矢沢永吉さんと糸井重里、
7年ぶりの対談です。
ほぼ日刊イトイ新聞創刊21周年の記念企画として
ほぼ日のオフィスで乗組員全員の前で
対談してもらえませんかとお願いしたら、
「いいですよ」とお返事が。
出会いのときから、ほぼ日創刊時の思い出、
そして紅白歌合戦の裏話から、
「フェアじゃないね」の真相まで!
じっくりたっぷりお届けします。ヨロシク。
- 糸井
- 永ちゃんがステージの前になると
いまでもビビるっていうことと、
いざ本番がはじまったらぶっ飛んじゃう、
っていうことの間にあるものはなんだろう。
たとえば、それは、勇気みたいなもの?
- 矢沢
- ‥‥勇気か。
- 糸井
- 責任感もあるんだろうけど、
やっぱり勇気がなければできないと思う。
- 矢沢
- なんでしょうね、でもね、
ぼくは、たしかにビビりなんだけど、
なんだかんだ言って、
そういうことが、好きなんだと思う。
- 糸井
- ああーー。
- 矢沢
- そういう緊張感とか、ドキドキ感とか。
もう、怖くて、怖くて、
でも、はじまったら、もうやっちゃう。
で、「よかったなぁ!」と思う。
- 糸井
- 怖いけど、好きなんだね。
- 矢沢
- じゃないですかね。
でも、それはたぶん、ぼくだけじゃなく、
もしくはミュージシャンだけじゃなく、
ボクサーにしても、テニスプレーヤーにしても、
みんな一緒なんじゃないの?
- 糸井
- ああー。
- 矢沢
- 絶対、どのジャンルの人も。
それがチャンピオンシップとか
ワールドカップとかだったら、
もう、ほんとに前の夜、
まともに寝れないと思うけど。
それでも行って、最後、勝っちゃったら、
もう、泣いちゃうよね。一緒なのよ。
- 糸井
- このあいだ、
ラグビーの元日本代表の五郎丸さんに、
あんだけ強いラグビーの選手だから、
格闘技とかやっても強いんじゃないですか、
みたいに、ふつうに雑談をしてたの。
そしたら、五郎丸さんは、
「格闘技はできないですね」って言うんですよ。
「え、どうしてですか」って訊いたら、
ラグビーはチームのみんなとやってるから、
「みんなのために」という気持ちがあるので、
あんな恐ろしいことできるんだって言うんですよ。
- 矢沢
- あーー、それはおもしろいかもしれない。
当たってるかもしんない。
- 糸井
- 俺がここでぶつかんなかったら、
チームのみんなによくない、
っていうのがあるから、
「よーし、俺がぶつかってくる」ってやれる。
だからラグビーはおもしろいし、
ぼくみたいなやつでもできるんですよ、って。
だから、強さや怖さでも、なんか、
いろんな種類のものがあるんだろうね。
- 矢沢
- あるんだろうねぇ。
- 糸井
- 完全に怖いもの知らずの人なんか、
いないんだから。
- 矢沢
- 絶対絶対、そりゃ、嘘よ。
みんなその人なりに、ドキドキして、
それで、振り切って、どうにかしてる。
ぼくも、ステージの前はどんなに怖くても、
はじまったら振り切るどころか、
もう、アンコールあたりになってくると、
自分の場所みたいになっちゃってる。
- 糸井
- うん(笑)。
- 矢沢
- まあ、そういうことをずっとやって、
何十年も経ったということだからね。
- 糸井
- そうだね。
どんなに怖くても、それを振り切りながら、
70歳になるまでずっとくり返してたらさ、
もともと怖がりだろうとなんだろうと。
とんでもなく人格が変わりますよね。
もう、「矢沢永吉」の人格に。
- 矢沢
- ねぇ。
- 糸井
- そういえば、永ちゃんのお嬢さんがさ、
まえに、なんかで取材されて、
いいこと言ってたよ。
- 矢沢
- へぇー?
