第48回 《 髪をなびかせ 》 |
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“ あ、また この匂い ”
ふっと 顔をあげたり
すくっと 立ちあがるとき
ふわり あたたかく懐かしい匂いがする。
30年ぶりに短く切った髪の毛は
伸びたとはいえ まだ
むすべるほどまでにはなっていない。
太陽の下 髪をなびかせ歩くと
洗濯物と同じように 太陽の匂いを
髪も纏うのだということを初めて知った。
その匂いを感じるたび
“ はやく返しに行かなくちゃ… ”
展示のため お直し済みのズボン本体と
一緒に借りた アンダーズボンの方だけを
高山さんにずっと返しそびれていることを
思い出し 反省する。
夏は このズボンをしょっちゅう履いていて
ガシガシ 洗濯をしていたら ウエストのヒモや
ポッケのフチがすり切れしまったという。
繊維状になるくらいすり切れたヒモを
綿のテープではさみ いろんな色の糸でとめていく。
ポッケのフチも ちくちく かがる。
ことしの夏も ズボンは活躍してくれただろうか。
なんど あのベランダで 太陽に照らされ
ゆらゆら風にたなびいたのだろう。
もうしばらく会えていない 高山さんのことを思うたび
ほらまた 鼻の先から 太陽の匂いがしてきた。
“ 他ので代用してるから全然いつでも大丈夫 ”
ずいぶん前にそういってくれた言葉を
真に受け 甘えすぎていていたけれど
そろそろ 髪をなびかせ 届けにいこう。