- 糸井
- 社会全体で、神経系の発達がどんどん進化して、
肉体系はないがしろにされていました。
今は、その復讐をされている気がするんですよ。
たとえば、サプリメントが必要とされているのは、
肉体系がついていかなくなっているからです。
望んでいることや考えていることに
身体がついていかないから、何とかカバーしようと、
サプリメントで埋めるわけですよね。
職業でも同じで、頭を使って働くような仕事ばかりが
脚光を浴びていますけど、
身体全体からしたら、ほんの一部の、
部屋の中でやるようなことですよ。
実際には、運ぶだとか、力を使うことも必要なはず。
そのバランスが壊れきったら、ダメになります。
“Think”と“Do”でわけるとするなら、
実際に動くというのは、“Do”ですよね。
- 木川
- そういう整理をすると、分かりやすいですね。
- 糸井
- “Do”の部分が自分にも敵討ちしてるし、
社会でも「その“Do”はどうするの?」
ということはよくあります。
若くて頭のいい人たちが
いっぱい集まってしゃべっているの見てると、
昔はおもしろかったんですよね。
でも今は、参謀みたいな人ばかりが集まっている。
誰が体を動かすの? という状況になっています。
あらゆる場面で、敵討ちされている気がするんです。
- 木川
- それはね、ぼくも同感ですよ。
時代の流れの中で、リアルよりも、
バーチャルがどんどん力を持つようになりました。
でも、どこまでバーチャルの技術が進化しても、
リアルがないと完結しないんです。
- 糸井
- ものが動かないんですよね。
- 木川
- だから、ネットで注文したものが届かなくても、
人間がちゃんと生きていけるのであれば、
バーチャルの世界だけで
徹底的に力を入れればいいんだけど。
ものが届いて食べないと死んでしまいますから。
- 糸井
- 極端に言ってしまうと、
インターネットとはつまり、
物流ネットワークのことだったのか、
というふうに思うわけですよ。
- 木川
- そのことに今、社会全体が気づいて、
この1年間で議論されてきたのではないでしょうか。
この状況がこれ以上続いたら、
物流のラストワンマイルネットワークが壊れてしまい、
ネットの社会も機能しなくなると。
- 糸井
- 木川さんと前にお会いした5年前に、
震災からの復興の話もしましたよね。
力が動かないと道もできないし、物資も届かない。
「こうすればいいんだよ」っていうだけの人が
100万人いても意味がないわけですよね。
- 木川
- そうなんですよ。
やる人は“Do”ですよね。
- 糸井
- そうなんですよ。
“Do”を取り返すということから、
とっても大きな仕事を発見している気がします。
この震災の後でぼくらが立ち上げた、
手編みのセーターの会社
(気仙沼ニッティング)があります。
手で編んだセーターを着ることは、
ある時代の人からしたら、
「機械でできることを、なんで手で編むの?」
となるんですけど、
手で編んだものをありがたいと思うし、
欲しいと思える感性が
交換されているとも言えるわけです。
「うちの会社は同じものを機械でつくりますよ」
と言われたって、やっぱりほしくないんですよ。
それもまた、“Do”です。
- 木川
- 本当に、そうですよね。
- 糸井
- 人の価値とは何だろうって考えた時に、
「何をしたかが全てだ、何を言ったかじゃない」
という言い方が太古の昔からあって、
その“Do”が、今の時代でも、
しゃべってばかりしている世の中を走り回って、
駆け回しはじめちゃったんだと思っています。
この被害は、みんな受けるべきだと思いました。
- 木川
- バーチャルなネット社会になって、
いろんな通信機器もできて便利になりました。
その代わりに、リアルの部分が
あっという間に壊れはじめたんですね。
- 糸井
- はい。
- 木川
- 典型的な話が、
小売店がどんどん潰れていることです。
その流れがあって、
今度は大規模なスーパーマーケットも
非常に厳しくなってきています。
ほとんどの店が成立しなくなったら、
すべての買い物はネットでやればいいじゃないか、
という声が出るけど、本当にそれでいいのかと。
- 糸井
- ネットだけになったら、
買い物の楽しみがないんですよね。
- 木川
- 今は、リアルなお店を
ネット化することが主流ですよね。
そのうちに間違いなく、ネットの会社が
リアルな店をたくさん出すようになりますよ。
そうじゃないとやっぱり、
消費者はだんだん不安になってくるはずです。
- 糸井
- ネットだけだと、つまらなくなるんですよね。
お店に行くようなおもしろさっていうのは、
人がものすごく欲しいものです。
たとえば、パンダを見るために、
抽選に応募して出かけていって、
当たった、外れたって言っているわけです。
出かけていくことは、面倒くさいことなのに。
それでも、人がしたいことって、
やっぱり、したいんですよね。
ネットの会社だと思っていたほぼ日が、
「生活のたのしみ展」というのをはじめたら、
少なく見積もって15万人のお客さんが来たそうです。
- 木川
- ネットの会社がリアルなお店を出すのは
反動ではなくて、当たり前の、
生理的な現象だと思うんですよ。
ある一定レベルを越えると、やっぱり戻るんですよ。
- 糸井
- 行き過ぎたときの不安感って、
あるんですよね、たぶん。
- 木川
- そうなんだと思います。
(つづきます)