- 糸井
- ぼくは、今日木川さんに
お会いできたらと思っていたのは、
ヤマトの働き方についてお訊きして、
いろんな角度から考え直したいことがあったからです。
ものすごく短期的な話でいうと、
「ほぼ日」がネット通販をやっている部門で、
ヤマトとのお付き合いがなくなったんです。
おっしゃっていることは分かるので、
「はい」って言ったんですけど、
ここまできたんだっていう切実感がありました。
- 木川
- それは糸井さん、大変申し訳ないです。
このプロセスを経ながら、
まさに今、サービスのありかたを
抜本的に組み直しているところです。
その時間をください、というのが正直なところで。
だからぼくらは早く、
新しいかたちをつくる責任があるんですよ。
- 糸井
- 事実、12月は大変なことになっていますよね。
- 木川
- ええ、そうですね。
やはり我々が新しい仕組み、
体制をつくる時間との競争だと思っています。
- 糸井
- できるような気がしているから、
動いているんですよね。
- 木川
- ええ、もちろんです。
そのひとつが、オープン化です。
同業者で支えあおうよ、と。
- 糸井
- おおっ!
- 木川
- ドライバーが不足しているんです。
特に長距離の大型トラックの運転手さんが、
本当に採用しにくい状況なんです。
我々のオープン化がどういうことかと言うと、
日本全国を行ったり来たりしている
長距離の大型トラックは、
行きは荷物をいっぱい運んでいるけど、
帰りは半分しか荷物を積んでいないことが多いんです。
極端にいうと、空荷で戻るトラックもありますよ。
- 糸井
- はい、はい。
- 木川
- そうじゃなくてこれからは、
競争相手である同業他社の荷物も関係なく
みんなで運び合う時代に入る。
この議論を、真剣に始めています。
- 糸井
- へぇー。
- 木川
- 同業者でお互いに助け合うことで、
できるだけたくさんのお客さまに対して
サービスを継続できるようにしたいんです。
その中で、必要以上のコストがかからないように
お互いに助け合おうよ、という考えです。
これはね、競争制限的な話ではなく、
独禁法違反にも、談合にもなりません。
ちゃんとオープンに、
「いま荷台スペースが空いてますから、
載せたかったらどうぞ」
という情報を共有することで、
ヤマトがオーバーフローしそうだから、
他社のトラック事業者に
一緒に運んでもらおうということです。
我々も逆に、他社の荷物を運びます。
こういう機運が出てきているんです。
- 糸井
- 業界トップのヤマトが言い出すことが、
周りの会社を楽にしているでしょうね。
- 木川
- いつか自動運転技術が発達したとしても、
それでもやっぱり限界がきますから。
- 糸井
- そうですね。
- 木川
- 人間の開発する技術が、
我々の想定を越えて勝手に進んでいく時代に
入ってきましたよね。
ぼくらの世代が、昔の経験則でやる時代では
なくなったのかも分かりません。
とんでもない発想ができる人に、
将来の設計をしてもらうほうがいいのかもしれません。
- 糸井
- 消費者が何もしないほうがいいことなんだ、
という時代が、ずっと続いていますよね。
あなたはおうちにいてスイッチを押すだけ、という。
どんどんあなたの仕事を減らしていく、
これが進化だったんですね。
でも、手編みのセーターなんていうのは、
自分で編みたいという人は、
めんどくさいということを知っています。
「ほぼ日」でも毛糸と編み図を売っている商品が
ありますけど、それも人気があるんですよ。
あらゆる時間を、編み物にかけなきゃならないけど、
それは、楽しみでもあるんですよね。
- 木川
- なるほど。
- 糸井
- 消費する側の仕事量に一歩あゆみ寄るだけで、
だいぶ変わることがありますよね。
荷物をコンビニに取りに行きましょう、
というのも、同じだと思うんです。
どうしたら、その手間が嬉しいことになるだろう、
というあたりに、ヒントがある気がします。
- 木川
- そういう観点でおもしろいのは、
駅やコンビニに設置している
「オープン型ロッカー」です。
いま、台数が2千台ぐらいあります。
そこで、我々が設置しているロッカーでも、
佐川急便さんの荷物を受け取れるようになっています。
佐川急便さんのドライバーがロッカーに入れて、
お客さまに使っていただけるんです。
- 糸井
- なるほど。
スイカとパスモみたいな感じですね。
- 木川
- そうです。
複数の運送事業者が共同で使える「オープン型」です。
だから、我々が設置してるロッカーには、
ネコのマークがついていないんです。
- 糸井
- オープン化は、もう始まっているんですね?
- 木川
- オープン化は始まっていますよ。
ある意味では、サービスの均質化で、
競争がなくなると見られるかもしれませんが、
そんなことは全然ありません。
また、ヤマトのブランド価値は、
セールスドライバーの品質の高さと、
ロイヤリティの高さでもっているので、
ロッカーで渡したら、
ヤマトの良さが差別化できないじゃないか、
という議論もあります。
だけど、ヤマトの無人引き渡しサービスが
おもしろいね、と言っていただけることでも、
差別化ができるようになると思います。
つまり、差別化する土俵を変えていけばいいのです。
- 糸井
- 競争が進化させると原理主義的に考えすぎると、
かえって自分たちが苦しむだけになっちゃいますね。
- 木川
- 競争が進むと、お客様の利便性よりも、
自分たちの押し売りのイメージが、
どんどん強くなってきてしまいがちです。
自分たちで開発したものの押し売りをして、
「この受け取り方が一番いいんだ」
という考え方をお客様へ押し付けてしまいます。
- 糸井
- 共倒れしますね。
- 木川
- そうですね。
だから、共通のインフラはできるだけ広げて、
コストができるだけかからないような仕組みを、
一緒につくっていくことが大切です。
そうすると、お客様にとっても利便性が高くなります。
今はスイカとパスモを両方持つ必要がなくなりました。
あれと同じです。
競争を排除しているように見えるけれど、
別のところで競争すればいいんです。
- 糸井
- ああ、なるほど。
- 木川
- 我々が考える最高のサービスが、
万人にとって最高のサービスではありません。
宅急便が全国で均質のサービスをやり続けて
通用した時代は、もう終わりましたね。
- 糸井
- 価値が一定だと信じていたから、
押し付けられたんですよね。
- 木川
- 我々が考える最高のサービスが、
お客さんにとって
最適なサービスとは限らない時代に入ったわけです。
価値観がどんどん多様化するのに応じて、
サービスも作っていかないといけないんだけど、
一億人すべての人に全部
メニューを変えるわけにはいかないので。
最適水準を、みんなで決めていく時代ですよね。
このマインドリセットがあるんだから、
“Do”のところでも、仕組みもリセットするんですよ。
物流は、いよいよ新しい仕組みが始まります。
- 糸井
- おもしろいですね。
(つづきます)