HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN
 
お直しとか
 
横尾香央留
     
 
 プロローグ #1   お直しをされた3名に、
 横尾香央留さんのことを聞きました。


ご本人をとりまく人々へのインタビューで、
横尾香央留さんをご紹介していくプロローグの1回目。
実際にお直しをしてもらったことのある方々に、
ご登場いただきました。

まずは大橋歩さん。
マフラーのお直しを見せてもらいました。

そして、料理家の高山なおみさん。
ご主人が横尾さんと知り合ったのが
そもそものきっかけだったそうなので、
だんな様の落合郁雄さんから順番にお話をうかがいました。

 

大橋歩さん


横尾さんがつくった「大橋さん」
プロフィールはこちら

「吉祥寺で『横尾』というカフェをやっている、
 お母さまと知り合ったのが最初なんです。
 すてきなお母さまなので『アルネ』に出てもらったり
 お店を取材させてもらったりしました。

 お嬢さんの香央留さんは、すごくかわいらしくて、
 ピュアな人だから、
 みんな香央留さんのことを好きになるんです。
 応援してる人が、ほんとにたくさん。

 その香央留さんがお直しをしていると聞いて、
 私はマフラーをお願いしてみました。
 すごく昔の、
 40年は前のカシミアのマフラーを。
 どういうふうに直してもらえるんだろうって
 たのしみにしてたら、こうなって帰ってきました」


「私がいっしょに暮らしている
 ラブラドールのダルマーが!
 大きな穴のところにダルマーが。
 裏返すと、しっぽと後ろ足も!」


「足あととか、ダルマーのごはんが入ったお皿まで!」


「もう信じられない。
 すごい、これはすごいと思いました。
 届いたときには
 そこにいたみんなでキャーキャーって大騒ぎして。

 ただの修繕っていう次元じゃないですよね。
 こういうたいへんなことを、
 香央留さんは、いとわない人なんです。
 
 ふだんからとてもていねいで、
 たのしいアイデアがいつもあって、
 お礼状とか、すてきなんですよ。
 ちょうど昨日、届いたお手紙が
 “ほぼ日さんの取材を受けてくれて
  ありがとうございます”
 という内容でした。
 しかもそれが、糸で縫われた手紙なんです。

 香央留さんは、相手の生活を読んで、
 そこから相手のよろこぶことを引っぱり出して、
 それをデザインにします。
 マフラーにダルマーを入れたのは、
 私がたいせつにしていることを
 くみとってくれたからなんですよね。

 それをセンスよく仕上げるのが
 香央留さんのすごいところ。
 自分の作品をおもしろくしようというのではなくて、
 ぜったいに相手がいることとしてつくるんです。
 その人の持ち物として考えてから、つくる。
 それがすごい。
 ほかのひとにはちょっとできない部分です。

 ただ、このマフラーは、
 もったいなくて使えなくなっちゃいました(笑)」

 


落合郁雄さん


プロフィールはこちら

「私はいろいろな物を作っていまして、
 その発表会に香央留ちゃんがいらしたのが
 最初なんです。
 あとで感想文のような内容をいただいたんですが、
 それが、これだったんですよ」

「驚きますよね。
 はがきを縫うって、そのときたぶん初めて見ました。
 それが2006年の発表会ですから、
 5年前です、香央留ちゃんと知り合ったのは。

 お直しということだと、これですね。
 このなんでもないいわゆる
 パラシュートパンツ」

「ちょっとほつれてるんだけど、
 この部分はミシンをかけにくいので
 放っておいたんですよ。
 それをお直しに出してみたら‥‥。
 そこがポケットみたいになって、
 ひっぱりだしてみると‥‥」


 地味な作業ズボンにこういうのがついたのが
 ちょっとショックでした(笑)。
 すごいと思いました。
 ほんとになんでもないパンツだったのに、
 いまはもう普段着では、はけなくなりました。
 出かけるときにはいてますね」

 


高山なおみさん


プロフィールはこちら

「はがきを縫うなんて、
 おもしろいことをする女の子がいるんだなぁと思って、
 一気にひきつけられました。
 その頃、本の絵を描いてくださる方を探していたので、
 表紙を作ってもらうことになったんです。
 『日々ごはん〈8〉』という本の。
 そしたらもう、すごく細かいところまで
 作り込んでくださって」


「お直ししてもらったものは、
 私の場合はカーディガンですね。
 15年くらい前に友人にもらったカーディガン。
 これはもう、いただいた時点で
 アンティークでした」


「お気に入りだったんですけど、
 やっぱり古いものなので裂けてきたんです。
 香央留ちゃんが直してくれたのは‥‥
 ちいさいから見えにくいんですけど、
 花をつけてくれました。
 元の柄のことをちゃんと考えて、
 裂けてたところをから花を咲かせてくれたんです。
 植物の茎までちゃんと編んである」


「これが届いたときは、びっくりでした。
 もともと大好きなカーディガンだったんですけど
 さらにとくべつになりました。

 たとえば虫喰いの穴って、
 一般的に良くないものだし恥ずかしいじゃないですか。
 でも香央留ちゃんがさわると、
 いいものになっちゃうんですよね。

 どうして香央留ちゃんがさわると、
 こんなに別物になるんでしょう‥‥?
 そのヒミツは、私にもわかりません。

 ただ、香央留ちゃんのお直しは、
 主張してないんですよね、自分を。
 常にあるのは、持ち主の相手と、その素材のことです。

 あとはそう、すごい集中力で
 よく見てるんだと思います。
 つくるもの自体の
 編み目とか縫い目を
 すごくこまかく見るように、
 相手や、そのまわりの気配とか、
 ミクロまで見てると思うんです。
 香央留ちゃんの文章も、
 そういう人が書く言葉だと思います。

 それだけ見るから、
 だから、時間がかかるんです。
 お直しじたいも手がこんでいるけれど、
 きっと、時間をかけて見たり感じたりしてからじゃないと
 つくりはじめられないんだと思います。

 わたしも時間がかかる方なので、
 そのへんで、お友だちなんですよ。
 かかるんです、どうしても時間は。
 よーく見ていたら、かかるんです。
 早い人には早い人のやり方があって、
 それはもちろんすばらしいことなんですけれど‥‥。
 どうぞそのまま急がないでくださいって、
 香央留ちゃんにはそう思っています」


(あしたにつづきます)

 
BOOKS
 
2011-10-19-WED
 
 
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デザイン:中村至男