横尾忠則さんは過去の糸井重里との対談で、
「生活と芸術は切り離して考える」と
発言なさっていました。
芸術の達成を、人格や人生の達成とするのは、
勘違いである、と。
では「美術家・横尾忠則」の生活とはなんなのか?
糸井重里とのおしゃべりのなかに、
そのヒントが見えるかもしれません。
過去のふたりの打ち合わせと対話の音声を
いま掘り起こし、探っていきたいと思います。
▶︎横尾忠則さんプロフィール
- 糸井
- 横尾さん、マッサージの時間を
いっそ2時間にしたらいかがですか?
- 横尾
- いや、それは長いよ。
ぼくのマッサージをやってくれてる人が
言ってたんだけど、
なかには5時間やる人もいるらしいね。
とにかくやせたいんだって。
毎回5時間だよ。オイルマッサージだけど。
- 糸井
- 毎回ですか。
やる側もたいへんですね。
- 横尾
- たいへんだよ。
その間(かん)休憩なし。
5時間ぶっつづけで、週2回。
半年近くやって、結婚したらしい。
どのくらいやせたかは知らないけど。
- 糸井
- そこは聞いてないんですか(笑)。
- 横尾
- たぶん、結婚相手の男性が彼女に
「やせろ」と言ったんじゃないかと思う。
そんなやつと、結婚しなきゃいいのにさ。
- 糸井
- ねぇ。
- 横尾
- よっぽどお金持ちなんですよ。
オイルマッサージって、
たしか1時間8千円くらいするんです。
5時間だと、1回4万円ですよ。
- 糸井
- そうですね。
- 横尾
- 4万円で週2回で8万円でしょ、
それが1ヶ月4回で32万円。
そうとうお金持ちですよ。
- 糸井
- なんだか、
運転免許最短コースみたいな感じですね。
- 横尾
- それはぼく、よくわかんない。
- 糸井
- 値段的に同じくらい、という意味です。
- 横尾
- そうなの?
ぜんぜん言ってる意味がわかんない。
運転のこと、わかんないからさ。
- 糸井
- 運転免許を取得するには、
30万円くらいかかるんですよ。
- 横尾
- 「あ、そうですか」って、
言うよりしょうがない。
- 一同
- (笑)
- 糸井
- ひとりの人が自分に投資する額として、
運転免許はわりと通じるかなと思ったけど、
横尾さんは自転車の人でしたもんね。
- 横尾
- うん、そうね。
- 糸井
- 横尾さんにとって、30万円単位のものは
いったいなんでしょう。
「これに30万円使う」ということが‥‥。
- 横尾
- そんなん、ないよね。
- 糸井
- ないですね。
- 横尾
- ホテルでもそんなにかからないし。
飛行機も乗らないしさ。
- 糸井
- 安上がりな一生でしたね。
- 横尾
- そうですよ。
- 糸井
- ねぇ。
- 横尾
- ほんと、タクシーぐらいですよ。
- 糸井
- タクシーは30万円も乗らないでしょ。
- 横尾
- 乗らないけれども、唯一の贅沢はタクシーです。
どこに行ってもタクシーに乗ります。
贅沢は、そのくらい。
あとは、ホテルの部屋を、
ツインにしてもらうことがあるくらいかなぁ。
狭い部屋が嫌だからね。
- 糸井
- ホテルといえば‥‥思い出したんですが、
『うろつき夜太』が
前に復刻されましたよね。
ぼくはあの本を、古いのも含めて3冊は持ってますよ。
- 横尾
- 3冊全部『うろつき夜太』なの?
- 糸井
- はい。ぼくにとっては
「ああ、こんなことができるんだ」と
思わせてくれた本なんです。
復刻版も、パラパラめくったら、
「このとき、こんなこと考えたんだ」とか、
ワガママぶりとか追い詰められぶりとかがわかって、
すごくおもしろかった。
- 横尾
- ま、あれをやってるときは、
ホテルに缶詰めになってたね。
- 糸井
- そうそう、何号室にいるとか、
その絵まで描いてましたよ。
- 横尾
- そうそう。
366ね。3階の66。
- 糸井
- 朝になると、柴錬(柴田錬三郎)さんと、
お茶を飲むんですよ。
それが、時代小説の挿絵になってておもしろくて。
- 横尾
- 小説なのに、柴錬さん、
アイディアが出てこないときがあるわけ。
不眠症でね。
昼間は、どないしていいかわからないの。
それで、なんでもいい、どんな話でもいいから
ぼくにしゃべらせる。
その間(かん)ずーっと、何か考えてるみたい。
それでも書けないと、
「じゃあ、お茶を飲んでるこの状況を小説にしようか」
なんてことになったりするの。
だから、時代小説にぼくが出てきたり、
編集者が出てきたり、いろんな人が出てくるわけよ。
- 糸井
- その苦しまぎれぶりがほんとうにすごくて、
「そんなことがアリなんだ」と当時驚きました。
- 横尾
- 小説なのに、ぼくの挿絵のほうが
早くできるんだからね。
小説読んでから描くということは、
めったになかった。
- (明日月曜につづきます)
2017-09-17-SUN
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN