- 糸井
- 高い給料さえ出せばいくらでも人は来るもんだ、
という幻想を持っていた人たちが、
そうでもないと分かってきましたよね。
いろいろな会社で人が足らなくなって、
どうすればよかったんだろうって、
考えるようになっていますよね。
- 木川
- 1年前と比べて、
消費者のサービスに対する意識も
変わってきていると思います。
- 糸井
- 世の中が揺らぎ始めていますよね。
- 木川
- ほとんどの人は普通に通販をご利用されている中で、
疑問に感じることもなく、
送料無料を受け入れてこられたはずです。
しかしながら、その担い手から
「もうお手上げです」と言われた瞬間に、
人間の感性も、「いきすぎたのかな」と
戻ったのではないかと思います。
ぼくらは、土俵際で声を上げたんだと思うんですよ。
もしもこれが数年前に、
「ちょっと利益が落ちたから値段上げよう」
というような話であったら、
たぶんお客様からお叱りを受けたと思うのです。
- 糸井
- ああ、そうか。数年前だったらダメでしょうね。
その頃にはまだ、恐怖心もないですよね?
- 木川
- ええ、恐怖心はまだありません。
むしろ、業界内で競争しながら、
荷物を取り合っていた流れが
止まっていない時代ですから。
- 糸井
- ということは、この1、2年ですね。
- 木川
- 人手が足らないという社会であることに、
日本全体が気づいてきたことがきっかけですね。
長いデフレで、当たり前だと思っていたものが
当たり前ではないんだ、と気づいた。
ひと昔前は、物価が上がらないほうが、
いい社会だと思っていたんですけどね。
- 糸井
- 就職したい人が選べる状況になってきたのは、
いいことでもあるわけですよね。
経済にはいつでも両方の側面があって、
いろんな問題が複雑に絡んでいますよね。
たとえばぼくらは、
まさしくeコマースを仕事にしていますけど、
インターネットでものを買うことが、
スマートフォンの普及で増えたと思うんですね。
- 木川
- それは言えますね。
- 糸井
- 家に帰って、パソコンをタイピングして頼むのと、
スマートフォンでは気軽さが全然違うわけです。
買う動機が増えたという意味ではいいことですけど、
気軽さが増えた分だけ、
タダに近くなっている感覚はありますよね。
- 木川
- 通勤途中に、電車の中でも注文できますしね。
- 糸井
- まさに、自分たちがやっていることですよね。
- 木川
- 我々は、環境が変化していることを前提にして、
LINEを使った新しいサービスに踏み切りました。
それまでは、家に帰ってパソコンを開けるまで
お届け予定をお知らせするメールが見れなかったのが
スマホでいつでもメールを受け取れて、
配達日時を気軽に変更できるんです。
午前中はいないから夕方に変更したり、
コンビニに届けてもらうように変えたりもできる。
我々も、かなり救われました。
- 糸井
- いいですねえ。
- 木川
- スマートフォンでお買い物の利便性が高まって、
eコマースの荷物は今後も増え続けるでしょう。
我々はこれから、荷物が増えてもちゃんと対応できて、
なおかつ適正利益はちゃんと残せるような状況を
1、2年のうちにつくりたいんです。
そのためには、原資が必要になりますよね。
したがって、適正な価格に直させてもらって、
生まれた利益を、新しい体制づくりや
サービス開発に投資しようと。
- 糸井
- そのシステムを触るためには、
また新たに人が必要になりませんか。
- 木川
- ええ、もちろんいりますよ。
ただ、若いベンチャービジネスの
スタートアップと言われる人たちのおかげで、
必ずしも社内に専門性の高い人材を
抱えなくてもいい時代になりましたから。
我々がシステム部門やイノベーションの部門に
膨大な人間を抱えて、
時間をかけてつくるよりも、
彼らはいいものを短時間でつくってしまうわけです。
- 糸井
- その付き合いって、前からあったんですか?
- 木川
- いえ、以前にはありませんでしたよ。
そういったサービスを自前でつくるよりも、
そういう人たちにつくってもらうほうが、
エンドユーザーのニーズに
合致することもあるのは事実です。
同じことを、常に社内で抱えた人材でやろうとしたら、
時間もコストもかかってしまいます。
- 糸井
- ヤマトにとっても、
またおもしろい局面が始まりますね。
- 木川
- おもしろいですよ。
だからそういう会社と、
ぼくらも本気でお付き合いを始めているんです。
- 糸井
- 新しいものをポンと取り入れられるのは、
ヤマトがもともと持っている体質なんですか?
- 木川
- 我々の体質はどちらかというと、
なんでも自前でやるという会社でしたね。
- 糸井
- そういうタイプに見えますね。
- 木川
- ぼくが前にいた銀行もそうだし、
ヤマトも、自分たちのサービスは、
自分たちできちっと責任を持って積み上げるし、
ネットワークも自分たちで構築するように
やってきたんだけれども、時代が変わりましたから。
今の世の中では、必要に応じて
そういう感性も持たないと、
時代についていけなくなってしまいます。
新しい時代に入ったことに、
遅まきながら気がついたんですよ。
- 糸井
- いやいや、ヤマトの仕事の種類と
今までの流れを考えると、
遅まきでもないと思いますよ。
- 木川
- すべて自前主義が一番いい、
という時代じゃなくなっていますよね。
何しろ、スピードについていけなくなったら終わり。
それから、コストがかかり過ぎたら終わり。
いかにいいサービスであっても、
さすがにこんな値段じゃ使ってもらえない、というね。
我々も、そういう冷静な判断をしているんです。
(つづきます)