- 糸井
- 父について訊かれるんですよ。
まあ、家でいるとき、
矢沢永吉はどういう人ですか?
みたいな質問だったと思うんだけど。
- 矢沢
- うん。
- 糸井
- すると、お嬢さんはね、
「あの人は、
24時間、365日、矢沢永吉です」って言うの。
- 矢沢
- ‥‥へぇー。
- 糸井
- それ、すげぇ答えだなぁと思って。
- 矢沢
- へぇー‥‥。
だから、その、ぼくは父親として、
どうなのか、自分ではわからない。
彼女のほうが親父を見てるんですよ。
- 糸井
- 見てるんだね。
だから、永ちゃんは、家では、
お父さんとしてやってるつもりでも、
「矢沢永吉」というお父さんなんじゃない?
もう、無意識のなかに、
「矢沢永吉としてどうするべきか?」
っていうのが、ずっとあるんじゃないの?
- 矢沢
- なるほどなぁ。
ぼくは正直、わからないね、自分では。
- 糸井
- でも、ぼくもお嬢さんと同じ気持ちだなあ。
いろんな場面で、いろんな永ちゃんを見てるけど、
スターやってても、親切なことしてても、
やさしいことしてても、怒ってても、
やっぱり、ずーっと「矢沢永吉」だと思うよ。
- 矢沢
- へぇー、そうなのかね。
- 糸井
- 素でいることもね、
あるいは、かっこ悪いことがあったとしても、
矢沢永吉はそのかっこ悪さも含めて、
かっこよさにしちゃうっていうか。
- 矢沢
- だから、それはね、ぼくの中に、
「ええかっこしい」があるんじゃないの?
矢沢永吉はこうあるべき、とまでは思わないけど、
どうやったら「ええかっこしい」なのか、
人に見られるときのおもしろさというか、
こんなふうに自分を見させてやろう、みたいな、
そういういたずら心が、
ぼくの中にあるんじゃないかな。
- 糸井
- ああ、なるほど、それはわかる。
あの、昔ね、永ちゃんが自分で、
「俺は三枚目なのよ」って言ったことがあるのよ。
- 矢沢
- 三枚目?
え、それは、ぼくが言ったの?
- 糸井
- って、自分で言ったのよ。
で、最初は驚いたんだけど、
言われてみると、この人のかっこよさは、
三枚目の人が二枚目の芝居をしている
おもしろさが含まれているというか、
そう思って見ると、なるほどと思えるんですよ。
- 矢沢
- ふーん、そんなこと言ったんだね。
- 糸井
- 『成りあがり』とかより、
もっとずっとあとだけどね。
ちっちゃいときから俺は
ひょうきんなことやって、
友だちを笑わせるのが大好きだった、って言ってた。
- 矢沢
- あ、かもしんないよ。
絶対、どっかね、そうなのよ。
- 糸井
- 「俺のあとをついてこい、カモン!」
みたいなのじゃなくて、
なんかおもしろいことやって、
それでみんながついて来たんだよ、っていう。
- 矢沢
- はははは、そうね。
- 糸井
- だから、たぶん、かっこいいの中に
かっこ悪いを含めちゃったのが
永ちゃんのテクだよ。
- 矢沢
- ひょっとしたら、そうかもしれないよ。
かっこ悪りぃのも入れて、ねぇ、
かっこ悪りぃっていうのは、
どこの定義で言ってるのかって、
これまたおかしなもんであってね。
- 糸井
- ほんとだね。
- 矢沢
- そういうこと。
まぁ、別の言い方したら、人間臭さ。
- 糸井
- そうだね。
- 矢沢
- 「臭さ」っていうのも混ぜて、そのまま出す。
それって、ものすごくいいよね、
大事だよね、っていうのを、
ぼくはむかしから思ってたのかもしれない。
(つづきます。ヨロシク)
2019-06-13-THU
写真・幡野広志
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN