私と芸術、私の友情。吉本ばなな 私と芸術、私の友情。吉本ばなな
2021年の夏、東京では
横尾忠則さんの作品があちこちで見られます。
国内外の団体がここぞと力を出し合い、
類稀なる存在をあらためて知らしめる、
しずかで大きな芸術活動です。
ほぼ日もそのちいさな一端を担います。

吉本ばななさんは、
横尾忠則さんと糸井重里の対話の連載
「YOKOO LIFE」を、
気にいって読んでくださっていました。
いったい、どこがお好きだったのでしょうか。
そして、絵画や文学の果たしている役割とは。
第3回 芸術が発散させてくれるもの。
写真
──
芸術は、
人間の表に出ていないところで
必要になるのでしょうか。
吉本
広大な潜在意識というか無意識というか、
そういう世界が、
一人ひとりにあるわけです。
表側のニーズは表側で満たせるけど、
内側のニーズは満たせない。
潜在意識は広大だから、
そっち側に対して満たすものがないと
人は生きていけないんじゃないでしょうか。
──
潜在的だから、
満たされてないことに
気づきにくいですよね。
吉本
たぶん、気づかないまま、
一生を終える人もたくさんいると思います。
例えば地獄のイメージって、
「本で見たから」だけじゃなく、
みんな頭の中になんとなくあるじゃないですか。
ふだんいっさい思い出さなくても、ある。
それが「ある」のに、
「ある」ということに気がつかなければ、
それなりに負担になってくるわけですよ。
──
ほんとうは「ある」のに、
自覚していないことが。
吉本
自分のなかの地獄像、
宇宙像、女性像とか、
まぁなんでもいいんだけど、
そういったもの。
夢でしか見ないけど
行ったことあるような場所とかも、そうです。
──
隠れているけど、ありますね。
吉本
そういうのって、押し込めておいたら、
何かの拍子に出てきちゃうんですよ。
それは暴力として出るかもしれないし、
破壊かもしれない、
精神の不安定さにつながるのかもしれない。
人のそういう部分を安定させるために、
芸術は存在していると思います。
──
芸術がないと生きていけないと思うのは、
自分のなかのそういう部分が、
欲しているからなんですね。
吉本
ようするに、ホラー映画も同じですよね。
ホラー映画を嫌いな人は、
「なんであんなものが必要なんだ」
と言うじゃないですか。
でも、極端な話だけど、
ああいうものがなければ、
同じようなホラーが日常に入り込むかもしれない。
人間の心のいろんな部分を解消するために、
ホラーは必要だと思うんです。
写真
──
コロナ感染拡大による自粛で
いろんなアートが見られなくなった時期、
たいへん息苦しかったです。
吉本
いろんな創作物が、
人間の無意識の世界を支えているからね。
──
作家さんもおそらく、
無意識から表現していて、だからこそ、
見ている側の無意識にかかわってくる、
という気がします。
吉本
そうそう、やっぱりそうやって
人に表に出してもらえば、救われるんですよ。
押し込めておくと、何かよくない力になって、
本人を侵すこともあるわけです。
例えばですけど、
時計が木の枝でどろーっと溶けているところを、
もし自分が想像して止まらなくなっちゃったら、
気がおかしくなっちゃいます。
だけど、絵にしてもらっているから、
「あ、このイメージは、この世にあるんだ」
と思えたりする。
──
サルバドール・ダリの「記憶の固執」。
‥‥私はキリコの絵に
救われた気になったことがあると、
いま、思い出しました。
あれは、共感だったのでしょうか。
吉本
共感というより、発散じゃないでしょうか。
──
発散。発散か!
吉本
その「観たほうの人」のね。
──
ああ、だから美術館に行って、
横尾さんの絵を観て、
スッキリした気分になるんですね。
吉本
そう。
「自分のなかにも、こういうものあったな」
と思い出すからです。
自分はほんとうは大きくて広いもので、
いろいろな力を持っていて、それを
閉じ込めたり出したりしているんだ、
ということがわかって、
呼吸できるようになるんじゃないでしょうか。
──
美術館や映画館から外に出て、
いつも開放感があるのは、そのせいですね。
吉本
だと思います。
──
音楽にもそういうものを感じます。
吉本
ああ、音楽もそうなんじゃないでしょうか。
聴いたことによって、
自分のなかにあるものが呼応して、
呼吸できたり発散できたりする。
──
でもどうでしょう、横尾さんは、
そんなことを考えて
描いてらっしゃるかどうか?
吉本
ある程度は、
考えるんじゃないかなと思います。
(明日につづきます)
2021-07-11-SUN


