YOKOO LIFE ヨコオライフ

横尾忠則さんは過去の糸井重里との対談で、
「生活と芸術は切り離して考える」と
発言なさっていました。

芸術の達成を、人格や人生の達成とするのは、
勘違いである、と。

では「美術家・横尾忠則」の生活とはなんなのか?
糸井重里とのおしゃべりのなかに、
そのヒントが見えるかもしれません。

過去のふたりの打ち合わせと対話の音声を
いま掘り起こし、探っていきたいと思います。

▶︎横尾忠則さんプロフィール

第7回 断ろうと思って。
糸井
『うろつき夜太』を連載していたときは、
ふたりともずっとホテルにいたんですよね?
横尾
そうそう、缶詰めになってね。
週刊誌でやってたわけだから。
糸井
柴錬(柴田錬三郎)さんが小説書いて、
横尾さんが絵を描いて。
横尾
柴錬さん、原稿ギリギリなんだよ。
だけど、ギリギリでも、遅い人ではないんです。
締切にはちゃんと間に合う。モラリストです。
編集者はそういう意味ではあんまり苦労しなかったよ。
野坂(昭如)さんみたいに、
どこかに飛び出していっちゃうとか、
そんなことはなかった。
糸井
だけど、横尾さんの絵のほうが
柴錬さんの原稿より早くできちゃうんですね。
横尾
だって、6ページ分の絵を描かなきゃいけないから、
早く描かないと間に合わないわけ。
だいたいぼくは時代小説なんて
それまでやったことなかったから、
最初は断ったんだよ。
でも、編集者が
「横尾さんね、柴錬さんと仕事するってのは
大変なことですよ。
ああいう人といっしょにやるってだけでも、
魅力的じゃないですか」
なんて言うの。
そりゃぼくも柴錬さんには会いたいけども、
時代ものって、独特のタッチがあるでしょう。
糸井
しかも、その時代をよくわかってないと
描けないですよね。
横尾
そうそう。デッサンできるだけじゃダメなわけよ。
着物をどう着たとか、
刀の持ち方とかちょんまげの結わえ方とか、
そんなのぜんぜん知らないからさ。
しかも最初は、1ページだけの、
白黒の仕事だったんですよ。
「これ、画期的ですよ」って編集の彼は言うわけ。
確かにページを全部使った絵を描くのは、
当時の週刊誌にとっては画期的だったんです。
糸井
しかし結果はそれどころじゃないですよね。
横尾
それなんだよ。
糸井
なんですか。
横尾
ぼくはその話を断る手段として、
「全部カラーだったら描いてもいいけどね」
って言ったの。
糸井
あちゃあ。
横尾
そしたら断れると思ったわけ。
「そんなムチャ言わないでくださいよ~」
なんていって、おしまい。
電話切って、しばらくしたらかかってきて
「やろうじゃありませんか」
と編集の人が言うわけよ。
糸井
しまった(笑)。
横尾
「全部カラーでいいですよ」
しかも見開き3つ、6ページのカラーです。
糸井
それは現在でもありえない量ですね。
横尾
困ったなと思ったわけよ。
カラーで、時代劇でしょ?
白黒ならごまかせるけど、
えらいことになってしまった。
それでまた別の条件をつけることにしてさ。
「モデルがいないとぼくは描けません」
糸井
えぇぇぇ?
横尾
しかも、田村正和で。
糸井
えぇぇぇ?!
横尾
モデルを編集者がやったって、
描く気がしないからね。
そうしたら、田村亮さんならOKです、と
またこういう返事が来たんです。
糸井
すごい。
横尾
そうやってどんどんどんどん
向こうが条件をクリアしてしまった。
糸井
それはもう、やるしかないですね。
横尾
そしたら編集の人が最後に
「こちらからもひとつ条件を出していいですか?」
と言ってきたの。
興味あるから
「どんな条件?」
って訊いたら、
「柴錬さんと横尾さんのおふたりには、
1年間、高輪プリンスホテルに
缶詰めになってもらいます。
でも、普通の缶詰めじゃなくて瓶詰めです」
なーんて言うわけ。
糸井
瓶詰めってなんですか。
横尾
「缶詰めは、外から穴を開けなきゃいけない。
瓶詰めは内側からもフタが開く状態のことです」
糸井
なるほど、なるほど。
横尾
それが向こうの条件で、
それでふたりとも瓶詰めになって。
糸井
柴錬さんも、よく引き受けましたね。
横尾
柴錬さんは、あそこから坂を
トコトコ降りたところが
自分のとこの家だったからね。
だから、なぜ近所のホテルに缶詰にするのか、
そこまでやる必然はなかったと思うんだよ。
だけどまぁ、小説をしょっちゅう書くんだから、
ご家族と毎日顔をつき合わせるのも、
めんどくさいかもしれないでしょ。
糸井
うーん、横尾さんにしても、
1年間も缶詰じゃ、たいへんですよね。
横尾
だけど、瓶詰めだから、
家に帰ろうと思ったら帰ってもいいんだよ。
旅行いってもいいし、どこいってもいい、
よその仕事してもいいですよ、って言うからさ。
糸井
見開き3つ分は、缶詰になっていると、
旅行いったりしても描けちゃうもんなんですか。
横尾
描けますよ。
3日も4日もかからない。
1日で描けちゃうよ。
だけどね、ぼくはこういう話自体、
あんまり興味がないんだよ。
だって、ぼくは何度もこのことを
糸井さんにしゃべってるからさ。
糸井
え?
横尾
この話、今日がはじめてじゃないから。
糸井
この話?
横尾
前もしてるはずなのよ。
糸井
いや、そうかもしれないけど、
きっとそれぞれにどこかがちょっと違うんですよ。
横尾
いや、
ぼくは同じ話をしてるんだけども、
聞く側が違う、
ということなんだと思う。
糸井
ああ、なるほど。受け手の聞き方が。
そうかなぁ。
横尾
うん、ぼくは全く同じ話をしてる。
糸井
ホントかなぁ(笑)。
横尾
ホントですよ。
言葉づかいが違う程度でさ、
中身はそのまま同じにしゃべってるよ。
糸井さんは、その間(かん)にさぁ、きっと。
糸井
違う興味になってるんでしょうか。
横尾
そうだよ。
(木曜につづきます)
2017-09-18-MON