音楽家の細野晴臣さんと
美術家の横尾忠則さんが出会ったのは
1976年あたりのことでした。
そこからはじまる長いつきあいで、
対談回数はお互い「最多」相手なのだそうです。
はじめて会ったその日に
「いっしょにインドに行こう」という話になり、
ともに病気になり、YMOを結成しようともしました。
濃く薄く、かなったりかなわなかったりの交流を経て、
それぞれの世界で伝説化しているおふたりが
いま考えていること、抱腹絶倒の思い出話、
どうぞたっぷりおたのしみください。
取材協力:堅田浩二
編集:ほぼ日
- 横尾
- ただね、細野さん。
年を取るというのは決して悪いことじゃないんだよ。
- 細野
- ぼくはその話が聞きたいですよ。
- 横尾
- 新発見がすごく多いわけ。
- 細野
- でしょう? なんとなくそう思いますよ。
- 横尾
- まずはモノが、家の中から
しょっちゅう消えるんですよ。
- 細野
- そうなんですか(笑)、うん、うん。
- 横尾
- ところが、だんだんわかってきたんだけれども、
それはモノが消えたのではなく、
記憶が消えてるんですよ。
- 細野
- そうかぁ、すごいね。
モノは消えてなくて、
記憶が消えてる。
- 横尾
- これは発見といえば発見だよ。
それと、年取ると、
若いときのような野心や野望、欲望などの煩悩が
なくなってくる。
- 細野
- ないですよ。ぼくもそうです。
- 横尾
- そうすると、どうでもよくなってくるでしょう。
- 細野
- 本当に、どうでもいい。
- 横尾
- そのかわり、人に面と向かって、
批判したり悪口を言うようになります。
- 細野
- (笑)
- 横尾
- 言ったって、向こうの人にとっては、
「年寄りが言ってんだから、まぁいいか」
みたいなもんでしょう。
- 細野
- それはありますね。
「年寄りの言うことだから」と取られることは、
こちらにとって本当に楽です。
- 横尾
- だから、年寄りのふりしてさ、
まぁじっさい年寄りなんだけど(笑)、
世間でいう年寄りのふりをしてさ。
- 細野
- ときどき、おじいちゃんぶったりね。
- 横尾
- 言いたいことをどんどん言うわけ。
- 細野
- おじいちゃんなんだけど、おじいちゃんぶる。
- 横尾
- いままでは、
言っていいことと言っちゃいけないことを
どこかで区別していたんですよ。
社会的礼節によって。
- 細野
- はい、忖度してましたね。
面倒くさいバランスを取って。
- 横尾
- それがだんだんなくなってくると、今度は
自分というものが少しずつ見えてくるという
効果もあるんですよ。
それは、年を取ったからこその効用です。
しかし、ぼくはいま80を過ぎているけれども、
80過ぎてこのことに気がついたのでは、
はっきり言って遅いと思うわけ。
- 細野
- (笑)
- 横尾
- 60ぐらいにどうして、
いまの感覚になれなかったのか。
- 細野
- いや、60は年寄りじゃないんですよ。
若者なんです。
- 横尾
- そうね。
ぼくは70のときに『隠居宣言』という
本を書いたけれども、
それまでは自分の肉体感覚と年齢感覚が
乖離してたんです。
- 細野
- うんうん、わかる。
- 横尾
- 50歳なのに、
自分は30歳ぐらいだと思ってた。
- 細野
- まったくおんなじですよ。
- 横尾
- でしょう?
ただ、70になったときね。
- 細野
- やっとね。そうなんですよ。
70歳にはなにか、壁があって、
「あ、この壁を越えるんだ」と思いました。
つまり、いままでとは違うんですよね。
- 横尾
- そうそう。
ぼくの場合、70になったら、
肉体感覚と精神感覚の年齢が
おんなじになっちゃった。
それまではこの両者が乖離していたのに。
- 細野
- ぼくもそうです。
70の壁を抜けられない人も多いですね。
あれはやっぱり大きな壁ですよ。
だからぼくは、ちょっと怖かったです。
- 横尾
- 僕は70歳のときに、
帯状疱疹と顔面神経麻痺になったよ。
- 細野
- 70のときって、
たいていどこか弱るんです。
- 横尾
- ふたつの病気が同時に来ちゃったから、
これはヤバいと思って、
『隠居宣言』を書いたんです。
自分で思ってるだけでは実行しないから、
本に書いて公にしちゃえばいいと思った。
- 細野
- 宣言しないと休めないですね。
- 横尾
- 隠居宣言してなにがいいかというと、
嫌なことをしなくてすむんです。
好きなことだけをするというのが
ぼくにとっての隠居宣言だった。
- 細野
- 横尾さんはいつも先に、
ぼくらのやることをしてくださいます。
全部そう。
ぼくも、おんなじです。
数年前、ぼくは周りに対して
引退宣言をしました。
公に、ではないですけれどもね。
「隠居したらどうするんですか」と
みんなが訊いてくるから
「音楽は作るけど、好きな音楽だけをやっていく」
と答えました。
その引退宣言の翌日にライブがあったので、
そのステージで
「昨日、ぼくは引退したんですけど、
今日は引退後、最初のライブです」
とお客さんには話しました。
- 横尾
- ああ(笑)、そう。おもしろいね。
お客さんはキョトンとしてた? 喜んでた?