この夏、横尾忠則さんの作品が
東京のあちこちで見られます。
ほぼ日は渋谷PARCO8階「ほぼ日曜日」で
横尾忠則さんのお人柄や生活にスポットをあてた
展覧会を開催します。

また、みなさまからの熱い要望により、
連載『YOKOO LIFE』を
糸井重里との新規対談を加えて書籍化します。



みなさま、この夏、
『YOKOO LIFE』の本を片手に
「東京YOKOOめぐり」をなさってください。
(めぐった方には横尾只海苔をプレゼント!)
写真
『YOKOO LIFE』
横尾忠則(著)

糸井重里(聞き手)

1,320円(税込)

渋谷PARCO ほぼ日曜日で
7月17日より注文販売。
7月21日より先行販売。
東京都現代美術館のショップ、
横尾忠則現代美術館、豊島横尾館で、
7月21日より先行販売。
ほぼ日ストア、全国書店で
8月3日より販売開始予定。
写真
打ち合わせや旅のあいだのおしゃべりが、
宝もののようで、聞き逃がせなかった。
だから録音機をできるだけまわした。
どうおもしろいのか、説明はできない。
そんなふうにおそるおそるはじまった、
横尾忠則と糸井重里による
「ほぼ日」のおしゃべり連載は、
通な方々のあいだでじわじわと話題となった。

「あれ、本にすればいいのに!」
という声をいただくも、
編集方針について迷いに迷い、数年経過。
この記念すべきYOKOOイヤーに、
思い切って追加の対談を収載し、
奇跡のような本を誕生させます。
本になって、さらに宝もののような、
貴重な内容です。
写真
「YOKOO LIFE 

横尾忠則の生活」
会期/2021年7月17日(土)→8月22日(日)

   11:00→20:00

会場/渋谷PARCO8階「ほぼ日曜日」

入場料/450(¥OKOO)円

主催/ほぼ日

協力/朝日新聞社



2021年7月17日(土)→10月17日(日)

東京都現代美術館 企画展示室1F/3F



2021年7月21日(水)→10月17日(日)

21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー3



2021年7月17日(土)→9月5日(日)

丸の内ビルディング、新丸の内ビルディング



ジャケットとパンツを
2021年7月1日(木)から順次発売

ISSEY MIYAKE SHIBUYA(渋谷PARCO2階)、
A-POC ABLE ISSEY MIYAKE / AOYAMA、
ISSEY MIYAKE SEMBA、
ISSEY MIYAKE MARUNOUCHI、
ISSEY MIYAKE ONLINE STORE
写真
横尾只海苔

(よこおただのり)

プレゼントします。
写真
横尾さんの描き下ろし直筆文字入り!



渋谷PARCOの「YOKOO LIFE」展入口で、
東京都現代美術館で開催する
「GENKYO 横尾忠則展」のチケット
(電子チケットの画面可)をご提示の方に、
横尾忠則書きおろし文字入り
「横尾只海苔」(ホンモノの海苔)を
プレゼントします。
※「横尾只海苔」はなくなりしだい配布終了します。
「GENKYO 横尾忠則展」チケットは
観覧前、後どちらも可です。