矢沢永吉さんと糸井重里、
7年ぶりの対談です。
ほぼ日刊イトイ新聞創刊21周年の記念企画として
ほぼ日のオフィスで乗組員全員の前で
対談してもらえませんかとお願いしたら、
「いいですよ」とお返事が。
出会いのときから、ほぼ日創刊時の思い出、
そして紅白歌合戦の裏話から、
「フェアじゃないね」の真相まで!
じっくりたっぷりお届けします。ヨロシク。
- 糸井
- 永ちゃんは、若いころから
変わらずやってるところと、
変わったってはっきり言えるところと、
両方、あると思うんだけど。
- 矢沢
- うん。
若いときはねぇ‥‥
若いときは、なにかテーマを
つくんなきゃいけないじゃない?
進むためのテーマ、自分に。
- 糸井
- ああ、そうだね。
- 矢沢
- おまえ、どうなりたい?
どこに行きたい? って言ったときに、
俺さぁ、大金持ちになりたい。
いい車に乗りたい、
もうアンビリバボーな邸宅住みたい、
女にモテたい、
だから、バリバリロックするっていう、
そりゃハッキリしてた。
で、どわーっと行ったら、
まぁ、ちゃんとご飯食べれるようになった。
ところが、ちっとも
ハッピーじゃないってことに気づくのね。
なんでこんなにハッピーじゃないの?
好きなことやって、食べれるようになったのに?
おっかしいな、こんなはずじゃない、
って考えてるうちに、だんだん答えが出てくるの。
あ、金ってのは、便利がいいけど、
絶対じゃないんだな、と。
- 糸井
- うん。
- 矢沢
- あの‥‥これね、
金、ある程度まで稼いでない人間が
これ言っても、説得力ないわけよ。
- 糸井
- うん、うん。
- 一同
- (笑)
- 矢沢
- いや、俺が稼いでるって
言ってるわけじゃなくてさ。
まぁ、いちおう食べれるようになって、
金じゃないんだな、と。
だから、いまはわかる。
もう、70の手前まで来てるわけですけど、
いまはわかるんだな。
やっぱり、俺は、金じゃなくて、
やりたくてやってる。
- 糸井
- やりたいんだね。
- 矢沢
- やりたい。
やってたら、落ち着くの。
- 糸井
- ああー、「落ち着く」か。
- 矢沢
- 落ち着くのよ。
やりたくてやってる。
やってたら、「落ち着く」。
そういうものがあるかどうかで、決まるね。
若い人は、若い人なりに、年配は、年配なりに。
進む道があるのか、ないのか。
それがない人は、つらいだろうけど。
- 糸井
- 何をしたらいいのかを探すのも
道のひとつだろうけどね。
- 矢沢
- うん。
どこに自分をぶつけたらいいのか、
どこに進んだからいいのか。
つまるところ、そこなのよ。
それは、大きさとか関係ない。
その人なりでいいから、
それがあるのか、ないのか。
- 糸井
- そういうものを見つけたかどうかだよね。
- 矢沢
- そうなの。
ぼくらだってさ、若いころは転がるように、
そんなことを思いもせずに、
気づいたら、60も過ぎてたわけで。
- 糸井
- けっきょく、こうやって、
ドタバタしてわあわあやってるのが
「落ち着く」からやってるとも言えるよね。
- 矢沢
- そうなの。
こうやってバタバタやってるのが、
落ち着くし、うれしい。
そのほうが気持ちいいのよ。
ぶうぶう言いながらね。
ぶうぶう言うのよ。
あちこち痛いしさ。
- 糸井
- 言う言う(笑)。
- 矢沢
- なんで肩が今日まだシビれてるんだ、とかね。
もうあっちがどうした、こっちがどうした。
たぶんミック・ジャガーも絶対そう。
- 糸井
- そうだよね。
- 矢沢
- 若いころは、そんなふうに思わなかった。
40ぐらいのときは、まだ、
はっきりはわかんなかった。
たぶん、そうじゃないの、ってことが、
だんだんだんだん、わかってくる。
で、いまははっきりわかる。
じぶんがやりたいことが、
落ち着くことが、あるか、ないかよ。
その人なりに。大きさ関係ない。
- 糸井
- それはさ、永ちゃん、
一回、ツアーを休んだじゃない?
ずっとつづけてたツアーを1年休んだ。
あれがすごくよかったんじゃない?
- 矢沢
- あーー、そうねぇー。
- 糸井
- ちょっとさみしかったでしょ(笑)。
- 矢沢
- あのときはね、なんだ、
俺、気づいたら、走って走って、
転がって転がって、行って行って、
これじゃまずいなと思ったのよ。
ただひたすらに機関車のように走って。
そうじゃなくてさ、
どこかの街をこう歩いてると、
ちょっとあぜ道があったり、
横丁があったりして、
ちょっと入ってみたいなぁって思って
ひょいと曲がってみたりして、
これが生きてるってことじゃない?
- 糸井
- うん、うん。
- 矢沢
- でも、若いころから俺は
まるで機関車のように、
あそこ行くっていったら、
バァーっとあそこ行っちゃうんだ。
たまにあぜ道も見えるんだけど、
パスパスパス!
これじゃ、ダメなの。
- 糸井
- うん(笑)。
- 矢沢
- で、ちょっと、今年はツアーやめる、と。
やめて、逆にその横丁みたいなとこ、
ちょっと覗いてみて、
入ってみたらどうなるのか、
発見があるかもしれないと思ったんですね。
- 糸井
- うん。
- 矢沢
- で、まるっきし1年、
ツアーしない年をつくりました。
- 糸井
- 休んだね。
- 矢沢
- 休みました。
で、すごい、期待してね。
なにが待ってるんだろう、
なにを俺は発見するんだろうって
すごく期待して休みました。
すると、どうなったか?
‥‥なんにも発見がないことがわかった。
- 一同
- (笑)
- 糸井
- あ、そう(笑)。
- 矢沢
- そうなんだよ、
人生ってそんなもんなんだよ!
- 糸井
- ははははは!
そういう結論だったんだ。
- 矢沢
- うん。ぼくはね。
ほかの人は知らないよ?
ほかの人は別のこと言うんだろうけど、
ぼくは、なんだよ、
なにもないじゃない! って思った。
ツアーがなくなったぶん、
飲み屋でガンガン飲んでると
身体はボロボロになってくるし。
だから、まあ、
ぼくはそんなに器用じゃないんだよ。
休んだからって、すぐには切り替えられない。
- 糸井
- もともと永ちゃんは器用じゃないからね。
- 矢沢
- そうなの。ぼくはとくに器用じゃない。
でもね、ひょっとしたら、
ほかの方たちも、つまり、人間というのは、
そんなにバリバリ器用じゃないんだと思うよ。
- 糸井
- ああーー。
- 矢沢
- ぼくはその中でも、もっと不器用なんだけども、
もともと人っていうのは、
そんな絵に描いたように行くもんじゃないと思う。
だから、もしも誰かが
「毎日毎日こんなことばっかりやって‥‥」って、
言ったとしたら、ぼくは言いますね。
そんなもんなんじゃない? って。
- 糸井
- そうだねぇ。
- 矢沢
- だから、ちょっと自分をゆるめたり、
大丈夫だから、って言ってみたり。
無理に変えたり切り替えたりっていうより、
そのほうが、いいんじゃないかな。
- 糸井
- そういうことも、
若いころはわからなかったね。
- 矢沢
- だよね。
(つづきます。)
2019-06-08-SAT
写真・幡野広志
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN