第17回 《 愛とか恋とか 》 |
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こんなにハートだらけの服 みたことがない。
こんなスカート 幸せじゃなかったら履けないな。
その通り 彼女は新婚さんだった。
自転車に乗っていて 裾を車輪に巻き込み
ビリッと破けてしまったらしい。
その光景を勝手に想像してみたが
まったく悲観的な画が浮かばない。
“きゃー 破けちゃったー”
笑っている顔さえ目に浮かぶ。
それならと裂けた裾部分は切りとってしまい
かがったところに じゃらじゃらビーズで
うれしそうなフリンジをつけて
途中の裂けたところには
ハートの半分を編みつけた。
ここ最近 愛とか恋とかで まわりが慌ただしい。
運命の出会いをした人。一緒に住み始めた人。
結婚の約束をした人。入籍した人。
しかし 79年生まれの女性から
そういう話をとんと聞かない。
79年生まれの女性はなぜか
独り身の人が多い。
同級生でもなにかあるのは
早生まれの80年生まれの率が高く
前後5才差ほどの女の子達が集まっていても
すごい確率で79年生まれの女の子は独り身だ。
休みの日に集まれる時間があるのだから
そうなるに決まっているという話もあるが
《1979の呪縛》あたしはひそかにそう呼んでいる。
三日間滞在した神戸から
東京に帰る夜行バスの出発時間まで
スターバックスのカウンター席で
こんなことを書いているのだが
1つ空席をはさんだ となりのカップルが
人目もはばからず いちゃついていて困っている。
50代半ばといったところだろうか。
手前の女性は完全に彼の方に
身体を向けているので背中しか見えないが
その向こうの男性が 彼女に向ける甘い顔。
その顔がこちらに丸見えなのだ。
見ちゃいけない気がするし
はっきりいえば みたくもない。
背もたれにもたれるように座り直し
彼女を壁にして彼の顔が消えるよう試みる。
すると男性は体勢を変え こんどは背もたれに
もたれるものだから また甘い顔がはみだしてくる。
それならと こんどはこっちが前のめりになる。
すると今度は彼がまた前のめりになる。
“わざとやってるでしょ!”
叫びだしそうな気持ちを抑えて
かれこれ30分 この攻防を続けているのだが
いっこうに彼の姿が視界から消えることはない。
こんなにもイライラしているのは
あたしだけだということに突然気がついた。
彼にはあたしなんかまったく見えていない。
愛しい人を目の前にすると余計なものは
視界から勝手に排除されるのだろう。
“年齢なんてものは関係ないのだな”
じっと座っていられないほどに
彼女のことを全身で大好きな彼と
戦っているつもりだったが
得意の独り相撲だった。
《1979の呪縛》
この呪い 彼らくらいの年齢になる頃には
みんな無事に解かれているといいのだが。