- 細野
- 喜んでました。
- 横尾
- 細野さんは音楽でいろんなことをお客さんに
あらわしてきたと思うけども、
そういう発言は音楽の裏づけになるし、
お客さんに届いただろうね。
- 細野
- ロック世代がここまで来て、70になって、
まだやってるわけでしょ?
若い人はそれを見ています。
それはどうしても雛形になっていくからね。
横尾さんは、ぼくにとって雛形です。
- 横尾
- ところがさ、
その『隠居宣言』を書いたあと、
会う人会う人がね、
「隠居をしたにもかかわらず、
どうしてそんなに忙しいんですか」
と言ってくるんです。
「当たり前じゃない。好きなことやろうとしたら、
あれもしたい、これもしたいと、
忙しくなっちゃったんだよ」
- 細野
- ええ(笑)。
じつはやりたいことは、いっぱいあるんですよね。
- 横尾
- そうなの。隠居するとやりたいことが増えました。
嫌いなことをやっているうちは、
体に影響があるけれども、好きなことだから、
あんまり悪い影響がないんですよね。
健康になっちゃう。
- 細野
- つらくないですよね。ストレスがあまりない。
- 横尾
- むしろ活性化していく。
- 細野
- そうそうそう。
だから、横尾さんは近頃お若くなりましたよ。
ぼく、横尾さんが弱ってる頃も知ってますから。
- 横尾
- 体力的には落ちてるかもわかんないけども、
気力みたいなものは、あるじゃないですか。
まぁ、昔は体力と気力がひとつだったんだけどもね。
気力というのはぼくの場合、
絵を描くことです。
細野さんだったら音楽を演奏したり、
作曲したりということだと思う。
- 細野
- そうですね、うんうん。
- 横尾
- だから、それが健康とか、
ある意味、体力を回復させるとかね、
そういったことと
すごくつながるんだけども、
そのあたりはどうですか。
(明日につづきます)
2021-08-22-SUN
※細野さんと横尾さんのこれまでの対談をまとめた本
(いったい何回分の対談を掲載しているのでしょうか!)が
近日刊行予定だそうです。
発売日が決まったら、
ほぼ日のTwitterなどでお知らせします。
書籍『YOKOO LIFE』販売中!
渋谷PARCOの展覧会は8月22日まで。
この夏、横尾忠則さんの作品が
東京のあちこちで見られます。
ほぼ日は渋谷PARCO8階「ほぼ日曜日」で
横尾忠則さんのお人柄や生活にスポットをあてた
展覧会を開催します。
また、みなさまからの熱い要望により、
連載『YOKOO LIFE』を
糸井重里との新規対談を加えて書籍化します。
みなさま、この夏、
『YOKOO LIFE』の本を片手に
「東京YOKOOめぐり」をなさってください。
(めぐった方には横尾只海苔をプレゼント!)
『YOKOO LIFE』
横尾忠則(著)
糸井重里(聞き手)
1,320円(税込)
渋谷PARCO ほぼ日曜日で
7月17日より注文販売。
7月21日(時間未定)より先行販売。
東京都現代美術館のショップ、
横尾忠則現代美術館、豊島横尾館で、
7月21日(時間未定)より先行販売。
ほぼ日ストア、全国書店で
8月3日より販売開始予定。
打ち合わせや旅のあいだのおしゃべりが、
宝もののようで、聞き逃がせなかった。
だから録音機をできるだけまわした。
どうおもしろいのか、説明はできない。
そんなふうにおそるおそるはじまった、
横尾忠則と糸井重里による
「ほぼ日」のおしゃべり連載は、
通な方々のあいだでじわじわと話題となった。
「あれ、本にすればいいのに!」
という声をいただくも、
編集方針について迷いに迷い、数年経過。
この記念すべきYOKOOイヤーに、
思い切って追加の対談を収載し、
奇跡のような本を誕生させます。
本になって、さらに宝もののような、
貴重な内容です。
「YOKOO LIFE
横尾忠則の生活」
会期/2021年7月17日(土)→8月22日(日)
11:00→20:00
会場/渋谷PARCO8階「ほぼ日曜日」
入場料/450(¥OKOO)円
主催/ほぼ日
協力/朝日新聞社
2021年7月17日(土)→10月17日(日)
東京都現代美術館 企画展示室1F/3F
2021年7月21日(水)→10月17日(日)
21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー3
2021年7月17日(土)→9月5日(日)
丸の内ビルディング、新丸の内ビルディング
ジャケットとパンツを
2021年7月1日(木)から順次発売
ISSEY MIYAKE SHIBUYA(渋谷PARCO2階)、
A-POC ABLE ISSEY MIYAKE / AOYAMA、
ISSEY MIYAKE SEMBA、
ISSEY MIYAKE MARUNOUCHI、
ISSEY MIYAKE ONLINE STORE
横尾只海苔
(よこおただのり)
プレゼントします。
横尾さんの描き下ろし直筆文字入り!
渋谷PARCOの「YOKOO LIFE」展入口で、
東京都現代美術館で開催する
「GENKYO 横尾忠則展」のチケット
(電子チケットの画面可)をご提示の方に、
横尾忠則書きおろし文字入り
「横尾只海苔」(ホンモノの海苔)を
プレゼントします。
※「横尾只海苔」はなくなりしだい配布終了します。
「GENKYO 横尾忠則展」チケットは
観覧前、後どちらも可です。
(C) HOBONICHI