第16回 《 たんこぶ 》 |
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“ばこーーーーーーーーーん”
蒼白い空が見えた。
“あー はいはいはいはい
そうですか そうきましたか …”
首を元に戻す時 右斜め前のビーボーイが
口を開け 信じられないといった顔をして
こちらを見ているのが目に入った。
あたしってそういうところがあるのだ。
引きがいいのか悪いのか
どうしてなのか選ばれてしまう。
開かずの踏切のバーを押さえ上げながら
渡った自転車のおじさん。
その手を離れ 勢いよく跳ね返ってきたバーは
こんなにもたくさんの人がいる中で
あたしのオデコを選び そして見事に命中した。
“別にいいけど なんで下北なんだろう”
出来上がったお直しを渡すために
2年ぶりに会う女の子達に指定された
下北沢という場所に なんとなく疑問を抱いていた。
虫の知らせ みたいなものを感じる方だ。
だからといって回避できないのだからしかたない。
下北では食べたかったグリーンカレーを食べれて
お直しのお礼にと 下北の2つのパン屋さんの
パンを山ほどもらい “お直し冥利につきるわ”
なんてさっきまではほくほくしていた。
だから下北で会うのは正解だったのだ。
だがしかし 最後の最後でこういったことは起きる。
少しでも冷やさなきゃと
アイスノンがわりに冷たい手を
オデコにあてがいながら 駅へと向かう。
手のひらはすでに ふくらみを感じている。
『すっごい “ばこーーーん” って音しましたね ふふふ。
あ、笑っちゃいけないんだけど…すみません…ふふふ』
同い年の女の子は込み上げてくる笑いをおさえられない様子。
“いいんですよ… 笑ってください…”
年上の女の子も 年下の女の子も
『大丈夫ですか?』『痛いですか?』
なんて優しい言葉をかけてくれるが
“はい…痛いですね…大丈夫かはよくわからないです…”
心の中で返事をしながら 口では
『あしたの打ち合わせが心配…』
と呪文のように唱えていた。
あの時 あたしはひたすら恐怖心と戦っていた。
タンコブの内出血が重力で下がりしばらくの間
目の周りが真っ青だった人を知っている。
そのことを瞬時に思い出し その事ばかり心配していた。
これからの一ヶ月は 神戸に行ったり
台湾に行ったりと いろんな事が目白押しなのだ。
だいいち明日はずっとたのしみにしていた
銀座でおいしいお昼ごはんを食べながらの
打ち合わせが入っているのだ。
ついさっきまで たのしくおしゃべりしていたみんなが
各駅停車で帰る中 あたしは一人になりたくて
途中で急行に乗り換え 別れた。
こういうのを空気の読めない人というのだろうか。
いや むしろ読める人というのだろうか。
色々考えていたら 頭が痛くなってきた。
青あざ云々よりも もしかして脳細胞を
心配するべきだろうか…
そういえばさっき返したお直しに
脳細胞柄みたいなマフラーがあった。
無数の虫喰い穴を 柄に馴染むようにと
ビーズと刺繍で補修した。
あたしの脳細胞も キラキラしているのか知らないが
目の前をキラキラチカチカしたものが飛んでいた。