糸井 |
形にするっていうのは、
たしかに永ちゃんのキーワードだね。
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矢沢 |
そうね。
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糸井 |
その、形の最たるものだと思うけど、
このスタジオ建てたのも、
たしか、ものすごい借金したあとでしょ。
30何億なくしちゃったあと。
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矢沢 |
そう、あと、あと。
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糸井 |
直後だよね。
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矢沢 |
俺さぁ、35億、オーストラリアでなくして
ぜんぶ払い終わったときに、
もう二度と、「借(しゃ)」の字がつくものは、
いっさい関わるのやめようと思ったの。
でもねぇ、払い終えて1年ぐらいしたらね、
ごそごそごそごそ来るんだよ。
「おまえもうほんとに
一切そういうことしないわけ?」って。
そう思ったらね、赤坂に土地持ってるし、
あのまま更地で持って駐車場で貸してても、
なんの足しにもなりゃしないよなぁー。
よし、もう一回借金してビル建てようって建てたの。
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糸井 |
いやー(笑)。
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矢沢 |
それで、ただ単に
ビル建ててもしょうがないでしょ。
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糸井 |
そうだ。
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矢沢 |
ためになるもの、って考えたとき、
「スタジオだ」と。
練習がいつでもできる。
ぼくも使えるし、うちのアーティストも使えるし、
みんな使えるじゃん。
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糸井 |
うん。人にも貸せるし。
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矢沢 |
そうなの。
おかげさまで、ここのスタジオ、
いま売れてる一流どころの人たちが
ものすごい愛してくれてるんだもん。
みんな、ここ使ってくれる。
使いやすいんだって。
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糸井 |
要するに自分が使いやすいようにつくったから。
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矢沢 |
そうそうそう。だって、俺がつくってるから。
アーティストのぼくが、
ぼくはどうされたいかって
自分が一番よく知ってるじゃない。
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糸井 |
うん、うん。
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矢沢 |
こうされたい、ああされたいってことを
設計者にずーっと、こうしろ、ああしろ、こうしろ、
って言ったのができたから、
アーティストの人が使うと、
ワァオ、OK、気持ちいい、ってなる。
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糸井 |
うんうん。
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矢沢 |
それで、結果的にみなさんに愛される。
うちのアーティストも使うし、
もちろんぼくも使う。
だとしたら、この箱は無駄にはならない。
だから、そういうちゃんとした、
考え方だったら、ビル建ててもおかしくないよね。
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糸井 |
ベースに自分が使いたい道具が必要っていう
思いがあるからね。
で、やるとなったら、惜しまないで。
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矢沢 |
惜しまないで、やると。
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糸井 |
うん。
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矢沢 |
形としてちゃんとつくらなきゃいかん
ということだね。
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糸井 |
そのとおりだ。
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矢沢 |
形だね。
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糸井 |
形がほしいんだよ、って言葉、
俺、永ちゃんから今日はじめて聞いたよ。
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矢沢 |
あ、そうかもね。
俺ね、考えたら形は嫌いじゃないのね。
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糸井 |
まったくそうだった。
だって最初から、そうだよ。
あの、若いころの有名な
「キャディラックに乗って
ハイライトを買いに行きたい」
っていうのもそうじゃない。
もう、完全に、形じゃん。
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矢沢 |
そうなのよ(笑)。
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糸井 |
歩いて行ったら形にならない。
ハイライトをたくさん買いたいとかじゃ
ぜんぜん形にならないからね。
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矢沢 |
ハッ! くっくっくっく、そうだよね!
どういう男になりたいですか、って、
「いやもう、ハイライトを
段ボールごと買える男になりたい」って、
説得力ないもんね、これ、ぜんぜん。
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糸井 |
「そんなに吸うんですか、どうも」
って言って(笑)。
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矢沢 |
「そんな肺がんになりますよ」って(笑)。
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糸井 |
キャディラックに乗ってハイライト買いに行きたい
っていうのは、もう、形以外なんにもないものね。
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矢沢 |
なんつうのかな、キャディラックっていう
アメ車で買いに行くことの、
ふつうじゃない感じ、すごさがね。
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糸井 |
で、それを「バカ」って言うやつがいても
ぜんぜん構わないんだよね。
そういう絵の話をしてるんだからね。
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矢沢 |
だよねー。
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糸井 |
いつもそうだよ、それは。
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矢沢 |
でも、なんていうの、純粋だね。
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糸井 |
純粋だね。かわいいよね。
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矢沢 |
かわいいよねー。
たぶん、あれ矢沢のある種のある方向の女性から見たら
チャーミングだったと思うよ。
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糸井 |
ははははは、
すっごく母性本能をくすぐるかもね(笑)。
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矢沢 |
水商売やってるお姉さんとかはね、
俺のこと、かわいいと思ったんじゃないかな。
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糸井 |
「なんてバカなのっ!」っていうやつがね(笑)。
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矢沢 |
「バカっ! かわいいっ!」って(笑)。
ハッハッハッ!
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糸井 |
「形だ」っていうことで
矢沢のいろんなものがつながるよ。
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矢沢 |
あ、ほんとに。
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糸井 |
だって、「コンサート120本やります」
っていうのも形だよね。
たくさんやります、じゃダメなんだよね。
もう、120本、組んで、
「120本やります」って言えなきゃ。
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矢沢 |
そうだねぇ。やってたねぇ、120本。
明けても暮れてもライブだったけど、
でも、誰かにやらされてたわけじゃないしね。
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糸井 |
決めるのは自分で、
「これ以上のことは俺にはできない」
っていうことも、わかってるし。
そのへん全部をコントロールできる立場にいた
っていうのが、若いときからずっと
永ちゃんがやってきたことだよね。
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矢沢 |
うん、それは偶然なのか、なにかわからないなぁ。
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糸井 |
なんだろうね。
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矢沢 |
どうしてそういうふうになっていったのか。
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糸井 |
そうしないと、負けるっていう感じがしたんじゃない?
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矢沢 |
はぁー。
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糸井 |
負けず嫌いだから。
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矢沢 |
勝つためには、まずそれのブッキングから
整理していかなきゃいかん、と。
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糸井 |
そうそうそう。
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矢沢 |
なるほどね。
勝つためには、生き残るためには、
きちんとコントロールできる
形を持っていかなきゃいかんっていうのは、
本能的に思ってたのかもしれないね。
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糸井 |
要するに、それがボスのやることだよ。
自分が真ん中にいるんだよ。
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矢沢 |
ああ、なるほどねー。
(つづきます) |