第30回 《 くつ底のにじ 》 |
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夜中から降り続いた大雨がウソのように突然あがり
窓に残る水滴が陽光に照らされて きらきら輝く
といった ベタな光景に誘われて朝の散歩にでかける。
足元は履き古したスニーカー。
縫い目はところどころ糸が切れ
足の甲のしなり具合で なかの靴下がちらりと覗く。
もう他のものは履けないくらい 履き心地がよく
あたしの足にぴったりのスニーカー。
新しい素材が出るたび買い足して
4足ほど履き潰してきたのだが
製産終了になってしまったのか
ここのところ とんと見かけない。
しかたなく ぼろぼろの最後の一足を
毎朝の散歩に履きつづけていた。
…つめたい
水たまりに はまったわけではない。
ただ一歩地面を踏みしめただけなのに
じんわりと靴下が水分を吸いあげる。
…もしかして
左足からネズミ色のスニーカーをはずし
掲げた靴底を片足立ちで覗き込む。
すり減って空いた2センチほどの穴。
その向こう側には
いまにも消えそうな たよりない虹がみえる。
足指の下のところ。腹というのだろうか。
いくつもの靴下のその部分に穴があいていた。
同時に寿命がやってくることに
不思議だなぁと思ってはいたものの
おろしたての靴下にまで穴があき
なにかがおかしい と
うっすら気づき始めたころだった。
まさかこんなにもすり減っていたとは…
穴の周りの靴底も 水餃子の皮のように
ペラペラと薄っぺたくなっていた。
靴下の裏に穴があいても
あまり気にせず履いていた。
人の家に招待されるタイプでもないし
靴を脱いで入るようなごはん屋さんにも縁がない。
だけど真新しい靴下にあいた穴はさすがにショックで
これ以上大きくならないようにと応急処置。
編みためてあった小さなモチーフのぐちゃぐちゃの中から
白いクモのようなモチーフと
太陽に見えなくもない黄色いマルを抜き出し 穴をふさぐ。
こんなに てきとうなお直し いいのだろうか。
いいのです。自分のだから。