第28回 《 ひっそりこっそり 》 |
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知人経由で海外からやってきたお直し依頼。
どこをお直しするんだろう。初見ではわからない。
手紙を読んで なるほど。襟ぐりの縫い目が裂けていた。
前身頃に織り込まれた大きな人が印象的なワンピース。
どこかの国の民族衣装のようでもあるが
ほんとのところはわからない。
きれいに直すにはあまりに簡単なお直しだったが
なにか手を加えられるために
わざわざ日本にやってきたのだから
なるべく期待にこたえなくちゃと
持ち主ではなく ワンピースの上でたたずむ人の
ひとなりを想像しながら 策を練る。
『みんながわたしのことをみてきます。
みんながわたしに興味を持ち 声をかけてきます。
わたしはこんなナリをしていますが
ほんとうは人見知りで 恥ずかしがり屋です。
出来ることなら目立たず生きていたかったのですが
なにがどうして 派手な衣装でこんなところに
もうずいぶんと長いこと 立たされています。
ひとりぼっちです。』
ワンピースの人の声を聞き
ふむふむそれならばと もとのサイズより
うんと小さな3センチほどの分身を編んでやる。
襟ぐりの裂け目を綴じながらレース針で縁編みをし
分身が入れるスペースを残しておく。
時々 表の世界がみたくなったら
こっそり出てくればいいよと 小さな肩をぽんと叩き
表地と裏地の間にできた隙間に身を潜めさせ
持ち主の待つ 母国へと送り出した。