第25回 《 はらり はらり 》 |
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気がつくと体中 花びらだらけだった。
と いうとロマンチックだが
ガクや芝生も混じっていてどうにも汚らしい。
2時に着いたから かれこれ1時間半がたつ。
ずいぶんと陽はやわらかくなり
風も少し冷たくなってきた。
4月13日 水曜日 予想最高気温は21℃。
おとといは母が友人と きのうはお店の子たちが
みんなで仲良くやってきたこの場所に
きょうはあたしが ひとりでやって来た。
イセタンの地下を流し マルイの一階にある
ル・プチメックというおしゃれなパン屋で
ローストビーフと青カビのサンドイッチ
ミルクフランス、クロッカンを買う。
温かいコーヒーを買うつもりで
わざわざマグを持ってきたのに
あると思いこんでいた場所に
スターバックスは見当たらず
しかたがないから いちばん近いコンビニで
脂肪の吸収をおさえるという
黒烏龍茶を気休めに買ってみた。
たくさんの笑顔がこちらに向かって歩いてくる。
午前中から来ていた人たちだろうか?
その流れに逆らい たどりついた券売機で
200円の入場券を購入し 園内に足を踏み入れる。
一瞬にして空気が変わった。
入り口付近はブルーのシートが敷き詰められている。
この辺にあたしの場所はないな ぐんぐん奥へ向かう。
芝生のところがいいな ぐんぐん入っていく。
これより先に はたしてあるのだろうかと
不安になり始めた頃 大きな木の下に
あたしの場所をみいつけた。
10m右隣にカップル 5m左隣に女の子2人。
きちんと準備してきました感 が恥ずかしくて
さっと取り出した雑誌のおまけのレジャーシートを
4つ折りのまま敷き いそいでその上にお尻をのっける。
“よし うまくこの空間に馴染めたぞ ”と
自分を褒めるが こんな小さなスペースじゃ
荷物もコートも置けないことにすぐに気がつく。
やっぱりちゃんと敷こうかな…
意を決して 出来るだけスマートに すくっと立ち
すばやくシートをぱさっと開き 再び腰を下ろす。
せっかくうまく開けたが 最初の4つ折り座りせいで
地面にふれた部分に芝生がびっしり くっついている。
払っても払っても 静電気のせいでなかなか払えない。
もっとかっこ良く ひとり花見をしたかったのに…
もういいや 靴を脱ぎ 投げやりに足をほうり出す。
上半身を反らし ぐいっと顔をもちあげて
くらくらするほど まぶしい陽射しを従えた
満開の桜を全身でうけとめる。
陽が落ちる前に帰るつもりで着てきた
裏なしのコートでは まだ少し肌寒い夜道を歩きながら
今朝 電車から見た 8分咲きの桜のことを思う。
どこかにあるはず…帰宅早々コートも脱がずに
ごちゃごちゃの机の引き出しをひっくり返す。
いきしなに世界堂で買った
赤・青 2冊組100円のメモ帳には
1年前の春の日の覚え書きが 小さな字でびっしり
6ページにわたって綴られていた。
読み進めページをめくるたび
一枚 また一枚 はさんであった
桜の花びらが舞い落ちる。
はらり はらり
“わたし桜だったって知ってました?”
年に一度だけ自己アピールをしているようで
さくらは好きだ。
しかし潔く散ったあとにやってくる
あの毛虫はなんとかならないものだろうか。
一度うしろ首を刺されたことがある。
熱を持ったぶつぶつぶつぶつ…
皮膚の感触を思い出すたびに
頭の皮膚まで鳥肌が立つ。