第42回 《 8月の記念日 》 |
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この季節 開店直後はそんなに
混まないことを知っていて12時過ぎに入店し
小さなひとり席にちょこんと着く。
机の上 古いカゴの中身は手芸の道具。
銀色の固く閉じた2つの箱には
色とりどりのたくさんの糸が詰まっている。
店の中で仕事をしようなんて
考えてもみなかったけれど
内装を担当した しょうたろうさんは
『こんな席でチクチクしてたらかわいいよねー』
と 仕事机のような席をつくってくれた。
実際にここで作業をしたのなんて
数えるくらいなものだけど
読書や書き物に没頭したい
おひとりさまには居心地がいいようで
ときどき店の前を通りすがりに覗き見すると
埋まっていることが多かった。
記念日とかを あまり気にするほうではないらしく
こんなに近くにいながらも
きょうで7周年だということをほんの数日前に知った。
めずらしく ちゃんとお客さんになってみようと
お茶とお菓子のセットを注文する。
お菓子は2年くらい前まであたしが毎日つくっていた
牛乳ゼリーの抹茶ソースをお願いして
いつもなら なんでもいいですと注文する飲み物も
きょうはほんとに飲みたいものをきちんと頼む。
そんなシナリオを思い描き 開店5分後にやってきたら
座る予定のその席にはすでに先客がいらっしゃった。
その後もこの暑い中を わざわざ訪れてくれる
お客さんの数は増え続け お店の中は明るくなる。
7年前のきょう 準備不足でスタートし
胃が痛くなるような場面になんども遭遇した。
母を助けてくれる 店のおんなの子たちのおかげで
落ち着いてお茶が出来るようになったことに
しみじみ感謝しながら 店を後にした。
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*7年前 閉店時に中が見えないようにと
おおいそぎで刺繍した のれんのような布は
いつかフチの始末をきちんとしなきゃと思いながら
毎日使うものだから いまでもずっと切りっぱなしのまま。 |
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