横尾忠則さんは過去の糸井重里との対談で、
「生活と芸術は切り離して考える」と
発言なさっていました。
芸術の達成を、人格や人生の達成とするのは、
勘違いである、と。
では「美術家・横尾忠則」の生活とはなんなのか?
糸井重里とのおしゃべりのなかに、
そのヒントが見えるかもしれません。
過去のふたりの打ち合わせと対話の音声を
いま掘り起こし、探っていきたいと思います。
▶︎横尾忠則さんプロフィール
- 糸井
- 絵は、ときどき「企業が買う」というケースが
ありますね。
- 横尾
- あれはほとんどが税金対策でしょ。
身を削ってないお金だから、
切実さはないかもわからないね。
あのね、ロサンゼルスに、
フレデリック・R・ワイズマンという、
大コレクターがいるんですよ。死んじゃったけどね。
その人は、結婚したときに、
4つの部屋をロサンゼルスで借りたんです。
どの部屋にも絵がないので、
奥さんとふたりで街へ絵を買いにいくことにした。
絵のことはぜんぜんわかんないから、
どっかの画廊で4点買って帰ったんです。
しかし1週間もしないうちに飽きちゃった。
また次の絵を買いにいって──、
そうしているうちに、気づいたら
大コレクターになっていたんです。
大コレクターになると同時に、
トヨタのディストリビュータにもなっていた。
アメリカのトヨタは、ワイズマンをとおして、
会社を6つも作っちゃうことになった。
- 糸井
- すごいですね。
- 横尾
- その人、ま、ぼくのところへも来たんだけれども、
「あなたのいちばん大きな絵が欲しい」
というんですよ。
絵は見ないんです。
見なくても、いちばん大きいのを買ってくれた。
そこでぼくは
「あなたなんで、こないなったんですか?」
と訊いてみました。
最初は奥さんと絵を買いにいって、
だんだんだんだん興味をもって、
画集も買ったりしているうちに、
美術的な考え方が身について、
自分の商売の世界にも影響しはじめたんだって。
そしたらまわりから、
「ワイズマンの言うことはおもしろい」
ということになっちゃって、なぜか商売のほうも
「あれにまかせておけば大丈夫」
と言われるようになって、
大きな6つの会社の
社長さんや会長さんになっちゃった。
- 糸井
- へぇえ!
- 横尾
- おもしろいよね。
- 糸井
- さきほど、芸術家が
社会と関わりをもたないほうがいいという
話がありましたけれども、
その逆の、社会に生きている人が
芸術に関わりをもつのはいいことなんでしょうね。
- 横尾
- きっとそうだよね。
ぼく、その人の家へ行ったんですよ。
日本の大使館とかアメリカ大使館とか、
あんなものよりもっと大きかった。
家の中に谷があって川が流れてて、すごいんです。
各部屋に絵がありました。
そしてとうとう美術館も作りました。
サンフランシスコの近代美術館の館長をひっこぬいて、
自分のところの美術館の館長にさせちゃった。
そのぐらい、信頼の厚い人だった。
- 糸井
- そうかぁ‥‥、
人を動かせる人だったんですね。
- 横尾
- そうだと思う。
美術の発想が、影響してるんじゃないかな。
- 糸井
- 引っこ抜かれた人だって、喜んで来たんでしょうね。
- 横尾
- 定年だったかもわからないけどね(笑)。
- 糸井
- 横尾さんは、絵を買うとき、
値段を気にしますか?
- 横尾
- まずぼくは、家にお金が
いくらあるから知らないんだよ。
- 糸井
- わははは。
- 横尾
- うちのかみさんしか知らない。
だから、買うものが
800万なのか1千万なのかもわからないうちに
「これが欲しい」と言うの。
お金はかみさんが払うから結局わからない。
- 糸井
- 横尾さんは、ずっと
「お小遣いで暮らす人」ですね。
- 横尾
- あんまり使わないからね。
- 糸井
- 生活必需品で生きてる感じがしないです。
- 横尾
- いや、そういう絵のたぐいが、
ぼくにとっては生活必需品ですよ。
- 糸井
- ああ、そうかそうか。
- 横尾
- うん。
たとえばぼくが
UFOが好きだったときは、
UFOが生活必需品だったもん。
- 一同
- (笑)
- 糸井
- なるほどね。
- 横尾
- あれがないと困るんです。
- 糸井
- そうなんでしょうね。
- 横尾
- 「昨日は見たけど、今日は見てないじゃないか!」
ということになるわけですよ。
- 糸井
- UFOがもっとも身近なものであった、と。
- 横尾
- うん。
いまはもう関心がないから、
UFOが出たって、どうってことないけどね。
まぁ、関心がないから出ないんですよ。
関心があるときに、それが出る。
- 糸井
- ある意味、家族だったんですから。
- 横尾
- あのね、みなさん、
UFOが幻想だとか無意識とか、
ややこしいこと言うけどさ、
そんな教養的な話じゃないんですよ。
本当に出るんですよ。
あんまり、ムキになってやってると、
あれだから……。
- 糸井
- 違う次元の話になりますからね。
- 横尾
- そうなんですよ。
- (木曜につづきます)
2017-09-25-MON
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