矢沢永吉さんと糸井重里、
7年ぶりの対談です。
ほぼ日刊イトイ新聞創刊21周年の記念企画として
ほぼ日のオフィスで乗組員全員の前で
対談してもらえませんかとお願いしたら、
「いいですよ」とお返事が。
出会いのときから、ほぼ日創刊時の思い出、
そして紅白歌合戦の裏話から、
「フェアじゃないね」の真相まで!
じっくりたっぷりお届けします。ヨロシク。
- 糸井
- 永ちゃんはよく、
「ステージの前は誰だって怖い」
という言い方をしてるけど、いまはどう?
- 矢沢
- おんなじ。いまも怖いよ。
でも。だからいいのよ。
ドキドキするし、あがるよ。
「はい、30分前です、ボス」っていうとき、
もう、わかっちゃいるんだけど、
こう‥‥ふっ、ふっ、ふっ、と来てる。
あれがいいのよ。
- 糸井
- ドキドキするけど、いいんだね。
- 矢沢
- ただ、ぼくは、自分の性格というか、
自分に感謝してるのは、
追い詰められて、追い詰められて、もう、
「オーマイガー!」という気持ちだけど、
「はい! GO!」って言って、
ボーンとステージ出たら変わるからね。
バシッと変わるわけ、もう。
よーしよし、行ったろか、ヨロシク!
みたいな感じになるわけ。
あれで、おかげさまで、こんにちまで。
- 一同
- (笑)
- 糸井
- ということは、
ある程度、ビビる心も必要?
- 矢沢
- そう。ビビったほうがいい。
ビビる心があるから、なんつーのかな、
なんとも言えないものが
そこにあるんじゃないですかね。
お客さんから見てて。
もう、ブンブン来るというかね。
- 糸井
- どっちがほんとだか、
もうわかんなくなると思うけど、
自分の思う、ほんとの自分というのは、
気が弱いの?
- 矢沢
- その、やってる最中はわかんないですよ。
終わって、ふっと自分のこと振り返ったら、
ぼくは‥‥まぁ、怖がりですね。
20代のころは、それを認めたくなかったし、
口に出しては言いたくなかった。
ちょっと舐められたらいけないというのがあって。
- 糸井
- うん、うん。
- 矢沢
- でも、いまは素直に言える。
あー、俺って怖がりだなぁ、って。
怖さと背中合わせだから、
ここまで走って来れたのかなぁ、
と思ったりしますね。
- 糸井
- 怖がりの自分だから、いざとなったら、
スイッチが入ったみたいに、飛ぶのかな。
- 矢沢
- 飛ぶっていうか、
もう飛ばざるを得ないというか、
ステージって、もう逃げられないじゃない。
はい、行きまーす! つったらもう、
はい、みなさん、ようこそ!
もうOKって感じですよ。
だから、ライブはそれがいいのよ。
ナマはいいんですよ。
- 糸井
- テレビとかだと、勝手が違う?
- 矢沢
- テレビはダメだねぇ、ぼくは。
だから、NHKで歌詞間違えるんですよ。
- 一同
- (笑)
- 糸井
- 紅白のときね(笑)。
- 矢沢
- もうあれなんて、もう絶対忘れないもんね。
最初の紅白出たとき。
- 糸井
- 俺もびっくりしたもん。
- 矢沢
- だって、テレビの字幕が急に消えたでしょ?
字幕を出してる係の人が、
慌てて消したんだと思うよ。
「罪なやつさ Ah PACIFIC」のあとの、
「碧く燃える海」が出なかったのよ。
- 糸井
- ねぇ(笑)。
- 矢沢
- あのときさ、ぼく、ずーっと、
シークレット扱いだったのよ。
だから、リハーサルも
おおっぴらにできなかったわけ。
やっぱりさ、シークレットとか‥‥
あんまりカッコつけるもんじゃないね。
- 一同
- (笑)
- 糸井
- ははははは。
- 矢沢
- シークレットとかしないで、
リハーサルちゃんとやりゃよかったのに、
シークレット、シークレットで、
もうNHKもその気になってるし、
本人もその気になってるから、
もう出演者のみなさんがいない部屋に
閉じ込められてたわけ。
- 糸井
- あ、そうなんだ。
- 矢沢
- そうよ。
なんか、妙に広い部屋にいたわけ、ずーっと。
それで出る30分前に、
はい、そろそろ移動します、って車に乗って、
バーって行ったとき、なんか急に、
さっきまでなんともなかったのに、
心臓がバクバクバクバク‥‥。
- 糸井
- (笑)
- 矢沢
- で、バーっと行ったら、
はい、矢沢さん、
いまこのドアが開いたら、
人垣で花道ができますので、
その先がステージです、わかりますよね?
マイクはそこの出る直前で手渡し、
みたいなこと言われてさ、
頭の中がごっちゃになっちゃって。
- 糸井
- ふふふふふ。
- 矢沢
- はい、矢沢さん、
はい、いきます、10、9、8‥‥
ちょっ、ちょっと待って‥‥とか思ってたら、
ドアがうわーっと開いて、
もうイントロ、ジャッ、ジャッ、ジャッ、
そしたら、俺、パーンと出たとき、もう、
「ハーイ、ヨロシクぅ」
って言うしかないじゃん、もう。
- 一同
- (笑)
- 矢沢
- 花道つくられてるんだもん、
NHKのスタッフが並んで、もう。
ジャッ、ジャッ、ジャッ、イントロ鳴ってるよ。
それで花道の先に
マイクくれるやつがいるって言ってたな‥‥
ジャッ、ジャッ、ジャッ、
あ、マイクくれた、もらった、
それで、パッと出たら、もうステージじゃん。
NHKホールだ、歌うしかないよね、
「罪なやつさ‥‥♪」
で、パッと見てね、素直に、
「狭いなぁ‥‥」と思ったわけ。
- 一同
- (笑)
- 糸井
- ああ、そうだね、うん。
- 矢沢
- こんな狭いとこでやってるわけ? 毎年?
って思ったんだよね。
- 糸井
- 思ったより狭い。あそこは。
- 矢沢
- そうなの。でも歌ってるのよ。
「♪罪なやつさ Ah PACIFIC」
‥‥狭いなー。
- 一同
- (笑)
- 矢沢
- 「碧く燃える海」がもう出ないんだよ。
バーン、しょうがないから、てきとう。
作詞、そこで。
心滲ませて、どうした、こうした‥‥。
- 糸井
- はははははは!
- 矢沢
- あ、やっちゃったなーと思いながら、
で、セカンドバースぐらいから
もとに戻るんじゃないですかね。
大とちりのファーストバースやって。
終わって、もう、即逃げですよ。
- 一同
- (笑)
- 矢沢
- 車、ポーンと乗って、出ようと思ったら、
NHKの紅白歌合戦のトップが3人ぐらい来て、
「今日はありがとうございます!」
って言うから、窓開けて、
「今日、歌詞間違えた、すいませーん!」って、
そしたら、いやいやそんなことどうでもいい、
って言ってくれたんだけど。
- 糸井
- うん。
- 矢沢
- で、家に着いたら、うちの娘が、
「お父さん、勘弁してよ」
- 糸井
- ふははははは。
- 矢沢
- 「勘弁してよー」っていうから、
「うん、わかる」って言ったあとに、
なんかおかしいなと思ったら、
俺、イヤーモニター、まだ付けてた。
- 一同
- (爆笑)
- 矢沢
- イヤーモニター外すの忘れてたの。
耳に入りっぱなし。
- 糸井
- そうだったんだ(笑)。
- 矢沢
- 娘はあきれてるわ、
イヤーモニターはついてるわ、
もうグシャグシャよ。
それでもう落ち着いたら、
シャンペンラッパ飲みしたよ。
- 一同
- (笑)
- 矢沢
- それで、酔いが回るじゃない。
回るとこうちょっと余裕も出てきてさ、
でもさぁー、歌詞間違えようがなにしようが、
ハート・トゥ・ハートじゃん?
- 一同
- (笑)
- 矢沢
- ほんっとにね。
- 糸井
- 急に気が大きくなって(笑)。
- 矢沢
- サイコーの思い出です。
- 一同
- (笑)
(ああ、おもしろい。ヨロシク)
2019-06-12-WED
写真・幡野広志
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN