール宅急便で、
日本の生産者が精根こめてつくったものを、
朝収穫したものが
翌日には香港のご家庭の食卓へお届けできます。
それも、国際規格に則って運ぶ事業者に預ければ、
日本のクール宅急便と同じ品質は
管理されたまま届きますよね。
- 糸井
- 生産者は、東京近郊だけですか?
- 木川
- いえいえ、日本全国です。
- 糸井
- あー、そうですか!
- 木川
- もうすでに、たくさんの県との
連携協定ができ上がっていますよ。
この国際規格を策定するために
徹底してサポートしてくれたのが国なんです。
特に、国土交通省、経済産業省、そして農林水産省。
一枚岩になってやってくれました。
- 糸井
- あっ、そうなんですね。
- 木川
- 今度は、このヤマトがスポンサーとなって
作った基準を、世界標準として一番権威が高い、
ISOという基準にするために動き出しています。
経済産業省の中に
プロジェクト・チームが組織化されて、
それが実際にもう活動してます。
物流に関わる世界標準って、まだ存在しないんですよ。
それを、物流サービスの領域における
ISOの世界第1号が、
日本発の小口保冷配送サービスの品質、
ということも夢じゃない。
- 糸井
- 秘密にして守って稼ぐのではない。
- 木川
- オープンにしているんです。
- 糸井
- それもすごいですね。
いやあ、この対談のコンテンツが
宣伝のページみたいになっちゃう(笑)。
- 一同
- (笑)。
(つづきます)