横尾忠則さんは過去の糸井重里との対談で、
「生活と芸術は切り離して考える」と
発言なさっていました。
芸術の達成を、人格や人生の達成とするのは、
勘違いである、と。
では「美術家・横尾忠則」の生活とはなんなのか?
糸井重里とのおしゃべりのなかに、
そのヒントが見えるかもしれません。
過去のふたりの打ち合わせと対話の音声を
いま掘り起こし、探っていきたいと思います。
▶︎横尾忠則さんプロフィール
- 糸井
- 横尾さんの絵はいま、
神戸の横尾忠則現代美術館に
たくさん収蔵されているんですよね。
- 横尾
- あそこにある絵は、寄贈と寄託、両方なんです。
「なんとなく」で寄贈してるから、
正確な点数はわからないけど、
200点くらいは寄贈なのかな?
あとの絵は寄託です。つまり、預けてるわけ。
- 糸井
- 預けている絵と寄贈の絵は、何か違いがあるんですか?
- 横尾
- 寄託作品は、売り買いが自由にできるんです。
もし誰かが欲しいと言った場合、自由に動かせる。
美術館にあげてしまったやつを
売るわけにはいかないからさ。
あとは、作品の中に、
「これに手を加えるとおもしろいかな」
という絵があって、
それは一応寄託にしてる。
けれども、
いつか手を入れるだろうなと思っているだけで、
結局、手を入れないまま死んじゃうかもわかんない。
時間ないし、何もできないからさ。
最近は、人が死ぬのが早いでしょ。
- 糸井
- だけど、絵描きさんって
けっこう長生きですよね。
- 横尾
- どっちかっていうとね。
- 糸井
- それはやっぱり、好きなことをやっているからですか?
- 横尾
- あんまり社会的なことに興味を持たないからじゃない?
外に興味を持つと、
煩わしいことと関わらなきゃいけないから。
- 糸井
- ああ、そうですね。
- 横尾
- 最初から政治家だったり、最初から企業家なら、
それが商売だからいいと思う。
煩わしいことやったって、
ストレスにもならないだろうけど、
クリエイターはダメだね。
矛盾しちゃうわけ。
- 糸井
- 芸術家は、社会に関わらないほうが、
長く生きるにはいい、と。
- 横尾
- うん。
絵描きさんで長生きしてる人はみんな、
世の中にぜんぜん興味持ってないもんね。
ジョン・レノンみたいに、
世界を変えようとか、ああいうふうになると、
病気で死ななくっても、
そういう状況を作っちゃうわけよね。
アンディ・ウォーホールでさえ、
そういう状況を作ってしまった。
- 糸井
- そうですね。
社会があってこそ意味がある、というような方向に
行きたい気持ちもあるでしょうけど。
- 横尾
- そうだよねぇ。
(ヨーゼフ)ボイスっていう、
現代美術家がいるでしょ。
ボイスも政治に興味を持ったり、
緑の党を作ったり、
なんやかんやして、
65ぐらいで死んでるわけですよ。
- 糸井
- そうか‥‥。
- 横尾
- 平山郁夫さんだって、
長生きしたほうだとは思うけど、
東山魁夷に比べたらずっと短い。
東山魁夷は、ものごとを考えてない。
もし平山さんが、根っからの政治家だったら、
もっと長生きできたと思う。
- 糸井
- そうすると、流れ的には、
横尾さんは長生き派になりますね。
- 横尾
- そういうふうになりたいと思っているんだけれども、
学問や世の中に対する興味関心が、
やっぱり頭の中にありますね。
だけどそれを行動に移してどうこうすることは、
まずないです。
それでよかったと思ってる。
ぼくはだいたい、虚弱体質に生まれてるから。
- 糸井
- 横尾さんはいつも、
それをずいぶん強調なさいますよね。
- 横尾
- 虚弱体質だと、自分でわかるもん。
- 糸井
- この旺盛な創作の群れを見ても‥‥?
- 横尾
- 旺盛な時期は3年ほど前に終わったよ。
旺盛にやると、いまは
命を落としちゃうなと思う。
- 糸井
- いやぁ、そうでしょうか。
- 横尾
- だっていまは、
自分よりちっちゃい絵ばっかり描いてるんだよ。
小さい絵は、自分の範疇で操作できるんです。
自分より大きくなっちゃうと、
絵のほうに操作されてしまって、ちょっとヤバい。
けれども、大きい絵がまだ描けるか、
ちょっと試したくって、
やってみたくなることはあります。
それは色気としてある。
- 糸井
- 横尾さんが、誰かの絵を買うことって、
ありますよね?
- 横尾
- いろんな人の絵を買いましたよ。
でもそれが‥‥、
絵を買った日は寝れないんだよ。
- 糸井
- 寝られないですか。
- 横尾
- 何日も寝られない。
寝られないからトイレに行って、
買った絵のある部屋に入って、電気つけて
ジーッと2時間ぐらい見て、また寝るんだけど、
やっぱりもう一回見に行こう、とか、やっちゃう。
絵を買ってしまうとそんなことばっかりやるわけ。
- 糸井
- その怖さ、想像はしたことがあります。
ぼくも多少のお金を出して買ったことはありますが、
それはおもに版画だったんですよ。
- 横尾
- 版画はね。
- 糸井
- そう、違いますよね。
- 横尾
- あれはね、インテリアにできる。
- 糸井
- それから、デヴィット・リンチ監督が描いた絵も
うちの事務所に飾ってあります。
それは、リンチが映画監督だという
安心感があるんですよ。
- 横尾
- そうね。やっぱり映画のほうに命かけてるから。
- 糸井
- その怖さがない、というか。
- 横尾
- ある人が描いた絵を、
家の中で所有しているというだけで、
自分の人生──人生っていったらおおげさだけど、
生活や意識に食い込まれるんですよ。
作品がまるで自分の一部のような気がしてくるんです。
絵を投資の対象にしてる人は別だけどね。
- 糸井
- 投資の人はもう、
絵の世界にあんまりいないんでしょう?
- 横尾
- いや、いるいる。
日本だと、ほとんどがコレクターですよ。
- (月曜日につづきます)
2017-09-24-SUN
© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN